トランプ大統領は金正恩氏の「10万人抹殺」を止められるのか
米下院のジェリー・コノリー議員(民主党)とマイク・コナウェイ議員(共和党)は6日、北朝鮮の政治犯収容所撤廃を求める決議案を提出した。5月に予定されている金正恩党委員長とトランプ大統領との米朝首脳会談の行方が注目されている今、まさに時宜に適した動きと言える。
政治犯収容所は、北朝鮮の恐怖政治の象徴だ。
かつて、政治犯収容所に警備隊員として勤務し、その恐怖の実態を告発し続けている脱北者・安明哲氏によれば、「そこでは人間が想像しうる、ありとあらゆる残酷なことが行われていた」という。まさに、実在する「地獄の一丁目」である。
国連の北朝鮮人権調査委員会(COI)が2014年2月に発表した最終報告書によれば、北朝鮮には4カ所の政治犯収容所がある。また、教化所に転用されたとの説がある施設がもうひとつあり、8万人から12万人の政治犯が収容されていると見られている。
実は1990年代には、北朝鮮には10カ所以上の政治犯収容所の存在が指摘されていた。また、収容者の数も20万人以上とされていた。とくに、1993年のフルンゼ軍事大学同窓会によるクーデター未遂や、1995年の6軍団クーデター未遂が「血の粛清」に遭った際には、その容疑者の一族郎党が連日千人単位で送られ、収容者が大きく増えたという。
それが今や、施設の数は4~5カ所に減り、収容者も半減したのだから、「多少なりとも改善しているのではないか。金正恩党委員長は、収容所を縮小していくのではないか」と思えるかもしれない。
しかし、それは違う。政治犯収容所が減っているのは、単に運営の効率化のために過ぎない。それぞれの施設は大規模化し、拡張されている。また、収容者数が減ったのは、1990年代の大飢饉に際し、何の救済もされず、飢え死ぬままに捨て置かれたからだ。
安氏によれば、北朝鮮当局は「国際社会の圧力などの理由から国内で合理化を図ったもので、残った管理所を拡大する方針を取っている」のだという。
また、過去には収容者が釈放される例もあったのが、最近では例外なく「無期刑」とされているそうだ。元収容者が脱北し、管理所での残虐行為が国際社会に告発されるのを防ぐためだ。
そうした実態にも増して、安氏の話で衝撃的だったのは、「仮にいまの体制がもたないと北朝鮮の指導部が判断したら、証拠隠滅のため、収容者を皆殺しにするだろう。私もそのように教えられた」との説明だ。いま、金正恩氏は対話に舵を切っているが、国際社会との融和を進める上で、政治犯たちの存在は足手まといになりかねない。
忘れてならないのは、北朝鮮が国際社会による経済制裁を耐え抜き、核武装を達成してしまったのは、この国に民主主義がまったく存在しないからであるということだ。国民が、政策に対して少しでも不平を言える国であれば、国家の暴走には少なからずブレーキがかかる。
それを不可能にしているのが、まさに恐怖政治の象徴たる政治犯収容所なのだ。トランプ大統領が北朝鮮の非核化を真に望むなら、決してこの現実を素通りしてはならない。
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