北朝鮮で広がる「中国の水は危ない」デマで市民が右往左往
今年1月、世界保健機関(WHO)とGoogleは、人々に新型コロナウイルスに関する正しい情報を伝え、「インフォデミック」を防ぐために合同チームを立ち上げ、Googleでウイルスについて検索するとWHOのページが表示されるようにするなどの対策を始めた。
インフォデミックとは、感染症に関連した不確かな情報がネット上に溢れ、社会を混乱させ、問題の解決を妨げることだ。その解決法のひとつは、情報をできるだけクリアに公開することにある。全国民のほとんどが海外とつながっているインターネットへのアクセスができない北朝鮮とて、デマからは自由になれない。いや、むしろ政府の秘密主義による情報への渇望を補う手段として発達している口コミネットワークが、デマの温床と化してしまう。
両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、水道水をめぐり、デマとまでは行かなくとも、不確かな情報が市民を右往左往させている現状を伝えた。
恵山(ヘサン)市郊外の蓮峯一洞(リョンボンイルトン)では、山向こうの谷の泉で水を汲もうとする人が大勢いる。また、国境警備隊の第25部隊のそばにある井戸では早朝から深夜に至るまで水を汲もうとする人の列が途絶えない。
人々が泉や井戸に殺到しているのは、水道水に対する不信感のせいだ。市内で供給される水道水は、中国との国境を流れる鴨緑江の水を汲み上げ、消毒したものだが、市民は「なんだか気持ち悪い」と感じ、飲用を避けている。
WHOによると、新型コロナウイルスは水で感染が広がる可能性が極めて低い。きちんと消毒されていれば問題にはならないと思われるが、漠然とした恐怖心に加え、当局に対する不信感からこのような行動を取っているものと思われる。
鴨緑江の源は、民族の霊山、革命の聖地である白頭山だが、国境を接する中国から汚水やゴミが流れ込むことが懸念されているというのだ。元々、恵山の人々は、川から直接雪解け水を汲んで生活用水として利用してきた。しかし、今ではそういう人もあまり見かけなくなったとのことだ。
ちなみに白頭山から恵山までの中国領は人口希薄地帯で、汚染を引き起こすような施設は存在していない。また、吉林省政府の発表によると、省内での新規感染者は2月23日以降発生しておらず、感染者93人のうち、死者1人を除いて全員が治癒、退院している。そもそも、鴨緑江上流域の地域で、感染は発生していない。
それでも「冬には凍っていただろう悪いホコリが、氷が溶けて汚染物質が川に流れ込んで汚染されるのではないか」(情報筋)という見方がなされている。
政府の水質研究所は、鴨緑江の水の水質検査を繰り返し行い、上下水道事業所に特定の消毒薬を使うように指示を出すなどの措置を取っているが、「コロナにかかるかもしれない」という恐怖心が強く、川の水や水道水を使おうとはしないという。
世界中どこにいても、手軽に知ることができるこれらの情報だが、ネットにアクセスできない北朝鮮の人々は、中国の様子が手に取れるように見えるほど近いところに住みながらも、中国で何が起きているのか知ることができないのだ。
また、北朝鮮国内でも新型コロナウイルスの感染者、死者が発生しているとの情報があるが、当局は一向に認めようとしないことが、疑心暗鬼につながっている。
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