金与正命令に「人生を狂わされた」北朝鮮青年たちの絶望
北朝鮮の兵役期間の短縮に伴うトラブルが止まらない。
世界で最も長いとされる男性9〜10年、女性6〜7年の兵役を1〜2年短縮する今回の措置。兵士たちは喜ぶと思いきや、人生を狂わされたとの怒りを噴出させているのだ。その恨みから、脱営(脱走)を選択する兵士が急増している模様だ。
というのも、庶民層出身の兵士にとって兵役期間を全うすることは、立身出世に必要な朝鮮労働党の党員資格を得る、ほとんど唯一のルートと言える。ところが、今まさに入党の手続きを踏んでいた兵士たちは突然の兵役短縮で入党が叶わなくなり、自暴自棄に陥いっているのだ。
また、この問題を遡ると、金正恩総書記の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏が昨年、入党のハードルを上げるよう指示したところに行きつく。金与正氏は、上役にワイロを積んで党員としての義務を軽減してもらったり、あるいは入党推薦をめぐり軍の上官が女性兵に「性上納」を強いたりするなどの減少を問題視したとされる。
こうした入党手続きの厳格化と兵役短縮が重なり、兵役期間の終盤に差し掛かっていた兵士らが、人生計画を狂わされる結果につながったわけだ。
デイリーNKの朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内部情報筋によると、金正恩氏は最近、全軍に対して部隊別脱営者総合全数調査と、1年間にわたり定期報告を毎日行う体系の構築に関する指示を下したと伝えた。同時に、今年1年を脱営者を減らす年とすることに関する指針も下した。
これを受けて、軍の総政治局組織部は、各部隊に対して「(12月に始まる)冬季訓練の前に連れ戻せ」「行方については各部隊の政治部がすべて責任を負う」と強調したとのことだ。
これらの指示は、今年1月から3月に司法機関によって摘発された兵士の多くが無断外出者や脱営者だったという報告に基づくものだとされる。報告によると、脱営者を最も多く出しているのは、韓国と対峙する最前線の第1軍団と第5軍団、そして、海外にも展開する偵察総局だとされる。情報筋はその具体的な数に言及していないものの、金正恩氏が自ら指示を下すほど、深刻な状況にあるということだろう。
今回の兵役期間短縮は、今年1月の朝鮮労働党第8回大会で金正恩氏が提示した「国家経済発展5カ年計画」達成のための労働力を賄うために、繰り上げ除隊させた兵士を、誰も行きたがらない農村や炭鉱などに送り込む「集団配置」が目的と言われている。島流し同然の措置を嫌った兵士たちが、次々に逃げ出しているのだ。
一方、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)の第7軍団では先月、入党に向けて手続きを行っていた分隊長が、急に除隊させられ入党できなくなったことに恨みを抱き、党員登録課長の家にガソリンを撒いて放火、分隊長、課長とその家族、隣人ら20人が焼死する大惨事を引き起こしてしまった。
軍当局は、同様の不満を抱いている者が相当数に及ぶことに危機感を覚え、対象者が優先的に入党できるよう配慮を行うと宣言するなど、怒りを収めるのに必死だという。
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