南北対話のかげで餓死者続発…北朝鮮国民の「幸福」は遠い
今年2月初めから3月末にかけて、北朝鮮の協同農場で多くの農民が餓死していたことが明らかになった。これはちょうど、北朝鮮が韓国で行われた平昌冬季五輪に参加し、それに応える形で韓国から大統領特使団や芸術団が訪朝。金正恩党委員長の初訪中も行われ、朝鮮半島で対話ムードが高まっていた時期だ。
そんな時期に、どうして北朝鮮国内で餓死者が発生したのか。
北朝鮮では1990年代後半、「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉が発生。10万人単位の餓死者が出たと言われる。
その後、北朝鮮の食糧事情は大きく改善した。しかし、同時になし崩し的な資本主義化が進行したことで、貧富の格差が拡大。いくら働いても、市場で食べ物を買うことのできない層が出現しているのである。
そのような人々は、金正恩氏の失政や国際社会からの制裁の影響をもろに受ける。そして、今回の餓死者発生の原因は、「国家による収奪」にある。
北朝鮮の南部・黄海北道(ファンヘプクト)の住民によれば、「地元の協同農場では、2月初頭から餓死者が出始めたが、当局は当初、傍観しているだけだった。農繁期が近づくにつれ、死なない程度の食糧を支援しているだけ」だという。
別の情報筋によると、北朝鮮当局は「昨年秋から実施された新しい農業政策に従い、実際に農業を行う農民に対しては、国が1年分の食糧としてトウモロコシを1人360キロずつ、扶養する学生や65歳以上の老人には同じく109キロずつ配給することにした」という。
だが、「こうした1年分の食糧から各種『使用料』として10%を国が取り上げる」とし、さらに「特に昨年は協同農場に登録されている家族1人あたり、豚肉7キロを義務的に朝鮮人民軍(北朝鮮軍)に供出させ、できない場合には1年分の食糧から70キロを減らすという内容を事前に伝えなかった」と、国が食糧を奪っていくカラクリを説明した。
情報筋は続けて、「この結果、扶養家族の場合、手元に残るのはわずか28キロとなってしまう」と指摘。北朝鮮政府による強引な食糧徴発が、餓死者発生の原因であることを強調した。
北朝鮮では2012年にも、穀倉地帯の黄海南道(ファンへナムド)で数万単位の餓死者が発生した。当局が、金正恩氏の政権就任を祝う「どんちゃん騒ぎ」用の食糧を徴発したことで、極度の食糧不足に陥ったためだ。飢えた人々が家族の亡骸に手を伸ばす「人肉事件」の悲劇すら伝えられた。
それと同様の悲劇が、今も繰り返されているというわけだ。
朝鮮半島で対話ムードが高まり、武力衝突の危険が減ったのはひとまず良かった。しかしそのことと、北朝鮮の庶民がより幸福になれるかどうかは、イコールになってはいないのだ。
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