北朝鮮が国境で中国人を射殺…中国側部隊は完全武装で示威行動
1400キロに及ぶ北朝鮮と中国との国境地帯は、かつて北朝鮮女性の人身売買や密輸の天国だった。1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころから大規模に行われるようになり、経済や国内状況が落ち着いた後も続き、市場で出回る品物の9割が中国製という状況をもたらした。
また、密輸や人身売買を取り締まる側の国境警備隊が、ワイロを受け取り業者に便宜を図ったり、さらには主導的に密輸に関わるなど、官民一体となって違法行為に手を染めていた。
ところが、中朝両国は数年前から国境警備を強化し、徐々にこうした違法行為が困難になりつつあった。
そんな中、中国側の密輸業者が北朝鮮の国境警備隊に撃たれて死亡する事件が起きた。デイリーNKの複数の情報筋が伝えた情報を整理すると、事件の概要は次のようなものだ。
事件が起きたのは今年5月末、北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)と、中国の吉林省長白朝鮮族自治県を流れる鴨緑江でのことだ。
50代の中国人男性は、北朝鮮側の業者から品物を受け取るために国境の川に近づいた。それを北朝鮮の国境警備隊が発見し、何度か警告を発したが、従わなかったため銃撃。男性は死亡した。
中国の現地当局は事件の翌日、地域住民に対して文書を配布した。北朝鮮の秘密警察・国家保衛省が2月末に、中国の辺防部隊(国境警備隊)に対して送った通知文で、2度目の配布となる。新型コロナウイルスの流入を防ぐため、国境付近での活動はするな、さもなくば銃撃するというものだ。
中国側は当時、一定の理解を示す一方で、銃器使用については「絶対に反対する」と不快感を示している。しかし、それが通じなかった形だ。中国の情報筋は、今回の文書再配布に際して、「国境では写真も撮るな」との警告も発したと伝えている。
事件から3日後、完全武装した辺防部隊は、国境地帯に設置された監視カメラのチェックを行った。何らかの意図を持った示威行動と思われる。
中国当局は、遺族に若干の物資と現金2万元(約30万6000円)を見舞金として渡したが、その過程では「国は二度と賠償を行わない」との発言もあったという。
2014年12月、吉林省延辺朝鮮族自治州の和龍市で、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の将校が老夫婦4人を殺害する事件を起こしたが、遺族は中朝両国からの見舞金、賠償金の額の少なさ、両国の態度に不満を持ち、抗議活動を繰り広げた。今回の「二度と賠償しない」発言には、このような経緯が背景にある可能性がある。
なお、北朝鮮の国家保衛省は、中国側との電話で今回の事件に謝罪の意を示し、「現金ではなく鉱物などで見舞金の10倍を払う」と約束したが、履行された否かは不明だと情報筋が伝えている。
謝罪とは裏腹に北朝鮮の国境警備隊は、銃撃した兵士に「国家保衛省表彰」を送り、15日の休暇を許可、贈り物まで渡すなど、今回の件を「成果」とみなしているようだ。金正恩党委員長は、脱北に対して射殺を含めた厳しい対処を取るように指示している。
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