金正恩「ミサイル40発」連射の悲惨な結果
2016年1月1日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(当時、現在は総書記)は「新年の辞」を肉声で発表し、前年8月の韓国との軍事危機を振り返り、次のように語っている。
「祖国統一と北南関係の改善を望まない反統一勢力は、戦争策動に狂奔しながら交戦直前の危険極まりない事態をつくり出し、内外の大きな憂慮を呼び起こしました。南朝鮮当局は、北南対話と関係改善の流れに逆行し、われわれの『体制変化』と一方的な『体制統一』を公然と追求しながら北南間の不信と対決を激化させました」
このほかにも金正恩氏は、同じ「新年の辞」の中で「(昨年の)戦争の危険」「一触即発の危機」「昨年の8月事態」「全面戦争へと広がりかねない」などと、繰り返し8月危機に言及している。金正恩氏はトランプ米大統領が朝鮮半島近海に航空母艦を派遣した2017年の緊張については、このような振り返り方はしていない。
金正恩氏は、屈辱的な「敗北」を喫した8月危機を教訓とし、核兵器の戦力化を急ぐことを決断したように見える。その号砲となったのが、2016年1月6日に行われた4回目の核実験だ。また、同年から2017年11月にかけて実に40発もの弾道ミサイルの発射実験を行った。
その結果、遂に米国を射程に捉える大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成の域に到達させるが、この試みは北朝鮮にとってきわめて危険なものだった。
まず、国内で発射実験が行われないまま実戦配備されていた「ムスダン(火星10号)」の打ち上げでことごとく失敗(1回のみ成功)。見せかけだけの脅威であったことが露呈し、軍事力の空白が生じた。また、打ち上げの失敗時には事故も多発し、少なからず死傷者が出たと見られている。
そして何より、ミサイル試射の現場で陣頭指揮を取った金正恩氏は、その身を危険にさらした。金正恩氏の動きが事前に察知され、米軍のステルス戦闘機などの急襲を受ける可能性はゼロではなかったからだ。
そうした過程を経てICBMを完成させ、トランプ米大統領(当時)との史上初の米朝首脳会談を実現させた金正恩氏は得意満面だった。
だが、そこまでだった。
核兵器の威力をもって世界の注目を浴びた金正恩氏に、核兵器の放棄を選択できるはずもなかった。
2018年から翌年にかけて、金正恩氏はトランプ氏、そして韓国の文在寅大統領と繰り返し会談しながら、両国から何ら支援を得ることができなかった。かつて北朝鮮が経済的な困難に直面した際には、金日成主席も金正日総書記も外遊に出て、中国やロシア(旧ソ連)から支援を取り付けてきた。金正日氏は南北首脳会談により、韓国からも大規模な経済協力を獲得している。
核兵器開発では祖父や父親を凌駕する「実績」を挙げたように見える金正恩氏だが、経済的な利益の獲得では悲惨な結果が続いている。金正恩氏が「8月危機」の教訓に基づいて拍車をかけた核兵器開発は、北朝鮮にとって、より大きな危機を引き付ける要因になっている。
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