北朝鮮経済特区に「制裁不況の風」…「まだ生ぬるい」との指摘も
北朝鮮の北東部に位置する羅先(ラソン)経済特区。中国から30キロという地の利を生かして、アパレル業、水産加工業など多くの中国企業を誘致すると同時に、カジノや新鮮なシーフード目当ての多くの観光客を引きつけ、国内では平壌に次いで豊かな地域と言われてきた。
そんな羅先にも、一向に解除される気配のない国際社会の制裁が影響を及ぼしつつある。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が語る。
「制裁のせいで入るもの(輸入)も、出ていくもの(輸出)もブロックされてしまった。羅先の経済は以前と比べてダメになった。特にアパレル製品や魚を(中国に)売れなくなったため、ここ(羅先)の人たちはとてもつらそうにしている」
昨年8月に国連安全保障理事会で採択された対北朝鮮制裁決議2371号は、羅先の主力産業であるシーフード業界を直撃した。中国人観光客の多くは、地元では買えない日本海の新鮮なイカ、カニなどのシーフードを求めて羅先にやってきていたが、制裁でこれらを中国に持ち帰られなくなったため、彼らが地元に落とす外貨が減っているのだ。
首脳会談後の中朝関係改善で、中国では「北朝鮮観光ブーム」が起き、新義州(シニジュ)など国境に面した都市には中国人観光客が殺到しているが、羅先の人々はさほど恩恵が得られていないようだ。
水産加工業が苦しいのも同じだ。
「イカなどのシーフード、様々な水産加工品が羅先の経済成長を先導してきたが、今やたまに行う密輸で糊口をしのぐ有様」(情報筋)
制裁指定を受けていない農業にも影響が出ている。
羅先では、ビニールハウスでの野菜栽培が盛んで、その資材は中国から輸入していた。しかしどういうわけか、今年になってから輸入が難しくなったというのだ。密輸で取り寄せる手もあるが、ワイロなどが上乗せされ値段が上がってしまう。
羅先の野菜市場を巡り、中朝両国の農民間で激しい競争となっているが、良質な肥料などを手軽に安く確保できる中国の農民に軍配は上がる。今や、食卓に上がる野菜の7〜8割が中国産だと情報筋は語る。
「税関職員による過度なワイロの要求で、一部輸入品の価格が高騰している」(情報筋)
輸出入が減り、ワイロのネタが少なくなったため、1件あたりのワイロの額が上がってしまった模様だ。そんな状況で、農業用資材の価格が高騰するとなると、北朝鮮農業が競争力をさらに失ってしまうのは火を見るよりも明らかだ。売れないものを作ってもしょうがないと、現地では野菜栽培を諦める雰囲気が広がっているという。
情報筋は経済的な困窮を示すエピソードとして、次のような話をした。
「2年前までは高くともなんとか手が届いたバナナだが、今では1キロ12元(約200円)もするので、とても手が出せない」
北朝鮮の他の地域に住む人々から「何を贅沢言ってるんだ」と反発を買いそうな話だが、制裁前の羅先はそれほどリッチだったということを示している。
国際社会の制裁が北朝鮮国民の暮らしにどの程度の影響を与えているか、その全体像はわかっていない。平壌より地方の方がひどいことは確かだが、地方間でも差が激しいもようだ。
例えば、金正恩党委員長が力を入れる革命の聖地、三池淵(サムジヨン)に近い両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)では、手抜き工事問題が発生しつつも、多数の新築マンションが建てられるなど建設ブームに沸いている。
その一方で、鉄鉱石の輸出で潤っていた咸鏡北道の茂山(ムサン)は、鉱山の操業中断で経済的苦境に陥り、親が子を捨てて逃げ、多くのコチェビ(ストリート・チルドレン)が発生する事態となっている。
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