日の長さで子の雌雄を産み分けるミジンコ、その仕組みの一端を宇大が解明
マイナビニュース2024年4月9日(火)19時5分
宇都宮大学(宇大)は4月8日、日の長さで子どもの性が変化するという「環境依存型性決定」を行うミジンコにおいて、その制御に、生物の振る舞いに内因性の24時間のリズムをもたらす仕組みである概日時計が関与することを証明したと発表した。
同成果は、宇大 バイオサイエンス教育研究センターの阿部潮音大学院生(研究当時)、同・高畑佑伍大学院生、同・宮川一志准教授らの研究チームによるもの。詳細は、「Current Biology」に掲載された。
ミジンコは水棲の微小な甲殻類のことで、プランクトンの一種である。その生殖の方式は単為生殖と有性生殖の2種類を備えており、季節によって使い分けている。暖かくてエサも豊富な春から夏にかけては、メスは単為生殖で自分のクローンである同じ遺伝子を持った娘を産む。一方で秋になると、一部のミジンコはオスを産生し、そのオスがメスと交尾を行う。有性生殖で得られた卵は低温や乾燥に強い休眠卵となり、この状態で厳しい冬を乗り越えるのである。
オスを産む際にミジンコは、水温の低下やエサの減少、個体密度の上昇といったさまざまな環境情報を感じ取って「秋」を認識するが、中でも特に重要な情報が一日における昼と夜の長さである「日長」だという。ミジンコは昼が長い長日だとメスを産み、反対に夜が長い短日だとオスを産むことが確認されている。同じ場所・同じ日付であっても、気温(水温)などは毎年同じとは限らない。それに対し、日長に年ごとの変化はほとんどないことから、生物が季節を認識する上で最も信頼性の高い情報といえる。しかし、ミジンコがどのようなメカニズムで日長を感受し、オスとメスを産み分けているのかはまったくわかっていなかったとする。
生物の多くは、睡眠に代表されるように、地球のほぼ24時間の自転周期の環境変化に同調したリズムを有することが多い。24時間のリズムは、昼夜の気温差などの環境変化に直接応答しているのではなく、生物が備える「概日時計」が刻むリズム(概日リズム)を利用して作り出されている。また概日時計は日長の認識にも重要であると考えられており、昆虫類の季節性の繁殖や休眠に関与していることなどが明らかにされている。そこで今回の研究では、ミジンコをさまざまな条件で飼育したり、遺伝子を破壊したりするなどして、オスを産生するのかしないのかなどを確かめることにしたという。
今回の研究では、まず昼夜の時間の割合は短日と同じ(昼10時間:夜14時間)だが、概日時計の時刻の12時付近に昼の時間を差し込んだ条件でミジンコが飼育されたところ、昼夜の長さは短日と同じであってもメスが産生されたという。
この結果は、ミジンコが日長認識に概日時計を利用していることを示唆するものであるとの判断から、その証明として、これまでに例の無い概日時計を破壊したミジンコの作出に挑戦。概日時計を構成する時計遺伝子の1つである「period遺伝子」において、明瞭な約24時間周期の発現変動が示されていたため、ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」を用いて、同遺伝子を破壊したノックアウト(KO)ミジンコが作出された。同KOミジンコは、プランクトンが示す代表的な概日リズムである日周鉛直運動が持続できなくなっており、世界で初めて概日時計の機能が破壊されたミジンコの作出に成功したという。
このKOミジンコが日長にどのように応答するのかが調べられたところ、長日でも短日でもメスを産み続けることが確認されたほか、母親ミジンコがオスを産む際に体内で働くホルモンである幼若ホルモンが、KOミジンコに対し暴露されたところ、野生型のミジンコ同様に日長に関わらず、オス産生が誘導されたという。このことは、KOミジンコはオスを作る能力自体を失っているわけではなく、短日でもオス産生ホルモンである幼若ホルモンが体内で作られないことを示唆するものであり、実際にKOミジンコを、短日以外のオス産生シグナルである低餌量・高個体密度に晒したところ、やはり野生型と同様にオスを産生することを確認したという。
生物の繁殖に重要な要素すら環境で変化させてしまうミジンコの環境依存型性決定は、生物の環境適応のダイナミックな事例の1つだと研究チームでは説明しており、その制御機構や進化過程の解明は、常に環境が変動する地球上でいかにして多様な生物が生じてきたかを理解する上で重要だとしている。
なお、研究チームでは今後、オス産生時に概日時計を介したシグナルが、低餌量といったほかの環境シグナルとどのように相互作用しながら、下流のホルモン経路を活性化させるのかを調べていくことで、新たな環境応答が進化する仕組みに迫ることができると期待されるとしている。
同成果は、宇大 バイオサイエンス教育研究センターの阿部潮音大学院生(研究当時)、同・高畑佑伍大学院生、同・宮川一志准教授らの研究チームによるもの。詳細は、「Current Biology」に掲載された。
ミジンコは水棲の微小な甲殻類のことで、プランクトンの一種である。その生殖の方式は単為生殖と有性生殖の2種類を備えており、季節によって使い分けている。暖かくてエサも豊富な春から夏にかけては、メスは単為生殖で自分のクローンである同じ遺伝子を持った娘を産む。一方で秋になると、一部のミジンコはオスを産生し、そのオスがメスと交尾を行う。有性生殖で得られた卵は低温や乾燥に強い休眠卵となり、この状態で厳しい冬を乗り越えるのである。
オスを産む際にミジンコは、水温の低下やエサの減少、個体密度の上昇といったさまざまな環境情報を感じ取って「秋」を認識するが、中でも特に重要な情報が一日における昼と夜の長さである「日長」だという。ミジンコは昼が長い長日だとメスを産み、反対に夜が長い短日だとオスを産むことが確認されている。同じ場所・同じ日付であっても、気温(水温)などは毎年同じとは限らない。それに対し、日長に年ごとの変化はほとんどないことから、生物が季節を認識する上で最も信頼性の高い情報といえる。しかし、ミジンコがどのようなメカニズムで日長を感受し、オスとメスを産み分けているのかはまったくわかっていなかったとする。
生物の多くは、睡眠に代表されるように、地球のほぼ24時間の自転周期の環境変化に同調したリズムを有することが多い。24時間のリズムは、昼夜の気温差などの環境変化に直接応答しているのではなく、生物が備える「概日時計」が刻むリズム(概日リズム)を利用して作り出されている。また概日時計は日長の認識にも重要であると考えられており、昆虫類の季節性の繁殖や休眠に関与していることなどが明らかにされている。そこで今回の研究では、ミジンコをさまざまな条件で飼育したり、遺伝子を破壊したりするなどして、オスを産生するのかしないのかなどを確かめることにしたという。
今回の研究では、まず昼夜の時間の割合は短日と同じ(昼10時間:夜14時間)だが、概日時計の時刻の12時付近に昼の時間を差し込んだ条件でミジンコが飼育されたところ、昼夜の長さは短日と同じであってもメスが産生されたという。
この結果は、ミジンコが日長認識に概日時計を利用していることを示唆するものであるとの判断から、その証明として、これまでに例の無い概日時計を破壊したミジンコの作出に挑戦。概日時計を構成する時計遺伝子の1つである「period遺伝子」において、明瞭な約24時間周期の発現変動が示されていたため、ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」を用いて、同遺伝子を破壊したノックアウト(KO)ミジンコが作出された。同KOミジンコは、プランクトンが示す代表的な概日リズムである日周鉛直運動が持続できなくなっており、世界で初めて概日時計の機能が破壊されたミジンコの作出に成功したという。
このKOミジンコが日長にどのように応答するのかが調べられたところ、長日でも短日でもメスを産み続けることが確認されたほか、母親ミジンコがオスを産む際に体内で働くホルモンである幼若ホルモンが、KOミジンコに対し暴露されたところ、野生型のミジンコ同様に日長に関わらず、オス産生が誘導されたという。このことは、KOミジンコはオスを作る能力自体を失っているわけではなく、短日でもオス産生ホルモンである幼若ホルモンが体内で作られないことを示唆するものであり、実際にKOミジンコを、短日以外のオス産生シグナルである低餌量・高個体密度に晒したところ、やはり野生型と同様にオスを産生することを確認したという。
生物の繁殖に重要な要素すら環境で変化させてしまうミジンコの環境依存型性決定は、生物の環境適応のダイナミックな事例の1つだと研究チームでは説明しており、その制御機構や進化過程の解明は、常に環境が変動する地球上でいかにして多様な生物が生じてきたかを理解する上で重要だとしている。
なお、研究チームでは今後、オス産生時に概日時計を介したシグナルが、低餌量といったほかの環境シグナルとどのように相互作用しながら、下流のホルモン経路を活性化させるのかを調べていくことで、新たな環境応答が進化する仕組みに迫ることができると期待されるとしている。
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