前橋育英、選手権初制覇の裏にもう一つの物語…全員で勝ち取った“2度の頂点”
サッカーキング2018年1月9日(火)11時32分
選手とスタンドが一体となり、日本一の座を勝ち取った [写真]=大木雄介
山田耕介監督が3度、埼玉スタジアム2002の宙を舞う。「何とか優勝できてホッとしています。去年の0-5から始まったんですけども、選手たちは本当にとにかく1年間歯を食いしばって、ボールを追い続けた結果が今日は出たんじゃないかと思っております。泥臭くというか、技術とかスキルじゃない部分が最後のゲームで出た気がします」。悲願とも言うべき冬の日本一を達成した前橋育英。そんな彼らはその直前にも、忘れられないもう1つの“優勝”を経験していた。
12月17日、広島広域公園第一球技場。高円宮杯プレミアリーグ参入戦決勝で、プリンスリーグ関東を制した前橋育英は、ジュビロ磐田U-18と対峙する。この一戦には、もちろん“プレミア昇格”というAチームの大きな目標が懸かっているのと同時に、Bチームにとっても勝つか負けるかが、大きな違いをもたらすことになっていた。
そのBチームは11月上旬に終了した群馬県1部リーグで、桐生第一や前橋商業など県内のライバルを抑え、見事に優勝を達成した。本来であれば、県リーグ王者はそのままプリンス関東参入決定戦に進出することができるが、同じ高校やクラブのチームが一つのカテゴリーに同居することは許されていないため、Bチームが参入決定戦を戦うには、Aチームがプレミアに昇格する必要があった。
「僕らは選手権での全国制覇というのが大きな目標ですけど、県の1部もBチームが優勝して、県の2部もCチームが優勝したんです。自分たちが上がればプレミア、プリンス、県の1部と全部上がれるので、そこは本当に死ぬ気でやりたいですね」と語っていたのはチーム全体のキャプテンを託されている田部井涼。他のカテゴリーの想いも背負い、初戦の京都橘戦で5-0と快勝を収めたAチームは、磐田との決戦に臨む。
しかし、結果はPK戦での敗退。仲間の勝利を信じ、プリンス参入決定戦に向けてトレーニングしていたメンバーは、群馬の地でその報を知った。「育英グラウンドにいて、携帯で速報をチェックしていましたけど、負けたことがわかった時は、みんな倒れ込んでいましたね」とBチームのキャプテンを務めていた森田泰虎は、その時を振り返る。“倒れ込んでいた”3年生の中には、既に発表されていた選手権のメンバー30名に選ばれていない選手も含まれていた。彼らにとって高校生活最後となるはずだった公式戦の舞台は、残酷な形で奪われることとなった。
簡単に切り替えられるはずはない。ただ、Bチームの3年生は「僕らは選手権のために育英に入ってきて、プリンス参入戦のために入ってきた訳ではないし、勝負の世界でしょうがない部分はあるから、最後までしっかりみんなでやろうと」(森田)決意する。そんな彼らにはある大会への参加が用意されていた。その名も『前橋ユースチャレンジ』。選手権のメンバー外となった3年生で臨んだこの大会で、チームはグループリーグを突破。準決勝も制して、決勝へと勝ち上がる。
12月25日、前橋育英高校高崎グラウンド。京都橘と激突する決勝のスタンドには、トップチームの選手たちがメガホンを持って陣取っていた。Aチーム不動のボランチを務める塩澤隼人は「トップの3年生たちも『これで最後か』と思うと、アップ前からみんな泣いちゃってました」と明かす。ゲームは前半で2点を先制されたものの、後半に1点を返すと、終了間際に追い付く劇的な展開。PK戦も10人目までもつれ込みながら、激闘の末に“優勝”を勝ち獲ってみせる。
試合後、いつもとは逆の立場で応援した側も、応援された側も、みんな泣いていた。「同じ所で食べて、寝て、練習して、勉強してというふうに、3年間ずっと一緒にいた」(塩澤)仲間たち。田部井涼は「今日は本当に応援してもらって良かった。今度は自分たちが声を嗄らす番だから、オマエら自信を持ってやってこい」と、塩澤は「もう1回選手権で嬉し泣きしよう」と声を掛けられたという。届かなかったプリンス参入決定戦の決勝が行われていたクリスマスの日。『カンピオーネ』の歌声が、育英グラウンドにこだまする。前橋育英の3年生は全員で“優勝”の歓喜に浸り、選手権での日本一へ向けて得難い一体感を手にすることに成功した。
1月8日、埼玉スタジアム2002。結果は改めて言うまでもないだろう。試合が終わり、スタンドへ挨拶に向かう時。決勝に挑む20人のメンバーに入り、ベンチから日本一の瞬間を見届けることとなった森田の視界には、あの日に一緒に涙を流した仲間の、再び嬉し泣きしている姿が飛び込んできたという。「スタンドに行った時に叫び合って、向こうも『ありがとう』と言ってくれましたし、こっちも『ありがとう』と言いました。最後にみんなで一つになれて本当に良かったです」。Bチームのキャプテンは誇らしげに言葉を紡ぎ、満面の笑みを浮かべた。
以前、田部井涼はこう話していた。「僕たちは苦労してきた代で、トップはもちろんですけど、応援している人たちも本当に頑張って応援してくれていたので、この代で日本一を成し遂げるというのが一番の目標ですね。チーム全体で勝ち獲りたいです」。『カンピオーネ』の歌声が、今度は埼玉スタジアム2002にこだまする。高校生活の最後の最後。2つの“優勝”をそれぞれの立場で成し遂げた、前橋育英の3年生に大きな拍手を。
文=土屋雅史
12月17日、広島広域公園第一球技場。高円宮杯プレミアリーグ参入戦決勝で、プリンスリーグ関東を制した前橋育英は、ジュビロ磐田U-18と対峙する。この一戦には、もちろん“プレミア昇格”というAチームの大きな目標が懸かっているのと同時に、Bチームにとっても勝つか負けるかが、大きな違いをもたらすことになっていた。
そのBチームは11月上旬に終了した群馬県1部リーグで、桐生第一や前橋商業など県内のライバルを抑え、見事に優勝を達成した。本来であれば、県リーグ王者はそのままプリンス関東参入決定戦に進出することができるが、同じ高校やクラブのチームが一つのカテゴリーに同居することは許されていないため、Bチームが参入決定戦を戦うには、Aチームがプレミアに昇格する必要があった。
「僕らは選手権での全国制覇というのが大きな目標ですけど、県の1部もBチームが優勝して、県の2部もCチームが優勝したんです。自分たちが上がればプレミア、プリンス、県の1部と全部上がれるので、そこは本当に死ぬ気でやりたいですね」と語っていたのはチーム全体のキャプテンを託されている田部井涼。他のカテゴリーの想いも背負い、初戦の京都橘戦で5-0と快勝を収めたAチームは、磐田との決戦に臨む。
しかし、結果はPK戦での敗退。仲間の勝利を信じ、プリンス参入決定戦に向けてトレーニングしていたメンバーは、群馬の地でその報を知った。「育英グラウンドにいて、携帯で速報をチェックしていましたけど、負けたことがわかった時は、みんな倒れ込んでいましたね」とBチームのキャプテンを務めていた森田泰虎は、その時を振り返る。“倒れ込んでいた”3年生の中には、既に発表されていた選手権のメンバー30名に選ばれていない選手も含まれていた。彼らにとって高校生活最後となるはずだった公式戦の舞台は、残酷な形で奪われることとなった。
簡単に切り替えられるはずはない。ただ、Bチームの3年生は「僕らは選手権のために育英に入ってきて、プリンス参入戦のために入ってきた訳ではないし、勝負の世界でしょうがない部分はあるから、最後までしっかりみんなでやろうと」(森田)決意する。そんな彼らにはある大会への参加が用意されていた。その名も『前橋ユースチャレンジ』。選手権のメンバー外となった3年生で臨んだこの大会で、チームはグループリーグを突破。準決勝も制して、決勝へと勝ち上がる。
12月25日、前橋育英高校高崎グラウンド。京都橘と激突する決勝のスタンドには、トップチームの選手たちがメガホンを持って陣取っていた。Aチーム不動のボランチを務める塩澤隼人は「トップの3年生たちも『これで最後か』と思うと、アップ前からみんな泣いちゃってました」と明かす。ゲームは前半で2点を先制されたものの、後半に1点を返すと、終了間際に追い付く劇的な展開。PK戦も10人目までもつれ込みながら、激闘の末に“優勝”を勝ち獲ってみせる。
試合後、いつもとは逆の立場で応援した側も、応援された側も、みんな泣いていた。「同じ所で食べて、寝て、練習して、勉強してというふうに、3年間ずっと一緒にいた」(塩澤)仲間たち。田部井涼は「今日は本当に応援してもらって良かった。今度は自分たちが声を嗄らす番だから、オマエら自信を持ってやってこい」と、塩澤は「もう1回選手権で嬉し泣きしよう」と声を掛けられたという。届かなかったプリンス参入決定戦の決勝が行われていたクリスマスの日。『カンピオーネ』の歌声が、育英グラウンドにこだまする。前橋育英の3年生は全員で“優勝”の歓喜に浸り、選手権での日本一へ向けて得難い一体感を手にすることに成功した。
1月8日、埼玉スタジアム2002。結果は改めて言うまでもないだろう。試合が終わり、スタンドへ挨拶に向かう時。決勝に挑む20人のメンバーに入り、ベンチから日本一の瞬間を見届けることとなった森田の視界には、あの日に一緒に涙を流した仲間の、再び嬉し泣きしている姿が飛び込んできたという。「スタンドに行った時に叫び合って、向こうも『ありがとう』と言ってくれましたし、こっちも『ありがとう』と言いました。最後にみんなで一つになれて本当に良かったです」。Bチームのキャプテンは誇らしげに言葉を紡ぎ、満面の笑みを浮かべた。
以前、田部井涼はこう話していた。「僕たちは苦労してきた代で、トップはもちろんですけど、応援している人たちも本当に頑張って応援してくれていたので、この代で日本一を成し遂げるというのが一番の目標ですね。チーム全体で勝ち獲りたいです」。『カンピオーネ』の歌声が、今度は埼玉スタジアム2002にこだまする。高校生活の最後の最後。2つの“優勝”をそれぞれの立場で成し遂げた、前橋育英の3年生に大きな拍手を。
文=土屋雅史
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