給油はスタンド、レア車種満載……。ドバイ24時間ってどんなレース?
1月10〜13日に、アラブ首長国連邦のドバイ・オートドロームで開催された24時間シリーズ第1戦・ドバイ24時間。2006年に初開催され、今年で12回目を迎えた耐久レースだが、いったいどんなレースなのだろうか。今回、筆者が初めて取材に訪れたので、その概要をご紹介しておこう。
■オランダの主催者が3シリーズを開催。ドバイは開幕戦
このドバイ24時間は、オランダのクレベンティックというプロモーターが主催する『24時間シリーズ』のうちの一戦で、開幕戦にあたる。過去にはスーパー耐久に参戦していたPETRONAS SYNTIUM TEAMがBMW Z4 Mクーペで挑み、2010年には谷口信輝/柳田真孝/ファリーク・ハイルマン/ヨハネス・スタック/吉田広樹組が2位に。2013年には藤井誠暢がクラフトレーシングAMRのアストンマーチンで3位に食い込んでいる。
24時間シリーズはGT(GT3、GT4、カップカー、改造車の『SP3』等)、TCE(TCR、改造車、BMW M235i等)、そしてLMP2、LMP3等が走れるプロトという3シリーズがある。今回のドバイ24時間は、GTとTCEによって争われた。
24時間シリーズのGTは、ドバイ、ポルティマオ、バルセロナ、オースティンで24時間レースが行われ、その他にも12時間レースが4戦行われる。ドバイが人気を集めているのは、モータースポーツのオフシーズンにあたることが大きい。この時季、冷え込むヨーロッパやアジアにいるよりも、日中は半袖で過ごせるドバイでレースを戦いたいジェントルマンドライバーにニーズがある。ヨーロッパの強豪が数多く参戦しているのもそのためだ。
ドバイという地は、ヨーロッパの人々にとって格好のリゾート地になっているようで、今回訪れた際にも、サーキット以外で外国人観光客がかなり多かった。主催者のクレベンティックも、海外からのエントリーを集めるための工夫を数多くしており、エントラントからも好評の声が聞かれていた。
なお、日本からもエアチケットは比較的安価。アブダビへはエティハド航空が、ドバイへはエミレーツ航空が就航しており、観光をすることも可能だが、現地の物価はちょっと高めだ。
■完成してたら超豪華。コースはチャレンジング
開催コースであるドバイ・オートドロームは、2004年に完成したコースで全長5.39km。2008年にはGP2アジアも開催されている。コースは中高速といった印象で、複合的なコーナーが多数ある。写真を良く見ると分かるが、アップダウンも大きい。
ピット棟も、国内のコースに比べても遜色はなく、2階にはホスピタリティ用の部屋も用意される。グランドスタンドはゲートを出るとショッピングストリートとなっているのが非常にユニークだった。また、最終コーナー外側にはホテルもある。
ただし、サーキットには未完成の部分が多い。工事中に資金が途絶えたのか、1〜2コーナーには巨大なスタンドが設けられているものの、中身は廃墟。その他にも周辺の建設物も、工事中のまま放置されているものが多かった。
コース自体は、近年のサーキットらしくランオフはすべてアスファルト。ドライバーたちによれば、なかなかチャレンジングだという。しかし、コース全周がコンクリートウォールに囲まれており、タイヤバリアがない場所でクラッシュしてしまうとマシンが大きく破損してしまう。また、照明がいまひとつで、夜間走行はかなり暗い。
夜間のリスクや、未完成部分はあるものの、路面もスムーズでホテルも近場に数多くあり、関係者の印象は全体的に良好だった。
■ゴッタ煮感がスゴい! レアマシンが続々登場
先述のとおり、ドバイ24時間はGT、TCEともに多種多様なカテゴリーが存在することもあり、日本ではまずお目にかかれないマシンが数多く走行した。
GT3にあたるA6では、メルセデスやアウディ、ポルシェといったマシンが主流だったが、レアなものはルノーR.S.01、そして旧式であるシボレー・コルベットC6 ZR1や、ラムダ・パフォーマンスというチームが走らせたフォードGT GT3などが走行。シボレーやフォードは性能調整の面でも優遇があったようで、上位と遜色ないペースで走行した。
また、すでにオートスポーツwebでもご紹介したとおり、GT4やTCRも多数参戦。さらにKTMクロスボウや、フランスで開催されているラメーラ・カップカー、フォード・フォーカス・マルクカー等、数多くのマシンが走行している。
さらに、マンタイ・レーシングが制作したGT3風のエアロをポルシェ911 GT3 カップに装着した『911 GT3 カップMRII』というマシンが、『ツナミレーシングチーム』という日本人的にはちょっといかがな名前のチームから登場。GT3ばりのスピードをみせた。
■勝負のカギはガソリンスタンドにあり?
ドバイ24時間で非常にユニークなのは、給油だ。通常のレースであれば、ピット前に給油タワーが設けられ、クイックチャージをマシンに差し込み給油するのが普通。ニュルブルクリンク24時間等でも、ピットロードで給油できる。
しかしこのレースの場合、給油は全車すべてがピットロード出口付近に設けられた『ガソリンスタンド』で行わなければならない。レース中、給油を行いたいマシンは、ピットアウト時に直角に曲がり、ガソリンスタンドに進入する。ほぼ全チームの給油マン(2名)がスタンド前で待ち受け、10カ所あるスタンドのうち、給油に使う場所をドライバーに示す。停止したら給油を行うのだが、クイックチャージではないので、時間はかなりかかる。
10カ所スタンドがあるとはいえ、台数は90台近い。そのため、コード60(コース上の車両が時速60km/hで走行するフルコースイエローに近い状態)が起きるとスタンドには多数のマシンが殺到。ガソリンスタンドには“給油待ち”の列ができあがる。当然これはロスタイムになるので、給油のタイミングが勝敗を左右すると言えた。
スタンド自体は現地の石油会社であるエマラット社の看板があり、ゴミ箱まで用意されており、一件街中のスタンドのよう。そこにズラリとレーシングカーが並び、ジッと給油を行っている様子は、ある意味非常にシュールだった。
■このレースで上位を目指すには
そんなドバイ24時間だが、このレースで上位を目指すためにはどんな要素が必要になるのだろうか。まず、ドライバーラインアップがひとつカギとなる。A6-AM、991-AMをのぞく全クラスでは、プラチナ、ゴールドに分類される、いわゆるプロドライバーは最大で2名起用できる。シルバーは自由で、ブロンズに分類されるアマチュアドライバーは最低1名を起用しなければならない。
24時間レースの場合、プロは人数にかかわらず最大で12時間を越えてドライブできない。また、アマチュアは最低2時間の走行が必要だ。たとえば今回日本から参戦したD’station Racingで言えば、ブロンズの星野敏は最低2時間、シルバーの近藤翼は自由、荒聖治と藤井誠暢は、合計で12時間といった具合だ。実際、近藤は今回かなり負担が多く、ひとりで8時間を走った。そのため、理想は5人のドライバー編成で、プラチナorゴールドが2名、シルバー(しかも速いシルバードライバー)が2名、ブロンズが1名というものだろう。
また、シリーズでワンメイクとして使用されるハンコックタイヤへの合わせ込みも大いに重要。特に日本のタイヤに慣れたチームは、対応にやや時間がかかる様子が感じられた。このあたりは、2018年から世界的に使用されているピレリがスーパー耐久で使用されることで、対応が進めやすくなるかもしれない。
先述のとおり、給油のタイミングも非常に重要になるほか、耐久レースの王道であるトラブルを起こさない、アクシデントを起こさないことが非常に重要。特に、5km長のコースに90台近いマシンがひしめくこのコースでは、アクシデントを避けるドライバー力が問われる。
全体的に言えば、ニュルブルクリンク24時間ほど危険ではないが、チーム、ドライバーともにさまざまな経験することができるのがドバイ24時間と感じた。格式という面ではまだまだだが、ぜひ今季参戦したD’station Racing、Gulf Racing Japan以外にも、多くの日本チームにもお薦めしたいレースだ。
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