パリ世代の星はFC東京の勝利請負人へ 選手権制覇から1カ月半、松木玖生が示した球際と走力
サッカーキング2022年2月21日(月)15時56分
開幕戦デビューを飾った松木 [写真]=金田慎平
「まずはプロになりたい、高校サッカー選手権で優勝したいと思って青森山田に進学したけど、そんなに甘いものではないと感じた中高6年間でした。3年になってキャプテンをやって『自分が犠牲になってでもチームを勝たせたい』と思えるようになり、やっと優勝できた。今後もチームを勝たせられるような貢献をしていきたいと思います」
第100回高校選手権を制し、高校総体、高円宮杯プレミアリーグEASTとの3冠を達成して、感慨深げにこう話してからわずか1カ月半。FC東京の一員となった松木玖生は明治安田生命Jリーグ第1節の川崎フロンターレ戦で堂々と先発に名を連ねていた。
高卒新人の開幕スタメンというのは、遠藤保仁、小野伸二、本田圭佑、内田篤人ら偉大な面々と同じ。クラブ内に新型コロナウイルス陽性者が出たため、序列が繰り上がったのもあるだろうが、そういう運が巡ってくるのも大物たる者の必須条件だ。
思い起こせば、昨年10月のU-22日本代表選出も追加招集だった。その初戦だったカンボジア戦で先制弾を叩き出したのだから、まさに「持っている男」。2024年パリ五輪の星は今回も大きなチャンスを手にしたのである。
4-3-3の右インサイドハーフに陣取った背番号44は、序盤から持ち前の走力と球際の強さを前面に押し出した。開始9分には川崎期待の新戦力であるチャナティップに激しいチェイシングを披露。その後も車屋紳太郎や登里享平と言った実績ある面々にも遠慮なく向かっていく。「ボールが足に着かなかった」と本人は後から本音を吐露したものの、ルーキーの遠慮などは一切、感じられなかった。
迎えた28分。松木はディエゴ・オリヴェイラがペナルティエリア手前でためて落としたボールに鋭く反応。得意の左足で強烈シュートを放つ。これはチョン・ソンリョンに阻まれたものの、「点の取れるインサイドハーフになりたい」という野心が強く出ていた。さらに前半終了間際に左SB小川諒也からのアーリークロスが入った場面でも、確実にボールを収め、ディエゴ・オリヴェイラの決定機につなげる。まるでプロで何年も戦っている選手のような落ち着きや安定感が見て取れた。
後半突入後も運動量や強度が落ちることはなかった。55分過ぎに長友佑都が右SBに入ってからはチーム全体の攻撃のギアが一気にアップ。松木も確実にそのテンポについていき、中盤に厚みを加えていた。
だからこそ、ファウルを受けた直後の72分に交代を命じられた際には悔しさをむき出しにした。自らが下がった後、昨季MVPのレアンドロ・ダミアンに決勝弾を叩き込まれてしまったのだから、悔しさはひとしお。黒星発進というプロデビュー戦に満足できるはずがない。
「決めきるところで決めきれず、ボールを失っていた部分がFC東京の中で一番多かった。試合を通して奪われないで得点を決めきれるようなインサイドハーフのポジションの選手になっていきたいと思います」と松木は試合後、険しい表情で反省の弁を口にした。
こういった厳しい発言と顔つきはハイレベルな基準を追求していることの証明でもある。アルベル監督は「18歳の若手選手がプロの世界でデビューしたことにはとても満足しているし、彼を称えたい。玖生は日本サッカーに大きな喜びを与えてくれる選手に成長してくれる」と絶賛したが、本人は「自分があそこで決定機を決められるかどうかで勝敗が分かれてくる」と自戒を込めてコメントした。デュエルや強度の部分で十分にやれていたという評価に対しても「球際やフィジカルのところは全然負けていなかったし、そこは上回れるところ。自分はいつも通りやっただけ」とどこまでも淡々としていた。
青森山田で「勝利請負人」になり続けてきた男にしてみれば、その舞台がU-22日本代表だろうが、J1の舞台になろうが、役割は変わらない。サッカーに年齢は関係ないし、目に見える結果を残さなければ生き残っていけないという意識が非常に強いのは間違いない。
確かに、世界に目を向ければ、ジャマル・ムシアラ(バイエルン)やジュード・ベリンガム(ドルトムント)のような同い年の逸材もいる。J1に目を向けても、1つ年下の2種登録選手である北野颯太(セレッソ大阪)が19日の横浜F・マリノス戦に途中出場。強烈シュートでインパクトを残した。能力の高い同世代が躍動しているのだから、松木にとっても開幕スタメンはあくまで通過点でしかない。ここからが本当の勝負と言っていい。
「もう少し周りを見るところや、個人的にシュートで終わるところもありましたし、最後の質はまだまだだと思う。そこはしっかりリーグを通して成長していきたいと思っています」と本人も鋭い眼光を見せていた。
かつて小野伸二は高卒1年目に9点をゲット。中田英寿も8点を奪っている。インサイドハーフというポジション特性や難しさはあるものの、松木にとってはこの領域が1つのターゲットになってくる。近い将来、世界で名を馳せるような傑出した存在になるためにも、J1での目に見える数字は必須。それができるだけのポテンシャルが彼にはある。この先も凄まじい成長曲線を示して、驚かせ続けてほしいものである。
取材・文=元川悦子
第100回高校選手権を制し、高校総体、高円宮杯プレミアリーグEASTとの3冠を達成して、感慨深げにこう話してからわずか1カ月半。FC東京の一員となった松木玖生は明治安田生命Jリーグ第1節の川崎フロンターレ戦で堂々と先発に名を連ねていた。
高卒新人の開幕スタメンというのは、遠藤保仁、小野伸二、本田圭佑、内田篤人ら偉大な面々と同じ。クラブ内に新型コロナウイルス陽性者が出たため、序列が繰り上がったのもあるだろうが、そういう運が巡ってくるのも大物たる者の必須条件だ。
思い起こせば、昨年10月のU-22日本代表選出も追加招集だった。その初戦だったカンボジア戦で先制弾を叩き出したのだから、まさに「持っている男」。2024年パリ五輪の星は今回も大きなチャンスを手にしたのである。
4-3-3の右インサイドハーフに陣取った背番号44は、序盤から持ち前の走力と球際の強さを前面に押し出した。開始9分には川崎期待の新戦力であるチャナティップに激しいチェイシングを披露。その後も車屋紳太郎や登里享平と言った実績ある面々にも遠慮なく向かっていく。「ボールが足に着かなかった」と本人は後から本音を吐露したものの、ルーキーの遠慮などは一切、感じられなかった。
迎えた28分。松木はディエゴ・オリヴェイラがペナルティエリア手前でためて落としたボールに鋭く反応。得意の左足で強烈シュートを放つ。これはチョン・ソンリョンに阻まれたものの、「点の取れるインサイドハーフになりたい」という野心が強く出ていた。さらに前半終了間際に左SB小川諒也からのアーリークロスが入った場面でも、確実にボールを収め、ディエゴ・オリヴェイラの決定機につなげる。まるでプロで何年も戦っている選手のような落ち着きや安定感が見て取れた。
後半突入後も運動量や強度が落ちることはなかった。55分過ぎに長友佑都が右SBに入ってからはチーム全体の攻撃のギアが一気にアップ。松木も確実にそのテンポについていき、中盤に厚みを加えていた。
だからこそ、ファウルを受けた直後の72分に交代を命じられた際には悔しさをむき出しにした。自らが下がった後、昨季MVPのレアンドロ・ダミアンに決勝弾を叩き込まれてしまったのだから、悔しさはひとしお。黒星発進というプロデビュー戦に満足できるはずがない。
「決めきるところで決めきれず、ボールを失っていた部分がFC東京の中で一番多かった。試合を通して奪われないで得点を決めきれるようなインサイドハーフのポジションの選手になっていきたいと思います」と松木は試合後、険しい表情で反省の弁を口にした。
こういった厳しい発言と顔つきはハイレベルな基準を追求していることの証明でもある。アルベル監督は「18歳の若手選手がプロの世界でデビューしたことにはとても満足しているし、彼を称えたい。玖生は日本サッカーに大きな喜びを与えてくれる選手に成長してくれる」と絶賛したが、本人は「自分があそこで決定機を決められるかどうかで勝敗が分かれてくる」と自戒を込めてコメントした。デュエルや強度の部分で十分にやれていたという評価に対しても「球際やフィジカルのところは全然負けていなかったし、そこは上回れるところ。自分はいつも通りやっただけ」とどこまでも淡々としていた。
青森山田で「勝利請負人」になり続けてきた男にしてみれば、その舞台がU-22日本代表だろうが、J1の舞台になろうが、役割は変わらない。サッカーに年齢は関係ないし、目に見える結果を残さなければ生き残っていけないという意識が非常に強いのは間違いない。
確かに、世界に目を向ければ、ジャマル・ムシアラ(バイエルン)やジュード・ベリンガム(ドルトムント)のような同い年の逸材もいる。J1に目を向けても、1つ年下の2種登録選手である北野颯太(セレッソ大阪)が19日の横浜F・マリノス戦に途中出場。強烈シュートでインパクトを残した。能力の高い同世代が躍動しているのだから、松木にとっても開幕スタメンはあくまで通過点でしかない。ここからが本当の勝負と言っていい。
「もう少し周りを見るところや、個人的にシュートで終わるところもありましたし、最後の質はまだまだだと思う。そこはしっかりリーグを通して成長していきたいと思っています」と本人も鋭い眼光を見せていた。
かつて小野伸二は高卒1年目に9点をゲット。中田英寿も8点を奪っている。インサイドハーフというポジション特性や難しさはあるものの、松木にとってはこの領域が1つのターゲットになってくる。近い将来、世界で名を馳せるような傑出した存在になるためにも、J1での目に見える数字は必須。それができるだけのポテンシャルが彼にはある。この先も凄まじい成長曲線を示して、驚かせ続けてほしいものである。
取材・文=元川悦子
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