「ヤットさんのサッカーIQはズバ抜けてる。天才」。刺激を受ける背番号10・倉田秋が見据える2020年シーズン
サッカーキング2020年2月25日(火)12時13分
[写真]=Jリーグ
「ヤットさん(遠藤保仁)がJ1最多記録に並ぶ試合ということで、記録が一生残ると思っていた。そこで勝てたことは良かったです。ヤットさんは攻撃だけじゃなくて、守備の立ち位置とかハメ方とか周りに指示してくれるんで、ホントに欠かせない存在。サッカーIQがズバ抜けて高くて『ホンマ、天才や』と思う。人を動かしてゲームをコントロールする力は日本一なんで、そこは自分も勉強する必要がありますね」
宮本恒靖監督就任後、2年続けてJ1残留争いを強いられたガンバ大阪にとって、2020年はまさに勝負の年。初陣となった23日の開幕戦は是が非でも勝たなければいけないゲームだった。その相手は昨シーズンの開幕戦でも苦杯を喫しているJ1王者の横浜F・マリノス。しかもこの日は40歳の大ベテラン・遠藤保仁が楢﨑正剛氏と並ぶJ1・631試合という通算最多出場記録を樹立した記念すべき一戦だ。チーム全体のモチベーションは極めて高かった。
火付け役となったのが、遠藤に10年以上、刺激をもらい続けてきた背番号10・倉田秋だ。高いラインを敷く相手に序盤から猛烈なプレスをかけにいった前半6分、矢島慎也が相手GK朴一圭から首尾よくボールを奪った。次の瞬間、ゴール前に飛び込むと絶好のタイミングでラストパスが来た。倉田は冷静に左足を振り抜き、ゴールネットを揺らす。喉から手が出るほどほしかった先制点を奪ったのだ。
「守備のハメ方が狙い通りでした。うまく慎也が取ってパスをくれたんで、俺はただ流し込むだけでした。今季のガンバ第一号? ゴールを取ることはゲームをやってる中で本当にうれしい瞬間なんで、気持ちよかったですね」と彼は爽やかな笑顔を見せていた。
続く前半34分の2点目も彼がお膳立てしたもの。GK東口順昭のロングフィードに反応した時、横浜の面々はオフサイドだと自己判断して一瞬、足を止めてしまった。そんなスキを逃さないのがタフで泥臭い倉田の強み。左サイドから鋭く折り返したボールを今度は矢島が決めて2-0に。これはVAR判定の対象となったものの、最終的にゴールが認定されるに至った。
「相手がハイラインっていうのは分かっていたし、ああいう形は練習でもやっていたんで、1点目も2点目もそれが出て良かった。あの瞬間はオフサイドにならんように飛び出していけるなと思った。みんなよりワンテンポ遅らせて行こうと考えたら、うまくいきましたけどね」と本人は頭脳的なプレーだったことを明かす。
こういった頭を使った駆け引きの重要性は、背番号7から長い時間をかけて学んできたことだ。実際、遠藤はこの日も試合中に中盤の守備バランスを微調整する必要があると判断。キックオフから30分が経過した頃に宮本監督に進言し、井手口陽介のポジションを少し下げてダブルボランチに変更している。
「9番の選手(マルコス・ジュニオール)が横によく動くので、そこに自分がついていったらスペースが空いてしまう。最初は僕だけ(がアンカー)だったんですけど、陽介もいた方がいいと思って、監督に了承を得てシステムを変えました」
遠藤はこう説明していたが、倉田も卓越した戦術眼には目を見張る思いだったという。同時に、常に自分も相手を上回るべく積極的にアクションを起こしていくべきだと痛感したはずだ。だからこそ、彼は左サイドの位置から凄まじいアップダウンを繰り返してプレスをかけ続け、松原健と仲川輝人という横浜FM黄金の縦ラインを寸断することに神経を注いだのだ。
74分に1点を返され、守勢に回った終盤はさすがに守備負担が重くなり、足が止まった。82分には福田湧矢との交代を強いられたが、「今年はキャンプの時からハイプレスの試合をずっとしてるから、みんなもそれに慣れているんで、『バテるから行かない』なんていうのは全然頭にないですね」とキッパリ言いきった。
途中交代だろうが何だろうが、チームが勝てばそれでいい……。31歳になっても献身性を前面に押し出せるところも、偉大な先輩から学び、ピッチ上で実践しているところなのだろう。
「ここ数年、開幕スタートダッシュを切れなくて苦しいシーズンになっているので、今年は開幕から勝てるようにしていこうと話をしてた中で、マリノスという一番強いチームに勝てた。それは大きな自信になると思います。ただ、今日もほぼ相手にボールを保持されているし、守備からカウンター一発というのは理想の試合運びじゃない。相手に対してしっかりボールを保持して圧倒できるようになっていかないといけないですね。俺自身ももっとやらなアカン。そう思います」
そんな倉田が見据える先には2014年以来のJ1頂点奪回がある。30代らしい老獪さと戦術眼に磨きをかけつつ、ガンバでまだ達成していない2ケタゴールを奪うこと。それが背番号10に託された至上命題と言っていい。
8つ上の遠藤がフル稼働しているうちはまだまだ負けられない。高みを目指すチャレンジは果てしなく続く。
文=元川悦子
宮本恒靖監督就任後、2年続けてJ1残留争いを強いられたガンバ大阪にとって、2020年はまさに勝負の年。初陣となった23日の開幕戦は是が非でも勝たなければいけないゲームだった。その相手は昨シーズンの開幕戦でも苦杯を喫しているJ1王者の横浜F・マリノス。しかもこの日は40歳の大ベテラン・遠藤保仁が楢﨑正剛氏と並ぶJ1・631試合という通算最多出場記録を樹立した記念すべき一戦だ。チーム全体のモチベーションは極めて高かった。
火付け役となったのが、遠藤に10年以上、刺激をもらい続けてきた背番号10・倉田秋だ。高いラインを敷く相手に序盤から猛烈なプレスをかけにいった前半6分、矢島慎也が相手GK朴一圭から首尾よくボールを奪った。次の瞬間、ゴール前に飛び込むと絶好のタイミングでラストパスが来た。倉田は冷静に左足を振り抜き、ゴールネットを揺らす。喉から手が出るほどほしかった先制点を奪ったのだ。
「守備のハメ方が狙い通りでした。うまく慎也が取ってパスをくれたんで、俺はただ流し込むだけでした。今季のガンバ第一号? ゴールを取ることはゲームをやってる中で本当にうれしい瞬間なんで、気持ちよかったですね」と彼は爽やかな笑顔を見せていた。
続く前半34分の2点目も彼がお膳立てしたもの。GK東口順昭のロングフィードに反応した時、横浜の面々はオフサイドだと自己判断して一瞬、足を止めてしまった。そんなスキを逃さないのがタフで泥臭い倉田の強み。左サイドから鋭く折り返したボールを今度は矢島が決めて2-0に。これはVAR判定の対象となったものの、最終的にゴールが認定されるに至った。
「相手がハイラインっていうのは分かっていたし、ああいう形は練習でもやっていたんで、1点目も2点目もそれが出て良かった。あの瞬間はオフサイドにならんように飛び出していけるなと思った。みんなよりワンテンポ遅らせて行こうと考えたら、うまくいきましたけどね」と本人は頭脳的なプレーだったことを明かす。
こういった頭を使った駆け引きの重要性は、背番号7から長い時間をかけて学んできたことだ。実際、遠藤はこの日も試合中に中盤の守備バランスを微調整する必要があると判断。キックオフから30分が経過した頃に宮本監督に進言し、井手口陽介のポジションを少し下げてダブルボランチに変更している。
「9番の選手(マルコス・ジュニオール)が横によく動くので、そこに自分がついていったらスペースが空いてしまう。最初は僕だけ(がアンカー)だったんですけど、陽介もいた方がいいと思って、監督に了承を得てシステムを変えました」
遠藤はこう説明していたが、倉田も卓越した戦術眼には目を見張る思いだったという。同時に、常に自分も相手を上回るべく積極的にアクションを起こしていくべきだと痛感したはずだ。だからこそ、彼は左サイドの位置から凄まじいアップダウンを繰り返してプレスをかけ続け、松原健と仲川輝人という横浜FM黄金の縦ラインを寸断することに神経を注いだのだ。
74分に1点を返され、守勢に回った終盤はさすがに守備負担が重くなり、足が止まった。82分には福田湧矢との交代を強いられたが、「今年はキャンプの時からハイプレスの試合をずっとしてるから、みんなもそれに慣れているんで、『バテるから行かない』なんていうのは全然頭にないですね」とキッパリ言いきった。
途中交代だろうが何だろうが、チームが勝てばそれでいい……。31歳になっても献身性を前面に押し出せるところも、偉大な先輩から学び、ピッチ上で実践しているところなのだろう。
「ここ数年、開幕スタートダッシュを切れなくて苦しいシーズンになっているので、今年は開幕から勝てるようにしていこうと話をしてた中で、マリノスという一番強いチームに勝てた。それは大きな自信になると思います。ただ、今日もほぼ相手にボールを保持されているし、守備からカウンター一発というのは理想の試合運びじゃない。相手に対してしっかりボールを保持して圧倒できるようになっていかないといけないですね。俺自身ももっとやらなアカン。そう思います」
そんな倉田が見据える先には2014年以来のJ1頂点奪回がある。30代らしい老獪さと戦術眼に磨きをかけつつ、ガンバでまだ達成していない2ケタゴールを奪うこと。それが背番号10に託された至上命題と言っていい。
8つ上の遠藤がフル稼働しているうちはまだまだ負けられない。高みを目指すチャレンジは果てしなく続く。
文=元川悦子
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