湘南はミラクル・レスターを目指せ!京都戦で機能し始めた新布陣
2024明治安田J1リーグ第2節の全10試合が、3月1日から3日に各地で行われた。湘南ベルマーレは2日、敵地サンガスタジアム by KYOCERAで京都サンガと対戦。最終スコア2-1で勝利している。
昨年まで採用していた[3-1-4-2]から[4-4-2]に基本布陣を変えて今2024シーズンに臨んでいる湘南。粗削りの部分はあるが、最終スコア1-2で敗れた開幕節(川崎フロンターレ戦)からの改善も窺えた。ここでは第2節の京都戦を振り返るとともに、湘南の新布陣[4-4-2]の現状と完成度について検証・論評していく。
京都vs湘南:試合展開
両軍とも陣形が間延びし速攻の撃ち合いとなったなかで、コーナーキックを2度活かした湘南に勝ち点3が転がり込んだ。前半15分、湘南DF杉岡大暉のコーナーキックが京都GKク・ソンユンに弾かれるも、こぼれ球にアウェイチームのMF田中聡が反応。田中がペナルティアーク付近から左足でシュートを放ち、湘南に先制点をもたらした。
湘南は前半19分に京都の自陣からの速攻(ロングカウンター)を止められず、ホームチームのFW豊川雄太のシュートを浴び失点。その後も一進一退の攻防が続いたなかで、アウェイチームが後半37分にコーナーキックを獲得した。この場面でペナルティエリア内のニアサイド(※)に立っていた湘南DF大岩一貴が、杉岡のコーナーキックに反応。大岩が繰り出した後方へのパスをFW鈴木章斗が相手ゴールに押し込み、勝ち越し点を挙げた。
試合の最終盤に4バックから5バックへ移行した湘南は、このリードを守り抜くことに成功。今2024シーズンのJ1リーグ初白星を、第2節にして飾っている。
(※)キッカーやボール保持者に近いほうのサイド。
川崎F戦からの改善点は
第1節川崎F戦における湘南の主な攻め手は、GK富居大樹からのロングパス。自陣後方で無理にパスを繋ぐのを避け、ボールをいち早く最前線へ送ろうとする意図が読み取れたが、相手センターバック付近を狙ったロングパスが多く、ボールを弾き返されてしまう場面がしばしば。こぼれ球もなかなか拾えなかった。
今回の京都戦では、攻撃の初手となるロングパスの送り先に変化が見られた。キックオフの笛が鳴り響いた直後、湘南のDFキム・ミンテが京都DF鈴木冬一(左サイドバック)方面へロングパスを送ったほか、富居も前半3分にサイドを目がけてゴールキックを行っている。この攻撃パターンを湘南は継続すべきだ。
ロングパスを相手センターバックの手前へ送り、これを弾き返された場合、このボールがそのまま相手チームの速攻や中央突破に繋がりかねない。仮にロングパスが相手センターバックの背後に落ちたとしても、このスペースは相手GKが飛び出して対応しやすく、得点に結びつく可能性も低い。このデメリットを踏まえると、湘南が今回の京都戦でロングパスの送り先をサイドへ徹底し始めたのはポジティブな変化と言える。敵陣タッチライン方面へのロングパスであれば相手GKが飛び出し難く、相手チームにボールを回収されても速攻に直結しにくいからだ。
欲を言えば、相手サイドバックの体の向きを変え、楽な体勢でクリアできないようなロングパスを多く繰り出したいところ。相手サイドバックの背後へロングパスを送り、こうした状況を作る。これと同時にボールサイドに人を集結させ、回収したボールを自分たちの速攻に繋げる。これこそ湘南が今後ブラッシュアップすべき点だ。
湘南は奇跡を起こせるか
湘南が目指すべきは、2015/16シーズンのイングランド・プレミアリーグを制したレスター・シティのような戦い方だろう。このシーズン、レスターの基本布陣は今の湘南と同じく[4-4-2]。ジェイミー・バーディと岡崎慎司の両FW(2トップ)が相手サイドバックの背後を適宜狙い、ここを目がけたロングパスが同クラブの攻撃の初手となっていた。
戦術がシンプルで真新しくなくても、ビッグネームがいなくとも、選手全員が原則を守ったうえでハードワークをすれば奇跡を起こせる。これが2015/16シーズンにレスターが証明したサッカーの本質であり、この時代の同クラブは「ミラクル・レスター」という愛称で多くのサッカーファンに語り継がれた。
今の湘南の2トップ、ルキアンと鈴木章斗の両FWも機動力は十分で、開幕節から適宜サイドへ流れボールを収めている。湘南の現有戦力の特長を踏まえても、2015/16シーズンのレスターのような戦い方は可能だろう。明確になり始めた攻撃のコンセプトを第3節以降も徹底できるか。「ミラクル・ベルマーレ」が実現するかどうかは、この点にかかっている。
湘南が突き詰めるべきプレス強度
湘南の今季リーグ戦2試合を見た限り、基本布陣[4-4-2]の2トップ、ルキアンと鈴木章斗が相手センターバックからボランチへのパスコースを塞ぎ、相手のパス回しをサイドへ追いやることはできている。湘南の新布陣の完成度はまずまずで、機能し始めたと言って差し支えないだろう。
守備のコンセプトは概ね固まっているが、近年巻き込まれているJ1残留争いから脱却し、上位進出を果たすためには、敵陣タッチライン際での守備強度を上げる必要がある。京都戦の失点場面では、自陣からロングパスを繰り出そうとした相手選手に湘南の選手が寄せておらず、速攻の起点を作られている。また、直近2試合に関しては相手センターバックからサイドバックにパスが渡り、サイドバックがタッチライン際に追い込まれたときの、湘南の両サイドハーフ(平岡大陽と池田昌生の両MF)のプレス強度が足りない場面もあった。
今2024シーズンのJ1リーグ第2節終了時点で連勝を収めたチームはゼロ。早くも混戦ムードが漂っており、今年は僅かな戦術の綻びが成績不振に繋がるシーズンとなるだろう。湘南を含めた全J1クラブによる、ハイレベルな競争を期待したい。
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