熾烈な中団争いで『残り4席』に入るには想像以上に困難/トロロッソ・ホンダF1 シーズン展望編
いよいよ迎える2018年シーズンの開幕を前に、トロロッソ・ホンダの活躍に大きな期待が寄せられている。チームにとってもホンダにとっても、開幕前のバルセロナ合同テストでこれまでになかったような好調な走りを見せただけに、それは当然のことかもしれない。
しかし、少なくとも開幕戦に関して言えば過度な期待はしない方が良いかもしれない。そのくらい、彼らが戦わなければならない中団グループは大混戦だからだ。
トロロッソ・ホンダは8日間で822周3,826.41kmをほぼノートラブルで走り切った。ブレーキシステムやセンサーにトラブルが出てピットガレージで修復作業を余儀なくされる場面もあったが、いずれも設計の根幹に関わるようなものではなくマイナートラブルといっていいものだった。
パワーユニットも最終日にデータ上に異常値が見つかったため念のため2時間弱早めに走行を切り上げることとなったが、テスト2週目の4日間は無交換で計498周2,318.19kmを走破して信頼性を確認した。これはフリー走行から決勝までを含めて『3レース週末分』に相当する距離だ。この4日間の中で、7戦使用しなければならないパワーユニット本体の信頼性だけでなく、随時交換が可能なメンテナンスパーツの整備サイクルも確認している。
昨年はMGU-Kのシャフト交換タイミングを読み誤ったせいで無用なトラブルとコンポーネント破損ということもあったが、今年はこうした点での信頼性も向上できそうだ。
つまり、車体とパワーユニットの両面において信頼性が高いということは証明された。しかし肝心なのは速さだ。
自己ベストタイムだけを見れば、ピエール・ガスリーは全21人の中で7番手のタイムを記録している。トップのフェラーリ(セバスチャン・ベッテル)から1.182秒差と、充分にポイント圏内が狙えそうにも思える。
しかしこれはメルセデスAMG勢やマックス・フェルスタッペン、フォース・インディア勢、ハース勢が本格的なタイムアタックをしていないためであり、実質的な順位はもっと下になる。
加えて、燃料搭載量のごまかしが利かないフルレースシミュレーションのラップタイムを比較すると、今のトロロッソ・ホンダが置かれた状況がよりはっきりと見えてくる。
メルセデス、フェラーリ、レッドブルの3強チームが別次元の速さを見せているのは当然としても、その下に続くのがハース、そしてルノーとフォース・インディアがほぼ同等の速さを見せており、中団グループのトップ争いはこの3チームになりそうだ。トロロッソ・ホンダはそこからやや離されて、マクラーレンと7番手のチームの座を争うようなかたちだ。
しかもタイヤのデグラデーションがやや大きいのか、各スティントの後半ではペースが低下している。バルセロナは再舗装がなされたことで過去のデータがあまり参考にならなくなってしまったこともタイヤマネージメントに影響していたようだが、開幕戦までの間にデータの分析によってタイヤの使い方とセットアップを向上させられれば、まだまだ伸びしろはあるのかもしれない。
昨年9月という遅い時期でのパワーユニット決定から大幅な見直しをしなければならなかった車体は、妥協を強いられたがために他チームと比べて理想的な性能とは言えない部分もあるようだ。しかし昨年ドライバーが苦しんだコーナーへのターンイン時のリヤの不安定さはリヤエンドの刷新によって解消できており、マシンに対して自信を持って攻めることができるというのがドライバーたちの笑顔に繋がっていた。
パワーユニットは過去3年間の教訓からまず信頼性重視のコンサバティブなスペック。そのため性能に直結するICE(内燃機関)やTC(ターボチャージャー)は昨年型と大きく変わってはおらず、出力はまだ昨年の最終戦レベルだという。
しかしトロロッソの車体に合わせて吸・排気系をモディファイしたところ、それだけで10kW(約13.6馬力)も出力が向上したというから、これまで車体に合わせて我慢していた部分があったことも事実だ。
さらに第2期F1を知る浅木泰昭体制に変わって栃木県にある研究所『HRD さくら』では攻めの開発が進められており、その性能と信頼性が確認されれば、1基目を7戦使い終わるまでの早い段階でアップデート投入ということも考えられる。
開幕戦の時点では、トロロッソ・ホンダが置かれた状況は決して容易なものではない。従来以上に熾烈な争いが繰り広げられる今年の中団グループの中で、3強チーム以外の『残り4席』を争うQ3進出やポイント獲得はそう簡単ではないだろう。しかしシーズン中盤以降に向けて最も大きな伸びしろを秘めているのがトロロッソ・ホンダであることもまた事実だ。
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