2021年のマシン開発を行わないハース。ミックとマゼピンは“経験を積む1年”に/F1開幕直前チーム分析(7)
史上最多7度のドライバーズタイトル獲得は昨年でルイス・ハミルトンに並ばれ、2021年シーズンにも更新されてしまうかもしれない。それでも『シューマッハー』という名前が、F1で色あせてしまうことはない。父ミハエルはうち5度の王座をフェラーリでなし遂げ、低迷期にあった跳ね馬を復活に導いた。まさしくレジェンドだ。
その息子ミック・シューマッハーが、今季F1進出を果たす。受け入れ先は、ハースとなる。
ハースはフェラーリとの間に、包括的技術契約を結んでいる。パワーユニットやギヤボックスに限らず、車体の機械的な部分も大半がフェラーリの供給パーツとなる。しかしながらチーム運営に関して参入からの過去5年、フェラーリの支配は受けず、自立を貫いてきた。
しかし昨年来、この状況に変化が生じ始める。
まずミック・シューマッハーはFDA(フェラーリ・ドライバー・アカデミー)所属であり、デビューチームにハースが選ばれたのは初のケースとなる。他にもテクニカルディレクターが送り込まれており、マラネロの一部施設が独立性を持たせた上でハースの独自開発パーツ製造などに使われることも発表済みだ。
つまり、直近でフェラーリのセカンドチーム化が進行している。これには、財政的事情が大きいのだろう。過去2年、成績が落ち込んだことでコンストラクターズ選手権順位に伴う分配金の額が減少。さらにコロナウイルス蔓延による企業的な打撃も免れない。
そうした状況下で、2021年型のハースVF-21は製作された。クルマの成り立ちとして、フェラーリの影響は避けられない。空力の一部に独自色は出しても、根本的な思想はコピーとならざるを得ない。ここで危惧されるのは、前年型のフェラーリが大不振だったということだ。
さらにつけ加えるなら、1年延期となって来季に控える車体規定の大刷新にチームは全リソースを集中するとしている。VF-21にはシーズン中に、ほぼ新規開発を行なわないとの表明もあった。つまりVF-21は初期段階から速くなければ、上位は望めないのだ……。
シューマッハーとコンビを組むのは、こちらも新人のニキータ・マゼビン。多額のスポンサーマネーを持ち込んできた。テスト前日のシェイクダウンは、このマゼビンが担当。シューマッハーはテスト初日午前が、VF-21の初ドライブとなる。
だが、ここで油圧システムに不具合が出た。周回は15周に留まる。チームのガレージは英国にあり、コロナの状況下でEU圏内との自由な行き来ができない。そのためテスト会場のバーレーンを訪れて初めて、シャシーとパワーユニットは組み合わされた。そんなドタバタの影響もあったか。
幸いこれ以降、3日間のテスト期間中に信頼性のトラブルは出ず、シューマッハー、マゼビンともに多くの周回を稼ぐ。ただVF-21のペースに光るところはみられず、ベストは最終日午後を担当したマゼビンがC4タイヤで出したタイム。これは3日間全体の17番手だった。もっとも軟らかいC5タイヤでの、一発アタックのタイムは残さなかった。
シューマッハーはこれまで経験したカテゴリーで、いずれも参戦2年目に大きく成績を伸ばした。昨季のFIA-F2タイトルも、参戦2年目だ。チームは「今年は経験を積む年にしてほしい」と語りかける。
ただ本人は「覚悟はできている」と言う。シューマッハーという名前を背負うがゆえのプレッシャー、これまでそれを何度も乗り越えてきた。
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