英国人ライターのF1ルーキーペア観察日記/バーレーン編:惨憺たるデビュー戦。マゼピンが示した自分への強い怒り
2021年F1にデビューするミック・シューマッハーとニキータ・マゼピンは、ともにハースF1チームで初めてのシーズンを送る。ふたりはどのように学び、つまずき、成長していくのか。キャラクターの異なるふたりのルーキーのデビューシーズンを、英国人ジャーナリスト、クリス・メッドランド氏が観察していく。
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開幕戦バーレーンGPを終えて分かったのは、今年はハースにとって長く厳しいシーズンになるということだ。ふたりのルーキードライバーは非常に苦労するだろう。とりわけミスを犯した場合には……。
今年のミック・シューマッハーとニキータ・マゼピンに大きな期待はかけられていない。ハースの2021年型マシンに競争力がなく、グリッド後方に沈むだろうことを誰もが知っているからだ。ふたりにとって今年は、とにかく経験を積んで向上し、マシンのパフォーマンスが改善することが期待される2022年への準備を整えるための時間なのだ。
しかしハースのひとりは、開幕戦を低調のまま終え、最初の基準点をかなり低い位置に刻むことになった。彼はここから大幅に改善していかなければならない。
マゼピンはこの冬の間の一件で激しい批判を受けてきた。だからこそ、自分を叩く理由を誰にも与えないために、開幕戦を堅実に戦い、F1キャリアをいい形でスタートさせる必要があった。しかし残念ながら彼にとってのデビュー戦は堅実とはほど遠いものだった。
FP3でスピンしたことは大きな問題ではない。彼はルーキーであり、マシンの限界を探っている最中だった。そしてあの時間帯は非常に風が強かった。だが予選Q1の最初のラップでマゼピンは再びスピンをした。ターン13で彼がスピンしたことで、後ろを走っていたシューマッハーの走りを邪魔することにもなった。
この日、すでに2回スピンしたのだから、Q1最後のマゼピンにとって望ましいのは、確実にアタックラップを走り、しっかりタイムを出すことだった。しかし彼はその重要な局面で非常に不運な状況に陥った。
Q1終盤では、アウトラップを走るドライバーたちの間で渋滞が起こることがしばしばある。ひどいときには隊列の後ろを走るドライバーが時間切れとなり、アタックラップに入れないということが起こり得るのだ。マゼピンはそれを避けるため、チームの指示で、ドライバー間の紳士協定を破って、アタック開始直前に何台ものマシンをオーバーテイクした。
「僕はこのチームに所属するドライバーだ。無線で言われたとおりに行動するよう指示されている」とマゼピンは予選後に語った。
「スタート/フィニッシュラインを越えた時、残り時間は2秒だった。追い抜いていなければ、チェッカーフラッグを受けてしまっていただろう。待っている余裕はなかった」
「あの時僕は、大勢が連なって走っている列のなかにいた。(チームから)今行かないとセッションが終わってしまう、と言われた。(指示に従う)それ以外にどうすべきだった? 僕はチームから言われたことに従う。最終的にはそれが僕の仕事だからだ。不満に思っている人がいるなら申し訳ないけれど、僕はエンジニアのアドバイスに従っただけだ」
真の問題は、マゼピンがターン1に入った時にスピンをしてしまったことだ。ブレーキ・バイ・ワイヤの問題が起きた影響だった。
この一件については彼を気の毒に思う。ルーキーがチームの指示どおりに動くのは正しいことだ。そういう意味で、彼は、たとえ他のドライバーたちの怒りを買おうとも、オーバーテイクしていくしかなかった。そしてその後のスピンも彼のせいではない。
■数百メートルで終わった決勝「僕のミス。チームに申し訳ない」
3回スピンを喫してしまったマゼピンにとって、決勝で重要なのは、問題を避けて走り続け、たくさんの経験を積むことだったはずだ。ところがマゼピンはその目標を達成することに完全に失敗した。ターン2を立ち上がった時点で隊列の最後尾を走っていたマゼピンは、コースオフしてアウト側のバリアにクラッシュ、わずか数百メートルでレースを終えた。土日の2日間で4回目のスピンだ。
「単純な話で、僕がミスをしたんだ」とマゼピンはレース後に話した。
「タイヤが冷えていた時に縁石に乗り、そこでスロットルをあけすぎてスピンした。完全に僕のミスだ。チームには本当に申し訳なく思っている。彼らにふさわしいのは、もっとずっといい結果だった。今、自分にものすごく腹を立てている……」
その怒りは偽りのないものだった。チーム代表ギュンター・シュタイナーは、わずか2コーナーで2台のうち1台がダメージを負ったのを見て失望しつつも、「マゼピンはひどく自分を責めていた」と、レース後の彼の様子を明かした。
マゼピンが悲惨な形でデビュー戦を終えたのに対し、シューマッハーは極めてスムーズな週末を送った。チームメイトを予選で上回り、決勝スタートもきっちりと決めた。ただ、セーフティカーピリオドの後、シューマッハーもスピンを喫した。
スタート直後とリスタート直後、ふたりがそれぞれスピンをしたことから見て、ハースのマシンが乗りづらいものであることは明らかだ。だが、シューマッハーが犯したミスはその一度きりで、その後はレースを走り続けて完走し、貴重な走行経験を積んだ。
シュタイナー代表は、シューマッハーがスティントごとに進歩を遂げていったこと、デビューグランプリを通して学んだ、その姿勢について、感心したという
バーレーンGPで、ハースのルーキーのひとりは有意義な経験を積み、明るい兆候が見えた。もうひとりはルーキーならではのミスを多数犯し、マシンを壊した。代えのパーツを用意しなければならないハースにとって、次のイモラ戦まで3週間あるのはせめてもの慰めというべきか。
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