山本尚貴「順調ではない。ちょっと困っています」/スーパーGT王者に聞く手応えと期待値
「余韻にひたる時間がほとんどないくらい、テストやイベントなどが多くて。家にいる時間がほとんどなかったですね」
スーパーGT GT500クラスと全日本スーパーフォーミュラ選手権のWタイトルを獲得したあとのオフを、山本尚貴はそう振り返る。テストはこれまでどおりだが、チャンピオンとなったことで年内は各種表彰式などで予定が埋まっていった。それでも年末年始だけは家族と一緒に過ごす時間を作り、旅行に出かけた。
「短い時間ではあったけど、すごくいい思い出になりましたね」。
そして年明けからは“2019年モード”全開。達成感や喜びは過去のものとして、“連覇達成”に向けいつもどおり意識を高めている。
ただ、GT開幕に向けた1号車RAYBRIG NSX-GTの状況はあまり芳しくないようだ。
■「決して三味線を弾いているわけでも、余裕があるわけでもない」
「正直、現段階ではかなり苦戦しています。オフの最初の頃のテストでは結構いいフィーリングを得ていたんですけど、岡山の公式テスト(3月16〜17日)あたりから、うまく走れなくて。決して三味線を弾いているわけでも、余裕があるわけでもないんです。なので、開幕戦に対して順調かと言われると、順調ではないです。ちょっと困っています」
原因については現在分析中だというが、岡山テストに向けては細部で変更があり、「その積み重ねが意外と大きな差になっているのかも」と山本。「逆に、そのあたりが原因でないとしたら、ちょっとやっかいかもしれません」。
NSX全体の開発で言えば、セパンなどのテストで試してきた新型フリックボックスは、富士公式テストでは見られなかった。どうやら従来(18年型)に近い仕様で開幕を迎えることになりそうだ。山本によるとこれは「一年を通して戦いやすいクルマにしないといけない」というホンダ全体の方針を反映した結果だという。
「(新しいエアロは)良さはもちろんあったんですけど、ちょっとトガっていたというか……。ダウンフォースは出るんですが、ちょっとピーキーでした。コンディションがずれたり、車高やタイヤの内圧がちょっと狙いからずれると、本来得たいダウンフォースが得られなかったり……とネガな部分がやや顕著に出てしまうという難しさがあったんです」と山本は明かす。
ただ、新エアロを用いたパフォーマンス向上を最後の最後まで諦めずに開発を進めるなかで、開幕直前の土壇場になって採用を見送る判断がされたようだ。
「新しいパッケージのいいところ・悪いところは、セパンの時点ではもう分かっていました。ただデータも充分ではなかったし、そこで『ダメだ』と投げてしまっては開発が終わってしまう。だから『何かいいものがないか』と新しいパッケージを煮詰めていったんです」
「もしサーキットごとにエアロを選べるというルールであれば問題ないのですが、いまのルールだと1仕様にしなければならないので……そこが面白くもあり、悩ましくもある部分ですね」
“年間を通して戦いやすいクルマ”という意味では、エンジンについても今年は若干の方針転換がなされた。昨年ホンダは冷却の厳しい暑い時期のパフォーマンスをやや犠牲にし、涼しい春と秋に照準を絞った。
狙いどおり涼しい時期に好成績を収めてタイトルを獲得したが、「狙ったとおりにレースできるかというとそれは簡単ではないし、いつでも自分たちにチャンスがあるように(クルマを)作らないと取り逃がしてしまうと思う。今年はそれが空力にも、エンジンにも現れている」と山本。
実際に本番仕様のエンジンが載るのは開幕戦からになる模様で、その面では現状やや苦戦気味に映るホンダ勢に「伸びしろ」は期待できる。
■タイトル防衛に向けた山本らしい意気込み。「いい意味で“らしからぬ戦い”をしたい」
ここまでのオフテストを見る限り、ホンダ内ではARTA NSX-GT(8号車)が比較的好調で、山本も「順当にいけば、最大のライバルになるのは間違いない。一番見る(=注意する)べき相手」とその実力を認める。
一方で「現状は8号車の方がうまくいっている面もあると思いますが、抱えている問題も僕たちと同じような感じではあるので、NSXを速くするためにいまは力を合わせてレベルを上げていくことが重要だと思います。レベルが上がったクルマで勝負する場面がきたら、その時戦えばいい。いまは戦闘力を上げることが最大のミッションだと思っています」とホンダ勢、とくに1&8号車の“共闘体制”の重要性も山本は強調する。
果たして今季の NSXのポテンシャルはどれほどなのか? その一端は間もなく岡山で明らかになるはずだ。
最後にタイトル“防衛”に向けた意気込みを訊くと、山本らしい答えが返ってきた。
「このゼッケンを背負うことによって、すでに意識している部分はあるし、タイトルを獲った次の年の戦いが大事なのも分かっている。けど、いい意味で“ディフェンディングチャンピオンらしからぬ戦い”をしたいですね。常に挑戦者の気持ちで居続けたいし、守りに入った時点でタイトルはどんどん遠のいていくと思う。去年と変わらず、純粋に『勝ちたい』。その気持ちを全面に出して、戦っていきたいと思います」
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