【2024年GT500をイチから学ぶ】注目のホンダ・シビック、車高とタイヤのルール変更、ドライバー移籍で勢力図激変か
いよいよ4月13〜14日の第1戦『OKAYAMA GT 300km RACE』で2024年シーズンの幕が上がるスーパーGT。ここでは『2024年スーパーGTをイチから学ぶ』企画のGT500クラス編として、日本が世界に誇るハコ車レースの魅力を改めておさらいしたい。
スーパーGTとは、すでに掲載したGT300編で説明したとおり、日本におけるモータースポーツのシリーズ戦として国内最大級の観客動員を誇る人気カテゴリーだ。レースは2クラス混走で争われ、そのなかのGT500クラスは、大手自動車メーカーが力を注ぐ“己の威信”をかけて争う場だ。
■GT500クラスの基本レギュレーションをおさらい
2クラス混走の争いが特徴のスーパーGTにおいて、速さに勝るのがGT500クラス。このクラスに参戦するマシンは、ハコ車世界最速を目指した『GT500規定』で開発が行われ、2024年はトヨタ、ニッサン、ホンダの3メーカーがしのぎを削る。
GT500クラス参戦マシンは3メーカーでベース車およびボディ形状が異なるが、モノコックにはカーボン製の共通パーツが導入され、車体全長、全幅、車体高、ホイールべースはレギュレーションによって定められている。エンジンは2リッター直列4気筒直噴ターボエンジンの“NRE(ニッポン・レース・エンジン)”規格で統一され、年間2基まで使用できる。
そのほかにもミッションやクラッチ、フューエルタンクなどが共通パーツになっているが、昨季2023年からは環境に配慮したカーボンニュートラルフューエル(CNF)の『GTA R100』が導入され、GT500参戦全チームはこの燃料でレースを戦う。
また、世界中のレースでワンメイクタイヤの採用が進むなか、スーパーGTではマルチメイクによるタイヤ開発競争も注目ポイントのひとつ。今季はミシュランがGT500でに活動を終えてしまい、12台がブリヂストンを履く状況だが、ヨコハマとダンロップも着々と戦力を上げてきているため、コンディションによっては勢力図がまったく読めない展開になる。
そんなGT500クラスでハード面での今季いちばんのトピックスと言えるのが、ホンダ・シビック・タイプR-GTのデビューだろう。従来のNSX-GTが2ドアクーペだったのに対し、シビック・タイプR-GTは5ドアハッチバックがベースとなり、マシンの外観も大幅変化。しかし、変わったのは外観だけではなく、エンジンルームのレイアウト一新など進化を遂げている。
このシビック投入と合わせ、他メーカーも2024年車両をアップデート。ニッサン陣営はRZ34型ニッサンZという車両こそ変わらないものの、ベースモデルをフロントノーズの長い“ニスモ”に刷新している。
一方のトヨタ陣営は、2020年から投入しているGRスープラを継続するが、マシンの空力開発やエンジンの改良などで戦力アップを図る。なお、空力開発はシーズン開幕前までの定められた時期まで可能だが、シーズンに入ってからの変更は認められていない。
■トヨタGRスープラGT500主要諸元(2023年)
パーツ | 詳細 |
---|---|
エンジン型式 | RI4AG |
エンジン形式 | 水冷直列4気筒縦置ターボ |
総排気量(cc) | 2000 |
最大出力(PS/kw) | 550以上 |
最大トルク(kg・m) | – |
燃料供給装置型式 | 直噴 |
使用燃料種類 | カーボンニュートラルフューエル(CNF)『GTA R100』 |
全長×全幅(mm) | 4725×1950 |
車体高(mm) | 1150 |
ホイールベース(mm) | 2750 |
トレッド(F/R mm) | -/- |
車両重量(kg) | 1020以上(ドライバー、燃料除く) |
駆動方式 | FR |
フレーム※ | フルカーボンモノコック+鋼管ロールケージ |
ボディ | カーボン/エポキシレジンコンポジット |
ミッション※ | ヒューランド製6速パドルシフト |
クラッチ※ | ZF製カーボン 5.5インチ4プレート |
サスペンション方式(F/R) | ダブルウィッシュボーン式 |
スタビライザー形式(F/R) | トーションバー式 |
ステアリング装置形式 | 油圧パワーステアリング付きラック&ピニオン式 |
ブレーキ形式※ | 油圧式ベンチレーテッドカーボンディスク(F:6ピストン/R:4ピストン) |
タイヤ(F/R) | 300 680R18/330 710R18 |
ホイール(F/R) | 12.0J×18/13.0J×18 |
オイルクーラー | 水冷式 |
フューエルタンク※ | ATL製100ℓ |
ヘッドライト | LED6灯式 |
※共通パーツ
■カギを握るのは“最低地上高5mmアップ”か
2024年のスーパーGTでは、安全性の向上を図るため、GT500とGT300の両クラスでコーナリングスピードを抑制するための規定変更が行われた。
世界最速のハコ車であるGT500クラスでは、ダウンフォース量を従来から軽減するため、車両の最低地上高を規制しているスキッドブロック(車両底面に付けられた板状部品)の最小厚さが増加。これにより、車両の最低地上高が5mm上げられた。
たった5mmの変更かと思うかもしれないが、現代GT500マシンは車両全体のエアロマップを含めた車高管理をコンマ数ミリ単位で行っているため、5mmの車高アップはクルマのセットアップやタイヤへの荷重、そしてドライビングに非常に大きな影響を及ぼすことになる。
また、今季のスーパーGTでは、持ち込みタイヤの使用セット数が300kmレースの場合は5セット(1台20本)から4セット(1台16本)に“1セット減”となった。さらに予選では、Q1とQ2を同じセットで走らならければならず、決勝のスタートも予選で使用したタイヤを使用する。このため、レースウイーク中のタイヤマネジメントや、タイヤ選択に各チームが頭を悩ませている。
決勝レースのグリッドを決める予選については、今季はスーパーGT全体で『タイム合算』方式に予選方式が変更された。GT500クラスでは、レースウイーク土曜日に行われる予選Q1、Q2両セッションで全15台が出走し、それぞれのセッションでドライバーひとりずつタイムを記録、その合算タイムでもっとも速い車両から順位が決定される。
予選結果は各車がQ1とQ2で記録されたタイムの合算で決められるため、ドライバーふたりの速さがスターティンググリッドに直結するといっても過言ではない。なお、予選トップ3での得点は、予選出走ドライバーにポールポジション3点、2番手2点、3番手1点が与えられる。
決勝レースでの得点については2クラス共通で、1位の20点から10位の1点までが与えられる。また、GT500クラスでは、トップ車両およびトップ車両と同一周回完走車に3点、トップ車両に1ラップおくれの完走車に2点、トップ車両に2ラップ以上おくれの完走車に1点が加算される。
■シリーズ得点基準
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | 6位 | 7位 | 8位 | 9位 | 10位 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
得点 | 20 | 15 | 11 | 8 | 6 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
スーパーGTの特徴でもあるサクセスウエイト制では、GT500クラスは100kgを上限に、第1〜6戦目まではポイント×2kg、第7戦目はポイント×1kgを搭載し、第8戦はサクセスウエイトなしで争われる。
またGT500クラスでは、サクセスウエイトが50kgを超えた場合は、次の表どおりの燃料流量を規制するリストリクター径の調整を併用し、サクセスウエイトが課されることになっている。
課されたサクセスウエイト | 0-50kg | 51-67kg | 68-84kg | 85-100kg |
---|---|---|---|---|
車載ウエイト | 0-50kg | 34-50kg | 34-50kg | 35-50kg |
燃料流量リストリクター | 95.0kg/h | 92.6kg/h | 90.2kg/h | 88.0kg/h |
■例年に増して移籍ドライバー多し。楽しみなルーキー4名
昨季2023年シーズンは、名門トムスが走らせる36号車au TOM’S GR Supraが王者に輝いたGT500クラス。その36号車au TOM’Sは全日本スーパーフォーミュラ選手権との2冠を達成した宮田莉朋がFIA F2挑戦のため離脱となったが、新たに2019年王者の山下健太が加入して坪井翔とコンビを組む。
36号車au TOM’Sはチーム、ドライバーともに実力者を揃え、シーズンオフのテストでもトップタイム連発の好調さを披露しており、今年もチャンピオン候補の最右翼だろう。
さらにトヨタ陣営では、福住仁嶺と大湯都史樹がホンダから加入した。福住は昨年最終戦までタイトルを争いホンダ陣営最上位につけ、大湯はクラッシュする場面も多く見られたが、そのスピードに関して疑いの余地はないため、GRスープラへの慣れ次第ではランキング上位を争う存在になるかもしれない。
一方で、最終戦でチャンピオンを逃したニッサン/ニスモ陣営はドライバーラインアップを大幅変更。唯一の継続は2022年王者の12号車MARELLI IMPUL Zの平峰一貴とベルトラン・バゲットのみ。
昨年3号車Niterra MOTUL Zでランキング2位につけた千代勝正は、新たにニッサンのエースとして23号車MOTUL AUTECH Zでロニー・クインタレッリとコンビを組む。
千代が抜けた3号車は、ニッサンのスピードスター高星明誠が第1ドライバーとなり、パートナーにはルーキーの三宅淳詞が大抜擢された。三宅はGT500ルーキーとはいえ、GT300クラスやスーパーフォーミュラでは速さをみせているドライバー。今年もニスモの2台は隙がなさそうだ。
また、同陣営で唯一ヨコハマタイヤを装着する24号車リアライズコーポレーション ADVAN Zには、長年23号車をドライブした松田次生と、ルーキーの名取鉄平が新加入。24号車はベテラン松田の開発力と、ルーキー名取の速さが調和したとき、侮れない存在になるかもしれない。
そして、新たにシビック・タイプR-GTを投入するホンダ陣営では、佐藤蓮と大草りきという2名のGT500ルーキーを起用する。ふたりともGT300クラスやスーパーフォーミュラで活躍していただけに楽しみな存在であり、シーズンオフテストでも目立ったミスをしていないので、シーズン中の活躍も期待できそうだ。
100号車STANLEY CIVIC TYPE R-GTには、昨年の第6戦SUGOで大きなアクシデントに見舞われた山本尚貴の復活もトピックスのひとつ。パートナーの牧野任祐は二度の公式テストを欠場してしまったが、昨年後半戦で山本が離脱した際にチームを率いた経験と、持ち前の速さで帳尻を合わせてくるだろう。
■2024年スーパーGT GT500クラス年間エントリーリスト
No | Team | Car Name | Driver | Tyre |
---|---|---|---|---|
3 | NISMO NDDP | Niterra MOTUL Z | 高星明誠/三宅淳詞 | BS |
8 | ARTA | ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT #8 | 野尻智紀/松下信治 | BS |
12 | TEAM IMPUL | MARELLI IMPUL Z | 平峰一貴/ベルトラン・バゲット | BS |
14 | TGR TEAM ENEOS ROOKIE | ENEOS X PRIME GR Supra | 大嶋和也/福住仁嶺 | BS |
16 | ARTA | ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GT #16 | 大津弘樹/佐藤蓮 | BS |
17 | Astemo REAL RACING | Astemo CIVIC TYPE R-GT | 塚越広大/太田格之進 | BS |
19 | TGR TEAM WedsSport BANDOH | WedsSport ADVAN GR Supra | 国本雄資/阪口晴南 | YH |
23 | NISMO | MOTUL AUTECH Z | 千代勝正/ロニー・クインタレッリ | BS |
24 | KONDO RACING | リアライズコーポレーション ADVAN Z | 松田次生/名取鉄平 | YH |
36 | TGR TEAM au TOM’S | au TOM’S GR Supra | 坪井翔/山下健太 | BS |
37 | TGR TEAM Deloitte TOM’S | Deloitte TOM’S GR Supra | 笹原右京/ジュリアーノ・アレジ | BS |
38 | TGR TEAM KeePer CERUMO | KeePer CERUMO GR Supra | 石浦宏明/大湯都史樹 | BS |
39 | TGR TEAM SARD | DENSO KOBELCO SARD GR Supra | 関口雄飛/中山雄一 | BS |
64 | Modulo Nakajima Racing | Modulo CIVIC TYPE R-GT | 伊沢拓也/大草りき | DL |
100 | STANLEY TEAM KUNIMITSU | STANLEY CIVIC TYPE R-GT | 山本尚貴/牧野任祐 | BS |
これまで挙げたチームのほかにも、大いにチャンピオン獲得の可能性を持つ2024年のGT500クラス。今年も最終戦まで見ごたえのあるレースが繰り広げられそうで、新車両とともに一年が楽しみでしかない。
いよいよ新シーズンが幕を開ける2024年スーパーGTは、4月13〜14日に岡山国際サーキットで戦いの火蓋が切られる。
■2024年スーパーGT シリーズスケジュール
Round | Date | Circuit | Format |
---|---|---|---|
第1戦 | 4月13〜14日 | 岡山国際サーキット | 300km |
第2戦 | 5月3〜4日 | 富士スピードウェイ | 3時間 |
第3戦 | 6月1〜2日 | 鈴鹿サーキット | 3時間 |
第4戦 | 8月3〜4日 | 富士スピードウェイ | 350km |
第5戦 | 8月31日〜9月1日 | 鈴鹿サーキット | 350km |
第6戦 | 9月21〜22日 | スポーツランドSUGO | 300km |
第7戦 | 10月19〜20日 | オートポリス | 3時間 |
第8戦 | 11月2〜3日 | モビリティリゾートもてぎ | 300km |
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