海外ライターF1コラム:24戦の理不尽なカレンダーが招く問題。人材不足が深刻化、“根無し草感”で疲弊するドライバー
ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、史上最多24戦のカレンダーがもたらす問題点に焦点を当てた。
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F1カレンダーは急激に拡大しつつある。20年前にはカレンダーは16戦で構成されていたが、今年は24戦が予定されている。そして、開催数の多さが、F1にたくさんの問題を引き起こしている。
F1の仕事はかつては夢の職業だったが、今では適格な従業員を見つけることが難しくなりつつある。メカニック、エンジニア、タイヤ技術者やその他、F1の現場で働く人々にとって、一年に24週間も自宅を離れなければならない環境を考えると、もはやF1は魅力的な職場ではない。
雇用主は、仕事量の増加を補うために従業員の給与を引き上げたくても、予算上限規定の関係でままならない。バジェットキャップはチーム間の競争力の差を縮めるために導入された規則で、その目的はある程度達成しているものの、従業員の昇給を妨げるなど、残念な副作用もある。
そうしたなかで、若いメカニックやエンジニアたちのなかには、F1以外のチャンピオンシップに目を向ける者もいる。WEC世界耐久選手権には、より高いサラリーを支払うことができるファクトリーチームがいくつもあるし、年間開催数もわずか8戦だ。
■ローテーション制を採用できないハースの厳しい状況
F1のビッグチームは、多くの従業員をローテーションし始めている。ひとつの仕事の担当者としてふたりのスタッフを任命し、彼らが交代で休めるようにするわけだ。役職によっては全戦に参加しなければならないが、チーム代表であっても、時折休むために代役を立てようとしている。
もちろん、ドライバーはすべてのレースに出席しなければならない。
「絶対に休むことができないメンバーもいて、僕もそのひとりだ」とハースのレースドライバー、ケビン・マグヌッセンは言う。
「ドライバーにとって長いカレンダーは負担だが、それでもメカニックが耐えている負担ほど厳しくはない。もちろんF1ドライバーの仕事は簡単ではないけどね」
「長時間労働だけが問題なのではない。これは僕自身のことで、他の人はどうか分からないけれど、人を疲れさせるのは、根無し草のような感覚だ。F1ドライバーという仕事をしていると、生活に安定感がなくなる。レース数が増えれば増えるほど、根無し草の感覚が増していく。それが人を疲れさせるんだ」
マグヌッセンは、ルイーズ夫人と幼い娘たち、ローラとアグネスを、できるだけ多くのレースに同行させることで、根無し草感覚と戦おうとしている。
ハースは、従業員の交代制を採ることができないため、スタッフに大きな負担がのしかかっているという。
「ハースはそれなりの規模があるが、従業員のローテーションをすることはできない。そういうチームにとっては、24戦のカレンダーは特に厳しい」とマグヌッセンは言う。
「24戦すべてに行かなければならないスタッフがあまりに多いんだ」
■フェルスタッペンやアロンソも24戦開催に否定的
現チャンピオンのマックス・フェルスタッペンは、シーズンスタート前から、24戦は多すぎると主張していた。開幕戦を前にした記者会見でフェルスタッペンは、今のカレンダーについて「限界をはるかに超えている」と断言した。
現役ドライバー最年長42歳のフェルナンド・アロンソは、「僕がF1活動を始めた時には16戦だった」と振り返る。
「それが18戦になり、その後、リミットを20戦にするという話が出てきた。そして今は24戦に増えている。これはいつまでも耐えられるレベルではない」
日本GPの週末、鈴鹿のパドックにいた人々の大多数が、24戦は多すぎるという意見を示していた。今シーズン序盤のスケジュールはハードなもので、日本を訪れたF1関係者は、その前の4週のなかでバーレーン、サウジアラビア、オーストラリアの3戦を消化していた。日本の後は中国、そしてその後はアメリカのマイアミでのグランプリが控えている。こういったカレンダーは、F1関係者にとって合理的ではなく、CO2排出量としても持続可能な移動プログラムとはいえない。
それではなぜこういうカレンダーが形成されたのか。その理由は明らかだとマグヌッセンは言う。
「カレンダーが24戦にまで膨れ上がった理由は簡単に理解できる。もちろん、お金だよ」
F1は世界で最も金がかかるスポーツだ。利益を追求し続け、今のF1は大きな成功を収めているが、一方で、F1界の人々は、理不尽なカレンダーに耐えなければならない状況に陥っている。
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