【レースフォーカス】2020年を教訓に精神面を強化。クアルタラロは2連勝でも同じ轍は踏まず/MotoGP第3戦ポルトガルGP
ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)は第2戦ドーハGPと第3戦ポルトガルGPで続けざまに表彰台の頂点に立った。けれど、クアルタラロにとっては2連勝してシーズンを始めた2020年と同じではない。環境やバイクだけではなく、自身の進化がそこにあった。
ポルトガルGPの決勝レースで、クアルタラロはポールポジションからスタートした。しかしスタートでは一時後退。6番手から再び追い上げ、9周目にはトップに浮上した。
そのペースは後半に入っても落ちなかった。この日のレースペースは速く、クアルタラロと2番手のアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)は競うようにファステストラップを叩き出した。最終的にファステストラップはリンスが18周目にマークした1分39秒450。2020年最終戦でミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)が記録したタイムを、約0.4秒更新するもので、クアルタラロも17周目には1分39秒472とリンスに近いタイムを刻んでいる。
「僕が(リンスの)前に出て、タイムが1分39秒の後半から中盤に入ったときに、これは普通ではないけれど、このコースコンディションではみんな、少しペースが速くなるだろうと思った。だから、かなりプッシュしたよ」
リンスはクアルタラロの後方で0.2秒ほどの差を保っていたが、19周目に転倒。限界ぎりぎりの走りではあったが無理な走りをしていたわけではないようで「クラッシュしたコーナーでは特に変な動きをしていない。ブレーキングポイントもブレーキのかけ方も同じだった。でも、たまに起こることだ」と転倒について説明した。
さて、そんなハイペースのレースで、リンスが転倒したあとクアルタラロに追い付ける者はいなかった。カタールとポルティマオ。二つの異なる特徴を持ったサーキットで優勝を挙げたクアルタラロは、バイクのフロント部分について改善を感じているという。
「新しいシャシーにいいフィーリングがある。ほかにもあるけれど、実際にはそれが僕を速く走らせるものの一つだ。もしフロントのフィーリングを感じなければ、2020年のバレンシアのように転倒してしまう。カタールでは、フロントのフィーリングがとてもよかった。そして、ここポルティマオではまったく同じフィーリングだった。3コーナー、それから僕がアレックス(・リンス)をオーバーテイクした1コーナーだね」
「僕は限界を感じていたけれど、フロントのどんな動きをも感じていた。大丈夫だと感じたんだ。だから、電子制御的には問題ないし、タイヤ的には、最高にしようとしている。できるだけ最高のペースで、最後までもつように。そして限界まで攻めようとしている」
「昨年から、ヤマハはかなりよくなっている」とクアルタラロ。そしてまた、クアルタラロ自身も変わった。考え方を変えたんだ、と言う。
「僕としては、精神的により強くなったと感じている。昨年はたくさんのことを学んだ。バイクがそんなによくないとき、僕はネガティブに考えていた。だから、まったく変えたんだ。常にポジティブに考えようと」
「オフシーズン中、精神面で心理学者とかなり取り組んできたんだ。彼が僕に与えた訓練はよかったのだと感じる。落ち着きをキープする。だから、プレシーズン(にやったこと)についてとても満足なんだ」
2020年は2連勝してシーズンの幕を開けた。チャンピオンシップをリードしたのはクアルタラロにとって、初めての経験だった。2021年、ポルトガルGPでクアルタラロは再びチャンピオンリーダーとなった。けれど、当然ながら同じ轍を踏むつもりはない。
「今は1レース、1レースについて考えているよ。今はチャンピオンシップについては考えていない。ただ次のレースについて考えている」
■イエローフラッグにほぞを噛んだバニャイア
クアルタラロが最後は独走で優勝を飾ったが、フランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)もポルトガルGPの週末に速さを見せていた。11番グリッドからスタートし、上位を走っていたライダーの相次ぐ転倒があったとはいえ、2位表彰台を獲得したのだ。
ポイントとなったのは予選だった。バニャイアはポールシッターであるクアルタラロのタイムを上回る1分38秒494を記録したものの、イエローフラッグ区間を通過したことでタイムが抹消となったのである。状況としてはこうだ。他のライダーが9コーナーで転倒を喫したためイエローフラッグが提示された。イエローフラッグが提示されている間に、ちょうどアタック中だったバニャイアがその区間を通過した。その場合、レギュレーション上、タイムはキャンセルされる。このため、バニャイアは11番グリッドに沈むことになったのだ。
「9コーナーにかけて下っていって、イエローフラッグが右側に出ていた。僕はすでに左コーナーである9コーナーに差し掛かっていた。(イエローフラッグを)見ることは不可能だったよ。(ルカ・)マリーニが僕の後ろにいて、同じことを言っていた。イエローフラッグを見るのは不可能だった、とね。でもとにかくルールだから、従わないといけない」
バニャイアは予選後、このように述べた。なお、2022年からはMotoGPにデジタルフラッグパネルの導入が予定されており、今季のポルトガルGPからその“予行演習”としてデジタルフラッグパネルが配置されているが、当該ポストはマーシャルによるフラッグ提示だった。
ともあれ、こうした状況から表彰台を獲得したのだから、やはりバニャイアがこの週末に最速ライダーの一人だったことは間違いないだろう。序盤の追い上げによりリヤタイヤが消耗したと語ったが、終盤のペースを見ればクアルタラロとそん色ないものだった。
「(アタックラップ中のイエローフラッグ提示によりラップタイムがキャンセルとなったことで)優勝のチャンスを失ってしまった。今日は2位だったかもしれないけれど、(クアルタラロと優勝を)争う可能性はあったはずだ」
そして、表彰台の最後の一角を手にしたのはディフェンディングチャンピオンのジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)。2021年シーズン、初の表彰台獲得である。カタール、ポルティマオ、そして続くヘレスやル・マンはスズキと相性のよいサーキットではない、とミル。特に今大会のポルティマオはミル自身のライディングスタイルにあまり合わないというから、表彰台獲得は上々の結果といったところだろう。
ただし懸念はある。ミルは1周目に3番手に浮上したが、その後少しずつクアルタラロ、そしてチームメイトのリンスとの差が開いていった。大きくペースを落として後退することはなかったものの、最後にはバニャイアにも交わされた。
「レースの序盤はコントロールできていた。ただ、フロントに問題が出てきた。何が起こったのか確認しないといけない。これは次戦に向けて重要なことだ。もしまた起こったら、表彰台を獲得するのが難しいかもしれない。今日はうまくマネジメントして表彰台を獲得したけれど、もっとよくする必要があるね」
カタールでの2連戦とポルティマオを経て、スペインのヘレス・サーキットでの第4戦を迎える。例年であれば、このヘレスからシーズンの動向が見え始めるころだ。ポルトガルGPで復帰を果たしたマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は間違いなく存在感を高めるだろう。ヘレスからはどんな展開を迎えることになるのだろうか。
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