゙鈴鹿マイスター゙山本尚貴の「かつてない不安」に打ち克った破顔のスーパーフォーミュラ開幕勝利
「山本尚貴選手、4度目の優勝おめでとうございます」
優勝記者会見で司会者が投げ掛けた祝福の言葉に、TEAM MUGENの山本は「え、4回目? それってポール・トゥ・ウインの回数じゃなくて?」と真顔で答えた。しかし、すぐに「そうか、オレってポール・トゥ・ウインしかしていないのか」と突っ込みを入れ、会場の笑いを誘った。
補足するならば、山本の4回の優勝はすべて鈴鹿で挙げたものである。最後の勝利は2016年の開幕戦。以降は厳しい戦いが続いていた。表彰台フィニッシュは翌2017年の開幕戦鈴鹿に留まり、ランキングも低迷。それだけに長い冬をついに脱した山本の表情は実に晴れやかで、ポディウムでの屈託のない笑顔がとても印象的だった。
今回のレースでは山本を含むホンダ勢の速さが光り、予選ではすべてのセッションでホンダエンジン搭載車が上位を占めた。Q3では山本がチームメイトである福住仁嶺(TEAM MUGEN)を抑えポールポジションを獲得したが、そのとき山本のマシンは万全とはいえない状態だった。「クルマのせいにはしたくない」と症状については明言を避けたが、実は直線スピードが伸びず、基本的には同じ仕様の福住車と比べても最高速は大幅に劣っていたようだ。
原因はなかなか特定できず、不安を抱えたまま決勝日を迎える。しかし、朝のフリー走行は安定感抜群のタイムで周回を重ねるなど順調で、決勝では絶好のスタートを決めホールショットに成功。レース序盤では、2番手の福住に追撃を断念させるほど盤石なラップを刻み続けた。
唯一、山本の背後に迫ったのは5番手スタートの塚越広大(REAL RACING)だったが、彼が2ストップ作戦を狙い燃料を少なく積んでいることはタイムからも明らか。無理をせず先に行かせる策も頭をよぎったが、8周目の1コーナー、山本は横に並びかけた塚越を抑えきり首位を死守した。
「先に行かれても最終的には(2ストップの)塚越選手の前に出られただろうが、しばらく彼の後ろを走っていたらきっとタイヤがタレ、関口(雄飛)選手(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)に抜かされていたと思う。今回のハイライトは、塚越選手を1コーナーで抑えたことです」と、山本は勝利の決め手となったシーンを振り返った。
ミディアムタイヤで32周をこなした山本は、ピットに入りソフトタイヤに交換。しかし思ったほどソフトでのタイムが伸びず、予選14番手から追い上げてきた関口に接近を許した。残り周回数があと少し多かったら、間違いなくテール・トゥ・ノーズの戦いとなっただろう。
また、関口以前にもピットタイミングの違いにより何名かが山本との差を詰めてきた。その度に念のためプッシュせざるを得ず、そこでタイヤの摩耗が進み見た目ほど楽な展開ではなかったようだ。「かなり厳しかったです」と山本は首をすくめたが、その一方で関口は「追いつくことはできただろうが、近づくとダウンフォースが減るので抜くことはできなかったと思う」と勝機がほぼなかったことを明言。
山本は「鈴鹿マイスター」の名に恥じぬ、盤石のレースを戦い勝利を手にしたのだ。
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