「どれだけ泣きじゃくっても結果は変わらない」非情のバーストにも逞しさを増した福住仁嶺【第2戦鈴鹿】
土曜日のすべてのセッションでトップタイムをマークし、スーパーフォーミュラで自身初のポールポジションを獲得してレースでも序盤に2番手を引き離す、ぶっちぎりでの初優勝になる展開と思われた福住仁嶺(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)だったが、レースでは9周目にまさかのタイヤバースト。スーパーフォーミュラ第2戦で圧倒的な主役が突然、戦列を離れることになってしまった。レース直後の福住にその時の状況を聞くとともに、速さが覚醒した感のある今年の取り組みについて聞いた。
「ポールポジションからのスタートは無難にできたと思いますけど、ちょっと緊張しましたね。いつもはスタートで『絶対に前のクルマを抜いてやる!』という気持ちで臨みますが、今日は『きちんとスタートしなければいけない』という思いがあったので気持ちの部分は今までとは違いました」と、まずは初めてのポールスタートを振り返る福住。
その後のオープニングラップでは2番手の野尻智紀(TEAM MUGEN)に1周でコンマ7秒のギャップを築いた。野尻を引き離すスタート直後の数周だけで、今回のレースが福住のものになることを確信させるパフォーマンスを見せた。
「最初に後ろとのギャップを作るのは大事だと思っていましたし、野尻選手も最初しかチャンスがないと思っていたのか、序盤はすごくプッシュしていたので、それより速いペースでと思って走りました」と、序盤を振り返る福住。
そして2番手野尻とのギャップが約3秒差になった9周目、福住はバックストレートでまさかのアクシデントに見舞われる。
「スプーンふたつめで右リヤタイヤに違和感を感じて『やばいなあ』と思ったところでまっすぐ走れなくなって、パンクしているとわかりました。でも、パンクしたと気づいてからバーストまでが一瞬でした。バーストした瞬間に『終わった』と思いました」と福住。
ほとんどホイールのみになった右リヤタイヤでピットに戻ろうとした福住だったが、右リヤサスペンションもダメージを受けてしまい、ピットに戻ったもののリタイヤとなってしまった。
ヨコハマタイヤによると、原因は調査中とのことだが、他の車両にも右リヤタイヤにアクシデントが発生しており、関連性が気になるところだ。いずれにしても、圧倒的な本命がわずか9周でレースを終えることになった。
それでも、ピットに戻った福住はテレビ中継のインタビューにも気丈に振る舞い、レース後の取材にも冷静に淡々と応える姿から、これまで悔し涙を流していた福住からの大きな変化を感じさせた。
「今回鈴鹿で3回目のトラブルなので(苦笑)。実は僕、鈴鹿でトラブルやアクシデントに遭うことがすごく多いんです。今回こそは何事もなく終われると思ったのですけど、SFのデビュー戦もこの鈴鹿でトラブルで、去年も1レース目(第5戦)でトラブルが起きて、どれもいいポジションを走っていたときのトラブルで、今日はトップを走っているとこで……まあ、落ち込みましたけど、こればかりは仕方ないと思うので」と、達観した様子で話す福住。
これまでのレースでの多くの苦い経験が、福住をアップデートさせる要因となった。
「もう、どれだけ泣きじゃくっても怒っても結果は変わらないんだ、というのを今までたくさん経験してきた。本当はもっと感情を出して『命を懸けて戦っているんだぞ』と思ってもらえる方がいいとは思うのですけど、僕も僕でいろいろ経験してきて、なんとなく冷静になろうとしている自分がいる。いやまあ、仕方ないですね。アクシデントは誰かが予想できたわけじゃないですからね。今まで(他のドライバーにも)こういうアクシデントはありましたけど、自分の番になるときもあると思うので」
今年2月、Youtuberの佐藤あやみさんとの結婚を発表した福住。プライベートでの大きな変化とともに、もうひとつ、レースに向けてのアプローチにも変化を加えていた。今年から、福住はパーソナルトレーナーをスーパーフォーミュラの現場に帯同させているのだ。近年では山本尚貴を筆頭に多くのスーパーフォーミュラ・ドライバーがフィジオ、パーソナルトレーナーを帯同させて、自分のパフォーマンスの最大化を計っている。
「今のトレーナーとはまだそこまでお互いを知っているわけではないですけど、身体のケアだけでなく、サーキットでも話し相手になる。担当のトレーナーさんにとってもレーシングドライバーに帯同するのは初めてなので、今はお互いに勉強している段階です。去年、(山本)尚貴さんとチームメイトだった時に尚貴さんにトレーナーさんがいて、それを見ていろいろ学ぶところがあった。そういうところから心機一転ではないですけど、ちょっと流れを変えたかった」
結婚にパーソナルトレーナーの帯同と、コース外での変化、レースへの取り組みの変化は今年の福住の大きな支えとなって、パフォーマンスに好影響を及ぼしているのかもしれない。
「そういう取り組みの成果が出ていることもあると思いますし、身体のケアをしっかりするだけでもリラックス効果があると思いますので。まあ、いろいろタメになっています」と福住。
「今回はチームがクルマをよく仕上げてくれて、今までスーパーフォーミュラで一番前を走ったことがなくて、レースで一番前を走ったときにクルマのポテンシャルがすごく高いということもわかりましたし、そのなかでいろいろ無我夢中ですごく集中して走れていました」
「やはりこういうトラブルも自分の実力だと思います。運も実力のうちという言葉があるように、結果がでなければ実力がないという思いで僕はレースをしているので。かと言って、自分を責めるわけではなく、これからも速いところを見せられるようにしていきたいです。次のオートポリスもチームとしては調子がいいサーキットですし、僕自身も相性がいいサーキットだと思うので、このいい流れのまましっかり結果を残せるように頑張ります」
今年、一段と逞しさを増した福住。次のオートポリスでは、今回逃した大きな幸運が訪れることになるのかもしれない。
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