【Jリーグ開幕30周年】日本がW杯常連国になるまでの道のりと現在地
1993年に開幕した日本プロサッカーリーグ「Jリーグ」が今年で30周年を迎える。当時わずか10クラブ1部制のみでスタートしたJリーグは、紆余曲折の年月を経てクラブ数と観客動員数を徐々に増やし、2014年には3部制を実現し現在の形を築いた。
今2023シーズン開幕時点で日本国内41都道府県から全60クラブが参加しているほか、若手育成を目的とした下部組織の設置義務化など将来を見据えた活動にも広がりを見せており、この30年の成長と発展は目覚しいものがある。これまでJリーグが辿った道のりと現在地を、印象的な出来事とともに紹介する。
Jリーグブームの到来
Jリーグ誕生以前の日本サッカー界は、冬の時代が続いていた。1965年創設の日本サッカーリーグ(JSL)は、アマチュア主体の全国リーグで当時のトップリーグだったが、その平均観客動員数は4,000〜5,000人程度。観客数1,000人以下で閑古鳥が鳴いていた試合も珍しくなかった。
しかし、1968年に出場したメキシコシティオリンピックにて日本代表が銅メダルを獲得。サッカー競技でアジアに初めてのメダルをもたらす活躍で、競技としてのサッカー人気を牽引するかと思われたが、FIFAワールドカップ(W杯)への出場は1998年フランス大会まで叶わなかった。
プロとアマチュアが混在し混沌としていた日本サッカー界だったが、関係者の地道な働きかけによりプロリーグ検討委員会が組織され、ついに1991年社団法人日本プロサッカーリーグが設立される。開幕時に参加する10クラブ(オリジナル10:鹿島アントラーズ、ジェフユナイテッド市原、浦和レッズ、ヴェルディ川崎、横浜マリノス、横浜フリューゲルス、清水エスパルス、名古屋グランパス、ガンバ大阪、サンフレッチェ広島)が発表された。
1993年5月15日。旧国立競技場で開催されたヴェルディ川崎(現:東京ヴェルディ)vs横浜マリノス(現:横浜F・マリノス)の開幕戦は、59,626人の観客で埋め尽くされ、華々しいセレモニーと共に全国中継された。世帯平均視聴率は32.4%を記録。以降、同シーズンの試合は毎回テレビで生中継されるなど、まさにJリーグブームの到来だ。日本サッカー界の新たな門出は明るい未来を予感させた。しかし、その予感の半分が外れることになるとは、その時まだ誰も予想しなかっただろう。
ブームの陰りと定着
「ブーム」とは、往々にして長く続かないものである。Jリーグ開始から2年後の1995年には、ゴールデンタイム(19〜22時)のテレビ中継がなくなり、さらに2年後、実際の観客数も1試合平均17,976人から10,131人へと減少。Jリーグブームはあっさりと終焉を迎えた。
それでも、チーム数の拡大など「ブーム」から「定着」へと舵を切り、地道な活動を続けた日本サッカー界。その追い風となったのは、日本がフランスW杯の本戦初出場を手にした「ジョホールバルの歓喜」と称される試合だ。
1997年11月16日、W杯アジア最終予選である第3代表決定戦イラン代表との試合は、日本時間の深夜に開催されたにも関わらず平均視聴率は47.9%を記録。延長戦の末のゴールデンゴール(3-2)で勝利した日本代表は、アジア予選初出場から実に43年を経て、悲願のW杯出場を決めた。以降、2023年の現在まで7大会連続出場を決め、今ではW杯常連国の1つとなっている。
身近な存在になったJクラブ
2023年現在、JリーグはJ1、J2、J3の3部制を備え、計60のクラブが所属。41都道府県に拠点があり、Jクラブがない6つの県にもJリーグを目指すクラブが存在している。1部制8府県の10チームからスタートしたJリーグ。30年が経過した現在、合併消滅したクラブは横浜フリューゲルスのみ(1999年マリノスと正式合併して消滅)。他国と比較しても安定感は突出している。
生まれ育った土地、進学や就職で移り住んだ土地など、各地にプロのサッカークラブがあることは「おらがまちのクラブ」という意識を生みやすく、スポーツを通じて「郷土愛」「地元愛」「地域のプライド」を感じる人の増加につながっている。
J2、J3リーグでプレーしていた選手が日本代表入りするケースも珍しくない近年、Jリーグから欧州など海外クラブに移籍する選手も増加傾向にあり「おらがまちのクラブ」で活躍した選手が世界で戦う姿を親戚のような気持ちで見守ることも、サポーターの楽しみとなっている。
他国からも注目される存在に
Jリーグは視点を世界にも向けており、2023シーズンでは中国、タイ、インド、ネパールなどアジアの国々に加えオーストラリア、ドイツ、スイス、ガーナ、ナイジェリアなど、さまざまな国で試合が放映されている。
スポーツデータサイト『Opta』のパワーランキングによると、J1リーグは平均的なチーム力に基づくアジアのリーグランキングで1位。J2リーグも8位に入っており、非常に高い評価を受けている。突出したクラブがないことからアジアチャンピオンズリーグ(ACL)での戦績は芳しくないものの、どこが優勝するか降格となるか予想がつかない点は欧州のトップリーグにはない魅力だろう。
地道なホームタウン活動の行く末は
クラブ数が増加したことで、優勝争いとともに昇格・残留争いが激化。加えて、全体的な予算規模も拡大しているJリーグ。一方で、拡大路線と相反する「地域との共生」が深化していることは興味深い。昨今、同じ都道府県に複数のクラブが存在するケースも珍しくなく、本拠地を指す「ホームタウン」内の盛り上がりも見られる。
Jリーグは「ホームタウン活動」を重要視し、規約には「Jクラブはホームタウンと定めた地域で、その地域社会と一体となったクラブづくりを行いながらサッカーの普及、振興に努めなければならない」と記されている。つまりはサッカーの競技活動だけでなく、欧州でよく見られる「総合型スポーツクラブ」を目指すクラブが増加しているのだ。
例えば、J1の湘南ベルマーレは、2002年に「特定非営利活動法人湘南ベルマーレスポーツクラブ」を設立し、ビーチバレーやトライアスロン、フットサルなどのチームをサポートしている。J2の東京ヴェルディも2018年「一般社団法人東京ヴェルディクラブ」を設立し、ビーチサッカーやeスポーツなどをサポート。その他にも、横浜F・マリノスらが同様の試みをしている。
2022年に報告されているホームタウン及び活動区域内での「ホームタウン活動」は、全クラブ合計で23,573回。1クラブで平均406回も活動しており、地域密着を超えた「地域との共生」が各地で進行している。
サッカー至上主義でなく、地域と共生することでその地に浸透した太い根は、やがて太い幹となり多種多様な枝葉を付け、いずれはトップチームの強化にもつながることだろう。30周年を迎えたJリーグの成長は、決して爆発的とは言えないが、地道かつ真摯な姿勢は今後の日本サッカー界を更に大きく強くしてくれると信じている。
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