平成ラストマッチで見せつけた“質の違い”…久保建英が迎える『令和元年』は?
サッカーキング2019年4月29日(月)18時0分
[写真]=Getty Images
「映像は見ましたけど、松本山雅はここ最近負けがないのでチームもいい雰囲気かなと。相手の出方にもよりますけど、自分たちのサッカーを突き詰めたいと思っています」
8戦無敗でリーグ首位を走るFC東京は4月28日、平成ラストマッチ・松本山雅戦を迎えた。若きレフティ・久保建英は本拠地・味の素スタジアムのピッチに立った。この日は室屋成の負傷欠場で小川諒也と右サイドでタテ関係を形成したが、パートナーが変わっても違和感を感じさせず、むしろ生き生きと躍動感溢れるプレーを披露。相手DF陣のマークが厳しくなる中、攻撃のスイッチを入れ、次々とチャンスを演出した。
そして、44分に待望の先制弾が生まれる。中盤で奪ったボールを久保が運んだ。そのままゴール前の永井謙佑へラストパスを供給。快足FWはこれを冷静に流し込み、FC東京が先制した。
「カウンターになりかけたところで渡辺(剛)選手がパスカットしてくれて、その後、1回五分のボールになったけど、高萩選手が粘ってくれた。自分はどこにこぼれてもいいように準備していたけど、相手より先に触れて、永井選手が走り出すのも見えた。ちょっとボールが緩くなっちゃいましたけど、芝が滑ってたんで慎重に(ラストパスを)出して、結果、(ゴールが)入ってよかったかなと思います」
このコメントからも分かる通り、17歳のアタッカーは1つ1つの状況につぶさに把握。周りの動きやピッチ状態に至るまでを見極めた上でドリブルからスルーパスというプレーを選択した。最終的に永井がGKとの1対1を制したことも素晴らしかったが、それをお膳立てした久保の冷静さと判断力は特筆に値する。
「相手を見てポジションを取ったり、相手を見て判断をぎりぎりで変えるのかとか、少し日本人離れしたところある」と松本山雅の反町康治監督も舌を巻いていた。『臨機応変』と言えば聞こえはいいが、急な判断でプレーを変えることは簡単ではない。この1シーンで久保の非凡な才能を感じ取った人も多かったのではないだろうか。
後半に入ってからも勢いは続いた。自ら蹴ったCKを橋本拳人が頭で合わせネットを揺らすも、ノーゴールの判定に。さらに、ドリブル突破からシュートを放つとポストを直撃。運に見放され得点にはならなかったが、76分には再びドリブル突破を図るとPKを獲得。これをディエゴ・オリヴェイラがきっちりと決めて、勝利を決定付けた。
試合終了間際には、右のタッチライン際で浮き球のボールを巧みにコントロール。マークについていた高橋諒をアッサリと抜き去る高度な芸当まで見せてくれた。
「何となく上に来るのは分かったんですけど、あの上半身の柔らかさにやられました。並んだ時に腕から入ってくるというか、体を止めに行っても前に入られる独特な感じがあった。小さい頃から海外で経験してきたのも影響しているのかと感じましたね。浮かせたボールも下(グラウンダー)だったらそんなに問題なかったけど、あそこで上を狙ってくるのはアイディアが素晴らしい」と、やられた高橋の方が絶賛してしまうほど、久保建英というプレーヤーは日本人離れしている。そういう傑出した存在の出現こそが、平成における日本サッカーの劇的進化の証と言える。
アンダーカテゴリーか? A代表か?
5月1日からは『令和』が幕を開ける。6月4日に18歳の誕生日を迎える久保が新時代の真のスターに成長するためにも、今後の身の振り方が重要だ。小学生時代を過ごしたバルセロナ復帰の噂が再燃している点も気になるし、日本代表との関わり方も重要になってくるだろう。
代表に関して言うと、久保は昨年から今年にかけてU-20と東京五輪世代のU-22と2つのカテゴリーを掛け持ちしている。さらに、6月のコパ・アメリカに出場するA代表初招集も囁かれ、森保一監督とU-20の影山雅永監督らスタッフ陣の間で、どちらを優先するのか協議が続けられているのだ。
「能力の高い選手は上のカテゴリーでやらせるべき」という考え方がある一方で、「完全に成長期が終わっておらず、フィジカル的にまだ万全でない久保がA代表の真剣勝負に挑むのは早すぎる」という見解もある。かつて「100年に一度の天才」と言われた19歳の小野伸二がアンダーカテゴリーとA代表の掛け持ちし、Jリーグの過密日程も重なって、1999年7月のシドニー五輪予選で重傷を負った例もある。「あのケガで人生が変わった」と小野自身も悔やんでいただけに、久保に同じ経験をさせてはならない。日本サッカー協会にはプレーヤーファーストの判断を下してほしい。
今後に向けての不確定要素はあるものの、久保建英自身は1つ1つの試合に全身全霊を注ぎ、チームの勝利とタイトルに貢献しようとしている。そんな向上心と真摯な姿勢を持ち続け、飽くなき努力を重ねていけば、反町監督が言うように「将来の日本を背負って立つ選手」になれるはずだ。そのためにも、今季リーグ戦初得点という身近な目標達成から確実にクリアしていってもらいたい。
文=元川悦子
8戦無敗でリーグ首位を走るFC東京は4月28日、平成ラストマッチ・松本山雅戦を迎えた。若きレフティ・久保建英は本拠地・味の素スタジアムのピッチに立った。この日は室屋成の負傷欠場で小川諒也と右サイドでタテ関係を形成したが、パートナーが変わっても違和感を感じさせず、むしろ生き生きと躍動感溢れるプレーを披露。相手DF陣のマークが厳しくなる中、攻撃のスイッチを入れ、次々とチャンスを演出した。
そして、44分に待望の先制弾が生まれる。中盤で奪ったボールを久保が運んだ。そのままゴール前の永井謙佑へラストパスを供給。快足FWはこれを冷静に流し込み、FC東京が先制した。
「カウンターになりかけたところで渡辺(剛)選手がパスカットしてくれて、その後、1回五分のボールになったけど、高萩選手が粘ってくれた。自分はどこにこぼれてもいいように準備していたけど、相手より先に触れて、永井選手が走り出すのも見えた。ちょっとボールが緩くなっちゃいましたけど、芝が滑ってたんで慎重に(ラストパスを)出して、結果、(ゴールが)入ってよかったかなと思います」
このコメントからも分かる通り、17歳のアタッカーは1つ1つの状況につぶさに把握。周りの動きやピッチ状態に至るまでを見極めた上でドリブルからスルーパスというプレーを選択した。最終的に永井がGKとの1対1を制したことも素晴らしかったが、それをお膳立てした久保の冷静さと判断力は特筆に値する。
「相手を見てポジションを取ったり、相手を見て判断をぎりぎりで変えるのかとか、少し日本人離れしたところある」と松本山雅の反町康治監督も舌を巻いていた。『臨機応変』と言えば聞こえはいいが、急な判断でプレーを変えることは簡単ではない。この1シーンで久保の非凡な才能を感じ取った人も多かったのではないだろうか。
後半に入ってからも勢いは続いた。自ら蹴ったCKを橋本拳人が頭で合わせネットを揺らすも、ノーゴールの判定に。さらに、ドリブル突破からシュートを放つとポストを直撃。運に見放され得点にはならなかったが、76分には再びドリブル突破を図るとPKを獲得。これをディエゴ・オリヴェイラがきっちりと決めて、勝利を決定付けた。
試合終了間際には、右のタッチライン際で浮き球のボールを巧みにコントロール。マークについていた高橋諒をアッサリと抜き去る高度な芸当まで見せてくれた。
「何となく上に来るのは分かったんですけど、あの上半身の柔らかさにやられました。並んだ時に腕から入ってくるというか、体を止めに行っても前に入られる独特な感じがあった。小さい頃から海外で経験してきたのも影響しているのかと感じましたね。浮かせたボールも下(グラウンダー)だったらそんなに問題なかったけど、あそこで上を狙ってくるのはアイディアが素晴らしい」と、やられた高橋の方が絶賛してしまうほど、久保建英というプレーヤーは日本人離れしている。そういう傑出した存在の出現こそが、平成における日本サッカーの劇的進化の証と言える。
アンダーカテゴリーか? A代表か?
5月1日からは『令和』が幕を開ける。6月4日に18歳の誕生日を迎える久保が新時代の真のスターに成長するためにも、今後の身の振り方が重要だ。小学生時代を過ごしたバルセロナ復帰の噂が再燃している点も気になるし、日本代表との関わり方も重要になってくるだろう。
代表に関して言うと、久保は昨年から今年にかけてU-20と東京五輪世代のU-22と2つのカテゴリーを掛け持ちしている。さらに、6月のコパ・アメリカに出場するA代表初招集も囁かれ、森保一監督とU-20の影山雅永監督らスタッフ陣の間で、どちらを優先するのか協議が続けられているのだ。
「能力の高い選手は上のカテゴリーでやらせるべき」という考え方がある一方で、「完全に成長期が終わっておらず、フィジカル的にまだ万全でない久保がA代表の真剣勝負に挑むのは早すぎる」という見解もある。かつて「100年に一度の天才」と言われた19歳の小野伸二がアンダーカテゴリーとA代表の掛け持ちし、Jリーグの過密日程も重なって、1999年7月のシドニー五輪予選で重傷を負った例もある。「あのケガで人生が変わった」と小野自身も悔やんでいただけに、久保に同じ経験をさせてはならない。日本サッカー協会にはプレーヤーファーストの判断を下してほしい。
今後に向けての不確定要素はあるものの、久保建英自身は1つ1つの試合に全身全霊を注ぎ、チームの勝利とタイトルに貢献しようとしている。そんな向上心と真摯な姿勢を持ち続け、飽くなき努力を重ねていけば、反町監督が言うように「将来の日本を背負って立つ選手」になれるはずだ。そのためにも、今季リーグ戦初得点という身近な目標達成から確実にクリアしていってもらいたい。
文=元川悦子
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