考え方ひとつで変わるラップタイム。TCRJスポット参戦でPP&2位の三浦愛「レポーターや取材の経験がすごく役だった」
レーシングドライバーとして活躍する一方、今季もスーパーフォーミュラのピットレポーターを務める三浦愛。5月15日・16日に行われたスーパーフォーミュラ第3戦では、その両方を掛け持ちするハードスケジュールをこなしたが、そこで新たな収穫もたくさん得ることができたという。
この週末は、TCRJの第2戦も併催されたのが、そこに三浦はDOME RACING TEAMよりシビックTCRで参戦することとなった。エントリーが正式決定したのは5月に入ってからのことだったとのことで、準備もバタバタな様子だったが、今回のレース参戦の経緯について、三浦はこのように説明した。
「普段はTCRJの解説をやらせてもらっていますけど、全然(解説の)幅が少ないので、とにかくTCRのクルマを知りたいなと思って、車種は選ばないのでテストというか試乗してみたいと、いろいろな方に相談していました。そうしたら、JRP(日本レースプロモーション)さんもすごく協力してくれて、あれよあれよと話が進んでいき……テストではなくレースに参戦してみませんか? ということになりました」
「でも、本当に急に決まったことで、(参戦決定は)レースの1〜2週間前だったんですよね。しかも、いきなりレースだったので『え、いきなりレースですか? 1週間前ですよ?』と、少し躊躇したけど……今思うと、出させてもらって本当にありがたかったです」
三浦は長年フォーミュラカーのカテゴリーにこだわり続け、2014年から2019年まで全日本F3選手権で戦い続けてきたが、昨年から機会があればハコ車のレースにも説教的に挑戦するようになり、今季はスーパー耐久のST-Zクラスにフル参戦している。
ハコ車の経験は昨年のうちにある程度積んだもののの、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車はミッドシップでもあるフォーミュラ出身者にとってはある意味で最初は特殊なマシンになる。彼女は昨年MINI CHALLENGEにスポット参戦しており、FF車でのレース経験はあるのだが、このTCR車両はまったく異なる印象を受けたという。
「他のクルマとはまったく別物だなと思いました! FF車のレースで初めてミニに乗った時も『何だこの挙動は!』と思いましたけど(TCRは)それ以上にクセが強いですね」
「ある意味、別の乗り物という感じで、よく“FF使いがいる”という話を聞きますが、それも納得できるなと改めて体感できました」
「(TCRは)けっこうパワーがあるから、その分アンダーステアも強いんですよね。そういうところでは少し苦戦したし、いまだに金曜日の走行の時は(ステアリングを)こじっちゃうというか、アンダーだからハンドルを切りすぎてしまって、その状態で加速しちゃうから、タイヤを痛めてしまったりしまいました」
最初はTCRマシンになかなか慣れることができなった三浦。そこにアドバイスに来たのがWTCC経験者でもあるTHREEBOND DRAGOCORSEの道上龍監督だった。
「道上さんも気にしてくれて、アドバイスもたくさんくれました。リヤ駆動とは全然違うので、走り方とか細かい操作が少しずつ違います。そういう意味では、(道上さんからの)ひとつひとつの言葉が、すごくヒントになりました」
それが功を奏し、ウエットコンディションとなった土曜日の予選ではサンデーシリーズで初参戦ながら見事ポールポジションを獲得。その日の午後に行われた決勝レースでは、エンジン交換によるグリッドペナルティのため最後列からのスタートとなったが、1周目の混乱を無事にすり抜けるなど、序々に順位を上げていき、3周目にはトップのHIROBONに0.3秒差に迫った。ここから抜きにかかろうとするも、そこで車種の特性の差を体験した。
「トップ争いでは、クプラとシビックでクルマの良い部分が違うなというのを感じました。向こう(クプラ)はストレートが速かったり、加速が良かったりという印象でしたけど、私の方(シビック)はコーナリングで強いなという感じで、オートポリスとも相性が良いクルマです。セクター3は自分の方が全然速いけど、いざ抜きに行こうとしたところでセクター1、セクター2で離されてしまいました。さらに真後ろまで近づくと水しぶきで前が見えないので、展開としては苦しかったです」
結局、トップを攻略することができずサタデーシリーズを2位で終えた三浦。ポールポジションを獲得した日曜日のサンデーシリーズに賭けたが、悪天候によりレースキャンセルと不完全燃焼な形で週末を終えることになった。それでも、実りの多い週末だったと、三浦はかなり前向きに捉えていたのが印象的だった。
「トータルして、このレースウイークでいろいろなものを吸収できたし、今まで経験してきたフォーミュラもS耐も、すごく役に立ちました」
「残念ながら日曜日走れなかったのは残念ですが、週末を通してドライもウエットも経験できたし、オートポリスという難しいレイアウトを舞台に走れたのも良かったと思います」
「あと、スーパーフォーミュラがある週末に走れて、たくさんの関係者が見てくれていたなかで走れたのも大きかったです。勝てなかったのは痛いけど、ポールポジションは獲れたし、速さは見せられたのかなと思います。今後にもつながるレースになったのかなと思います」
今シーズン、三浦はスーパーフォーミュラの公式映像でのピットレポーターを務めているほか、オートスポーツwebでは『突撃ドライビング取材!』と題して、さまざまなドライバーへのインタビューも行っている。そこでの経験も、レーシングドライバー三浦愛の進化に大きく影響しているようだ。
「本当にすごく役に立っています! 今まで私って、直接的なライバルがあまりいなくて……もちろん、一緒に走っている全員がライバルだけど、ガチガチに意識する相手みたいな人がいなかったです。その中で、ドライバーの考え方や意見、走らせ方を聞けるというのは、すごく良いことだなと今回つくづく思いました」
「特にメンタルの部分では、考え方ひとつで本当にタイムに直結します。その中で自分ひとりだけの考えではどうしても見えないところがあるので、『みんな、こういうふうに考えているんだ!』って、たくさん気づくことができています」
「まだまだドライバーの仕事はこれからも続けたいですし、スーパーフォーミュラのレポーターのお仕事とか、突撃ドライビング取材のお仕事をさせてもらっていることが、今の私にとっては大きなメリットになっているなと感じています」
今後も、ドライバーとして、またレポーターや解説という立場でレースに携わっていく三浦。全日本F3で走っていた頃は、自身の考え方や目標に固執していた部分があったようだが、いつもとは違う角度からレースを見ることによって、ひとつ殻を破れたような印象を受けた。今季はS耐を主戦場としているが、これから他のカテゴリーでも彼女が活躍するシーンをたくさん見ることができそうだ。
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