三重苦となったマシンを生還させたリカルドの力走【今宮純のF1モナコGP決勝分析】
2018年F1第6戦モナコGP決勝はダニエル・リカルドがポール・トゥ・ウインを飾った。順調なレースをしていたかに見えたリカルドだったが、実際は様々なトラブルを抱えていた。F1ジャーナリストの今宮純氏がモナコGPを振り返り、その深層に迫る──。
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リカルドは1時間42分54秒807ずっとトップのまま、『生還』できた。10年以降のモナコGPでもっとも速い優勝レースタイムだった。
彼がコクピットで続けていた“危機管理ドライビング”の実情がレース後、チーム関係者から明らかにされた。彼本人はトラブルを察知したとき、泣きたくなるくらい心が折れかかったと言う。
毎年モナコは何かが起きる。接触、多重事故、セーフティカー導入、突然の天候異変……。今年は何件かインシデントはあったもののそういうサプライズ(事象)はコース上ではみられなかった。
静かに幕が開いた第76回モナコGP、ポールポジションからリードするリカルドにMGU-Kの不具合が19周目ごろから発生していた。それまで1分15秒台ペースだったのが1分19秒356に落ちたのは27周目(昨年の最速ラップは1分14秒820だ)。
無線でパワーダウンを訴える彼の肉声と、ピット側のやりとりが断片的に流れた。MGU-Kによる161馬力の回生アシスト・パワーが機能せず、ホーナーによると「約25%もパワー・ロス」していた。それだけではなかった。リヤブレーキそのものが熱を帯び始めていた。かばうためにブレーキバランスを7%前寄りにアジャスト、減速時にタイヤがロックアップしないようにブレーキングポイントを毎周探り続けねばならなくなった。
すでに17周目にハイパーソフトからウルトラソフトに交換、これでゴールまで61周を走破しなければならない。三重苦がのしかかっていた。1:パワーロス、2:ブレーキング変調、3:タイヤマネージメント。
注視するとリカルドはコーナー進入時のステアリング操作をゆっくりとスムーズに。そしてそのまま旋回スピードをキープしつつ、出口ではホイールスピンを戒めしなやかにアクセルオン。各コーナーをそうやって慎重に限界ぎりぎり、なぞろうとしているのが見てとれた。RB14のコーナリング・パワー(速さ)を駆使するリカルドのスキル——。
この日はすべてのドライバーが“タイヤとの対話・関係”を最優先し、車間距離をとったままで、数珠繋ぎになるのを避けていた。コース幅が狭く、まっすぐな直線ストレートがないモナコでは、接近するとダウンフォースを失う“真空地帯”にはまり込む。18年空力特化マシンでは予想はされていたことだ……。
2位セバスチャン・ベッテルはウルトラソフトで62周、3位ルイス・ハミルトンも66周、このコースにおける過去最長スティントを遂行。ある意味で“タイヤ耐久レース”になり、予選までと一変したスローなモナコGPになっていった。
ちなみに2年前のモナコで記録したリカルドのPPタイムは1分13秒622。今年は予選出走の全員が破っている(19位ケビン・マグヌッセン1分13秒393)。新記録PPリカルドは1分10秒810=平均169.654KMHの数値が、伝統の公道コースの“超速化”を表す。
終盤の54周目、リカルドは1分21秒196にダウン、ベッテルに1秒以内に迫られた。それでもここは抜けないモンテカルロ、ベッテルはそれ以上近寄ることも仕掛けることもできない。後方乱気流ゾーンにはまれば挙動がぶれ、タイヤをいたわる走りから逸脱する。攻撃を断念……。
最終盤の72周目、ブレーキを失ったシャルル・ルクレールとブレンドン・ハートレーの事故がシケインであった。しかしSCは導入されず、VSC状態のまま機敏なマーシャル達は処理を急いだ(そうするのが彼らのプライドなのだ)。
そしてこのVSCランがリカルドにとってレースを仕上げるためのグッドタイミングになった。76周目と77周目に序盤なみの1分16秒台を連発、25%のパワーロス、60周走行タイヤでラストスパート。全力疾走だった。トップ3人、リカルドも勝利数は同じ2勝、ハミルトンとベッテルに並んだことになる——。
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