「長友後継者問題」に明治大の直系後輩が力強く名乗り 森下龍矢が代表SBに定着する条件とは
サッカーキング2023年6月17日(土)10時16分
日本代表デビューを飾った森下 [写真]=兼子愼一郎
FIFAワールドカップカタール2022の後、30代ベテラン勢の大半がチームを去り、世代交代が一気に進んだ印象の新生・日本代表。とりわけ、2008から2022年まで15年間も左SBを担い、4度、世界舞台に立った長友佑都の後継者探しは喫緊のテーマと見ていいだろう。
これまでも、カタールW杯最終予選で長友と交代出場した中山雄太、本大会でプレーした伊藤洋輝などがこのポジションをこなしてきた。が、SBのスペシャリストとは言えない。
1980から95年にかけて日本の左SBを担った、現在はブリオベッカ浦安の指揮官を務める都並敏史監督が「長友は上下動できるパワーと対人能力に秀でているだけではなく、周囲をカバーリングに来させる的確な指示や統率力も高かった。そういう左SBはなかなかいない」と指摘した通り、攻守両面で絶妙のバランスを取れる人材はそう簡単には見つからないのだ。
そんな中、6月15日のエルサルバドル戦で好アピールを見せたのが、森下龍矢。長友と同じ明治大学出身で、栗田大輔監督から「長友を目指せ」とハッパをかけられてきた両サイドをこなせるSBである。
「代表に来て最初の練習で伊東純也選手にぶち抜かれて、『これはヤバい』と思いました」と世界基準を突きつけられた男は、その速さと鋭さを脳裏に焼き付けながら、豊田スタジアムのピッチに立った。
初キャップということで、もちろん緊張はあっただろうが、左FWに三笘薫、左インサイドハーフに旗手怜央、FWに上田綺世と2019年のユニバーシアード競技大会優勝メンバーがズラリと並んだ分、やりやすかった部分はあるだろう。
開始1分足らずで谷口彰悟が先制点を決め、4分で上田が2点目をゲット。さらに相手に退場者が出たため、数的優位な状況に立ったこともあり、森下は積極果敢に攻め上がり、三笘らと絡んで数多くの攻撃チャンスを作った。何度かいい形からクロスも入れ、驚異的な運動量を発揮。見る者を魅了するパフォーマンスを示していた。
中央で守田や堂安律、久保建英らがパス交換をしている時には、必ずと言っていいほど森下が外を回ってサイドチェンジを受ける体制を作っていた。これにより、相手DFも彼を警戒せざるを得なくなり、日本に大きな攻撃スペースが空いたと言っていい。
「やっていて感触を得られる部分はありました。オーバーラップを何本かして『こういう感じか』と。そもそもチームでは5枚でやっているので、4枚と5枚の違いもちょっとずつ出しながら、本当にいい経験ができたと思います」と本人も充実感を吐露する。チームが6-0の大勝を収めたこともあり、前向きな感触を得られたはず。それも朗報ではないか。
奇しくも、“先輩”長友も同じ豊田スタジアムで初キャップを飾っている。2008年5月のコートジボワール戦だ。当時、彼は明治大在学中の21歳。凄まじい運動量とアップダウンで見る者を魅了し、瞬く間に代表レギュラーをつかみ、世界舞台へと駆け上がった。
偉大な長友に比べると森下は年齢的に少し上ではあるが、持ち前の攻撃力でインパクトを残した点は共通する。直系の後輩が「ポスト長友」に力強く立候補した格好だ。
しかしながら、その道が険しいことも本人は痛感している様子だ。
「長友選手のプレーを反芻しながら、僕のプレー振り返ってみると、ラインのこまめなアップダウンとか、球際のディテールのところとか、正直の守備のところじゃないですかね。監督が国際舞台で『この選手を使いたい』と思う選手はやっぱり手堅くて、計算できて、最後の最後まで戦えるところかなと。その基準を自分が今、満たせてるかと言われたら、まだまだだと思います」と森下は力不足と潔く認めていた。
確かにエルサルバドル戦を振り返っても、屈強なフィジカルを誇るブライアン・ヒルに吹っ飛ばされるシーンが散見された。長友であれば、インテルやガラタサライ、マルセイユでの経験を駆使して最適な対処法をすぐさま示せるが、国際経験の乏しい森下にはそこまでのことはできない。ここから一つひとつ経験を積み上げ、世界のアタッカーを防げるだけの守備力を養っていくしかないのだ。
雑草魂で這い上がる姿勢を持っているところは森下の強み。そこも長友に通じる部分だ。
「世界で戦える条件を初めて知ることができたので、そこに向けて僕が成長していけばいいだけ。監督からこれからも自然選択されるように頑張っていきたいです」と本人も力を込めていたが、成長曲線を一気に引き上げることができれば、混とんとしている日本の左SB争いで急浮上できる可能性もありそうだ。
明治大の時には就職活動にも精を出し、自己表現力や説明能力にも磨きをかけたという森下。そのコミュニケーション力は大きな武器だ。それも生かしながら、限られた代表活動期間で多くの選手たちと話し、代表基準を明確にし、トライしていくことが肝要だ。
そうしなければ、9月のドイツ遠征の挑戦権は勝ち取れない。自分の真の立ち位置を確かめるチャンスを手にするためにも、20日のペルー戦、そして今後のJリーグでの一挙手一投足が重要になってくる。
「僕なりのSB像を作って行きたい」と改めて気合を入れたタフなSBの行く末を、期待を込めて見守りたいものである。
取材・文=元川悦子
これまでも、カタールW杯最終予選で長友と交代出場した中山雄太、本大会でプレーした伊藤洋輝などがこのポジションをこなしてきた。が、SBのスペシャリストとは言えない。
1980から95年にかけて日本の左SBを担った、現在はブリオベッカ浦安の指揮官を務める都並敏史監督が「長友は上下動できるパワーと対人能力に秀でているだけではなく、周囲をカバーリングに来させる的確な指示や統率力も高かった。そういう左SBはなかなかいない」と指摘した通り、攻守両面で絶妙のバランスを取れる人材はそう簡単には見つからないのだ。
そんな中、6月15日のエルサルバドル戦で好アピールを見せたのが、森下龍矢。長友と同じ明治大学出身で、栗田大輔監督から「長友を目指せ」とハッパをかけられてきた両サイドをこなせるSBである。
「代表に来て最初の練習で伊東純也選手にぶち抜かれて、『これはヤバい』と思いました」と世界基準を突きつけられた男は、その速さと鋭さを脳裏に焼き付けながら、豊田スタジアムのピッチに立った。
初キャップということで、もちろん緊張はあっただろうが、左FWに三笘薫、左インサイドハーフに旗手怜央、FWに上田綺世と2019年のユニバーシアード競技大会優勝メンバーがズラリと並んだ分、やりやすかった部分はあるだろう。
開始1分足らずで谷口彰悟が先制点を決め、4分で上田が2点目をゲット。さらに相手に退場者が出たため、数的優位な状況に立ったこともあり、森下は積極果敢に攻め上がり、三笘らと絡んで数多くの攻撃チャンスを作った。何度かいい形からクロスも入れ、驚異的な運動量を発揮。見る者を魅了するパフォーマンスを示していた。
中央で守田や堂安律、久保建英らがパス交換をしている時には、必ずと言っていいほど森下が外を回ってサイドチェンジを受ける体制を作っていた。これにより、相手DFも彼を警戒せざるを得なくなり、日本に大きな攻撃スペースが空いたと言っていい。
「やっていて感触を得られる部分はありました。オーバーラップを何本かして『こういう感じか』と。そもそもチームでは5枚でやっているので、4枚と5枚の違いもちょっとずつ出しながら、本当にいい経験ができたと思います」と本人も充実感を吐露する。チームが6-0の大勝を収めたこともあり、前向きな感触を得られたはず。それも朗報ではないか。
奇しくも、“先輩”長友も同じ豊田スタジアムで初キャップを飾っている。2008年5月のコートジボワール戦だ。当時、彼は明治大在学中の21歳。凄まじい運動量とアップダウンで見る者を魅了し、瞬く間に代表レギュラーをつかみ、世界舞台へと駆け上がった。
偉大な長友に比べると森下は年齢的に少し上ではあるが、持ち前の攻撃力でインパクトを残した点は共通する。直系の後輩が「ポスト長友」に力強く立候補した格好だ。
しかしながら、その道が険しいことも本人は痛感している様子だ。
「長友選手のプレーを反芻しながら、僕のプレー振り返ってみると、ラインのこまめなアップダウンとか、球際のディテールのところとか、正直の守備のところじゃないですかね。監督が国際舞台で『この選手を使いたい』と思う選手はやっぱり手堅くて、計算できて、最後の最後まで戦えるところかなと。その基準を自分が今、満たせてるかと言われたら、まだまだだと思います」と森下は力不足と潔く認めていた。
確かにエルサルバドル戦を振り返っても、屈強なフィジカルを誇るブライアン・ヒルに吹っ飛ばされるシーンが散見された。長友であれば、インテルやガラタサライ、マルセイユでの経験を駆使して最適な対処法をすぐさま示せるが、国際経験の乏しい森下にはそこまでのことはできない。ここから一つひとつ経験を積み上げ、世界のアタッカーを防げるだけの守備力を養っていくしかないのだ。
雑草魂で這い上がる姿勢を持っているところは森下の強み。そこも長友に通じる部分だ。
「世界で戦える条件を初めて知ることができたので、そこに向けて僕が成長していけばいいだけ。監督からこれからも自然選択されるように頑張っていきたいです」と本人も力を込めていたが、成長曲線を一気に引き上げることができれば、混とんとしている日本の左SB争いで急浮上できる可能性もありそうだ。
明治大の時には就職活動にも精を出し、自己表現力や説明能力にも磨きをかけたという森下。そのコミュニケーション力は大きな武器だ。それも生かしながら、限られた代表活動期間で多くの選手たちと話し、代表基準を明確にし、トライしていくことが肝要だ。
そうしなければ、9月のドイツ遠征の挑戦権は勝ち取れない。自分の真の立ち位置を確かめるチャンスを手にするためにも、20日のペルー戦、そして今後のJリーグでの一挙手一投足が重要になってくる。
「僕なりのSB像を作って行きたい」と改めて気合を入れたタフなSBの行く末を、期待を込めて見守りたいものである。
取材・文=元川悦子
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