「オレンジの血が流れている」清水MF西澤健太…大学経由で深めた自信とクラブ愛
サッカーキング2019年6月30日(日)16時14分
横浜FM戦で勝ち越しゴールを挙げた西澤健太 [写真]=J.LEAGUE
4年間の遠回り。しかし、彼にとってはその道が、最短距離だったのかもしれない。2019明治安田生命J1リーグ第15節の横浜F・マリノス戦、第16節の名古屋グランパス戦と2試合連続で後半アディショナルタイムに勝ち越しゴールをマークし、殊勲のヒーローとなった男は、歓喜に揺れるオレンジのスタンドを目に焼き付け、スタジアムに響く自身の応援歌を心地よく聴いた。この光景を夢見て、西澤健太は清水エスパルスに“帰ってきた”のだ。
清水ユースを卒団後、筑波大学に進学した西澤は、今シーズン、クラブとして初めて大学経由の“Uターン加入”を果たした。昨年10月、加入内定のリリースが出ると、清水の元アシスタントコーチ(2005年~2010年)であり、筑波大の小井土正亮監督は、西澤が入学した当時のことを感慨深げに思い返していた。
「彼の代の清水ユースは、北川(航也)、水谷(拓磨)、宮本(航汰)の3人がトップ昇格し、清水の“新・三羽烏”なんて呼ばれていましたけど、クラブ関係者からは『実は、一番良い素質を持っているのは西澤だから』と言われたんです。僕も実際に彼のプレーを見て、すごく賢くて、自分自身のことをよく理解している選手だなという印象を受けました」
同期の水谷も、「健太がいるだけでチームがうまく機能していたし、得点力もすごく上がった」とユース時代を振り返る。2学年後輩の立田悠悟は、「もし、健太くんが僕たちの学年にいたら、絶対にトップ昇格していたと思う。それぐらい“上手い”選手だった」と言い、実力は誰もが認めるところだった。
だが、事実として、トップ昇格はかなわなかった。西澤は「高3の時、自分が一番得点に絡んでいたという自信はあったので、(トップ昇格できず)もどかしさはあった」と当時の心境を明かす。一方で、昇格した3人(北川、水谷、宮本)との差も感じ取っていた。
「ジュニアユースの頃から6年間、ずっと一緒にやってきて、彼らのすごさは嫌というほど思い知らされていましたから。僕は、そこまで個の力がある選手ではなかったので、彼らの能力に嫉妬していましたし、彼らに追いつこうと必死でやっていました」
“上手い”だけでは上のカテゴリーで通用しないということは、筑波大に入学してすぐに思い知らされた。「高校までは、ただ、好きなようにサッカーをしていて、仲間を振り回すこともありました。それが大学に入ったら、周りにはもっと上手い選手が多くて、自分の価値を見出だせなくなってしまった」。器用さを買われて、時にはサイドバックを任されるなど、様々な経験を積んだ西澤は、その中で「考えてプレーすること」の大切さを学び、チームの中心選手へと成長していった。
特に彼の場合は、筑波大に在学していた4年間で、おそらく多くの時間を使って「自分が清水でプレーする姿」を思い描いていた。例えば、ヤン・ヨンソン前監督が就任した昨季は、「自分がサイドハーフでプレーするなら」と仮定して、イメージを膨らませていた。
「自分が今のエスパルスでプレーするなら、守備の部分は変えていかなきゃいけない。金子(翔太)選手や石毛(秀樹)選手の守備の貢献度は本当に高くて、自分も同じくらい強度を高めないといけない。さらに、守備だけで満足せず、カウンター攻撃につなげること。それは筑波大で求められているプレーでもあるので、両方に通じるものだと思いながら取り組めています」
攻撃面に関しては、小井土監督が「アイツ(西澤)なりに、『自分のクロスから北川が点を取る』という形を、練習からよくイメージしているらしい」というエピソードを明かしてくれたこともある。清水の地を離れていても、自他ともに認めるように“古巣”への想いを募らせ続けた西澤に、清水から正式オファーが届いたのは昨年9月のことだった。小井土監督は「プロの世界では、もちろん厳しい競争がある。でも、彼にしかないキックのクオリティはあるし、もともと持っていた素質と、自分がチーム(筑波大)を引っ張ってきたという自信を持ってエスパルスに帰れるので、今の彼ならプロでも十分、勝負できると思う」と太鼓判を押して送り出した。
西澤もまた、「これだけ自分を見つめたり、考える時間を持てたのは、大学に来たからこそ。4年間で一歩ずつステップアップできたという実感があります。もし、僕が高卒のままプロになっていたら、間違いなく今、サッカーをやっていないと思う。だから今では、大学に入って良かったなと思っています」と、自身の成長に手応えをつかんでいた。
満を持して再びオレンジのユニフォームに袖を通した西澤が、今シーズン開幕前のキャンプからすぐにチームに溶け込み、周囲の選手と好連携を見せていたのは、4年間積み上げてきた“準備”の成果だったと言えよう。さらに、5年ぶりにチームメイトとなった立田は、西澤のプレーに変化を感じていた。「ユースの時は本当に“上手い”選手だったのが、大学に入って、いろいろなポジションをこなすだけじゃなく、ゴールに対してすごく貪欲になった」
立田の言葉が象徴するように、西澤のプレーには得点に絡むセンスや技術だけでなく、“気迫”や“執念”のようなものが感じられる。遡ること2016年。大学2年生だった西澤は、クラブ史上初めてJ2に降格した清水の戦いぶりを横目に見ながら、北川らと同じピッチに立てないことに対して、「自分は今、何をやっているんだろう……」と自身の無力さを口にしていた。あれから3年が経ち、やっとの思いで、チームの力になる権利を手にしたのだ。
リーグ開幕序盤は試合に絡めず、「こんなはずじゃなかった」と悔しさを味わったが、篠田善之監督就任を機にチャンスをつかむと、冒頭で述べたように、2試合連続で決勝ゴールを挙げ、チームを最下位から浮上させた。自分がヒーローになり、チームメイトやサポーターが勝利の喜びに浸る――。見たくて、見たくて、たまらなかった光景は、それまでの努力を報いるには十分なほど、幸せな瞬間だった。
だが、もちろんまだ満足はしていない。「自分がリーグ戦に出るようになって、チームは負けていないし、少しは貢献できているのかなとは思います。でも、まだ納得できないプレーもあるし、もっともっとチームの力になれる」
西澤が思い描く理想は、幼い頃に憧れたように、常に上位争いを繰り広げるチームだ。
「僕が小学生の頃のエスパルスは、岡崎(慎司)さんや兵働(昭弘)さんたちがチームをけん引していて、強かった。それを見て僕は『エスパルスに入りたい』と思ったんです。やっぱり『エスパルスのために』っていう想いを人一倍強く持っているのが、僕たちアカデミー出身の強みだと思うし、大学経由で入った僕が活躍することで、アカデミーの後輩たちの道標にもなる。それに、サポーターの皆さんや、お世話になったクラブの方々も……いろいろな人の想いを背負ってプレーして、結果を残し続けたい」
西澤は4年間でより一層、深みを増した愛情を包み隠すことなく、ピッチで表現している。「やっぱりオレンジのユニフォームを着ると落ち着くし、自分には“オレンジの血が流れている”のかなと思う」。愛するクラブのエンブレムに誇りを持ち、全身全霊でチームに尽くそうとする。そんなニューヒーローの存在は、清水の未来を明るく照らしている。
取材・文=平柳麻衣
清水ユースを卒団後、筑波大学に進学した西澤は、今シーズン、クラブとして初めて大学経由の“Uターン加入”を果たした。昨年10月、加入内定のリリースが出ると、清水の元アシスタントコーチ(2005年~2010年)であり、筑波大の小井土正亮監督は、西澤が入学した当時のことを感慨深げに思い返していた。
「彼の代の清水ユースは、北川(航也)、水谷(拓磨)、宮本(航汰)の3人がトップ昇格し、清水の“新・三羽烏”なんて呼ばれていましたけど、クラブ関係者からは『実は、一番良い素質を持っているのは西澤だから』と言われたんです。僕も実際に彼のプレーを見て、すごく賢くて、自分自身のことをよく理解している選手だなという印象を受けました」
同期の水谷も、「健太がいるだけでチームがうまく機能していたし、得点力もすごく上がった」とユース時代を振り返る。2学年後輩の立田悠悟は、「もし、健太くんが僕たちの学年にいたら、絶対にトップ昇格していたと思う。それぐらい“上手い”選手だった」と言い、実力は誰もが認めるところだった。
だが、事実として、トップ昇格はかなわなかった。西澤は「高3の時、自分が一番得点に絡んでいたという自信はあったので、(トップ昇格できず)もどかしさはあった」と当時の心境を明かす。一方で、昇格した3人(北川、水谷、宮本)との差も感じ取っていた。
「ジュニアユースの頃から6年間、ずっと一緒にやってきて、彼らのすごさは嫌というほど思い知らされていましたから。僕は、そこまで個の力がある選手ではなかったので、彼らの能力に嫉妬していましたし、彼らに追いつこうと必死でやっていました」
“上手い”だけでは上のカテゴリーで通用しないということは、筑波大に入学してすぐに思い知らされた。「高校までは、ただ、好きなようにサッカーをしていて、仲間を振り回すこともありました。それが大学に入ったら、周りにはもっと上手い選手が多くて、自分の価値を見出だせなくなってしまった」。器用さを買われて、時にはサイドバックを任されるなど、様々な経験を積んだ西澤は、その中で「考えてプレーすること」の大切さを学び、チームの中心選手へと成長していった。
特に彼の場合は、筑波大に在学していた4年間で、おそらく多くの時間を使って「自分が清水でプレーする姿」を思い描いていた。例えば、ヤン・ヨンソン前監督が就任した昨季は、「自分がサイドハーフでプレーするなら」と仮定して、イメージを膨らませていた。
「自分が今のエスパルスでプレーするなら、守備の部分は変えていかなきゃいけない。金子(翔太)選手や石毛(秀樹)選手の守備の貢献度は本当に高くて、自分も同じくらい強度を高めないといけない。さらに、守備だけで満足せず、カウンター攻撃につなげること。それは筑波大で求められているプレーでもあるので、両方に通じるものだと思いながら取り組めています」
攻撃面に関しては、小井土監督が「アイツ(西澤)なりに、『自分のクロスから北川が点を取る』という形を、練習からよくイメージしているらしい」というエピソードを明かしてくれたこともある。清水の地を離れていても、自他ともに認めるように“古巣”への想いを募らせ続けた西澤に、清水から正式オファーが届いたのは昨年9月のことだった。小井土監督は「プロの世界では、もちろん厳しい競争がある。でも、彼にしかないキックのクオリティはあるし、もともと持っていた素質と、自分がチーム(筑波大)を引っ張ってきたという自信を持ってエスパルスに帰れるので、今の彼ならプロでも十分、勝負できると思う」と太鼓判を押して送り出した。
西澤もまた、「これだけ自分を見つめたり、考える時間を持てたのは、大学に来たからこそ。4年間で一歩ずつステップアップできたという実感があります。もし、僕が高卒のままプロになっていたら、間違いなく今、サッカーをやっていないと思う。だから今では、大学に入って良かったなと思っています」と、自身の成長に手応えをつかんでいた。
満を持して再びオレンジのユニフォームに袖を通した西澤が、今シーズン開幕前のキャンプからすぐにチームに溶け込み、周囲の選手と好連携を見せていたのは、4年間積み上げてきた“準備”の成果だったと言えよう。さらに、5年ぶりにチームメイトとなった立田は、西澤のプレーに変化を感じていた。「ユースの時は本当に“上手い”選手だったのが、大学に入って、いろいろなポジションをこなすだけじゃなく、ゴールに対してすごく貪欲になった」
立田の言葉が象徴するように、西澤のプレーには得点に絡むセンスや技術だけでなく、“気迫”や“執念”のようなものが感じられる。遡ること2016年。大学2年生だった西澤は、クラブ史上初めてJ2に降格した清水の戦いぶりを横目に見ながら、北川らと同じピッチに立てないことに対して、「自分は今、何をやっているんだろう……」と自身の無力さを口にしていた。あれから3年が経ち、やっとの思いで、チームの力になる権利を手にしたのだ。
リーグ開幕序盤は試合に絡めず、「こんなはずじゃなかった」と悔しさを味わったが、篠田善之監督就任を機にチャンスをつかむと、冒頭で述べたように、2試合連続で決勝ゴールを挙げ、チームを最下位から浮上させた。自分がヒーローになり、チームメイトやサポーターが勝利の喜びに浸る――。見たくて、見たくて、たまらなかった光景は、それまでの努力を報いるには十分なほど、幸せな瞬間だった。
だが、もちろんまだ満足はしていない。「自分がリーグ戦に出るようになって、チームは負けていないし、少しは貢献できているのかなとは思います。でも、まだ納得できないプレーもあるし、もっともっとチームの力になれる」
西澤が思い描く理想は、幼い頃に憧れたように、常に上位争いを繰り広げるチームだ。
「僕が小学生の頃のエスパルスは、岡崎(慎司)さんや兵働(昭弘)さんたちがチームをけん引していて、強かった。それを見て僕は『エスパルスに入りたい』と思ったんです。やっぱり『エスパルスのために』っていう想いを人一倍強く持っているのが、僕たちアカデミー出身の強みだと思うし、大学経由で入った僕が活躍することで、アカデミーの後輩たちの道標にもなる。それに、サポーターの皆さんや、お世話になったクラブの方々も……いろいろな人の想いを背負ってプレーして、結果を残し続けたい」
西澤は4年間でより一層、深みを増した愛情を包み隠すことなく、ピッチで表現している。「やっぱりオレンジのユニフォームを着ると落ち着くし、自分には“オレンジの血が流れている”のかなと思う」。愛するクラブのエンブレムに誇りを持ち、全身全霊でチームに尽くそうとする。そんなニューヒーローの存在は、清水の未来を明るく照らしている。
取材・文=平柳麻衣
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