乱戦のなかで魅せた好バトル。山本尚貴vs太田格之進、ホンダNSX同士の激しい表彰台争い
二転三転する天候変化に加えて車両火災に伴う赤旗中断など、大荒れのレースとなった2023スーパーGT第4戦富士。特にウエットコンディションで再開されたレース後半は、GT500、GT300の両クラスとも複数箇所でバトルが繰り広げられ、最終ラップまで目が離せない展開となった。
公式映像には映っていなかったものの、ラスト5周になって白熱していたのが100号車STANLEY NSX-GTの山本尚貴と64号車Modulo NSX-GTの太田格之進によるGT500の3番手争いだった。
■「残り2〜3周はポジションを守ることを意識した」山本尚貴
66周目に発生したHOPPY Schatz GR Supra GTの火災アクシデントにより赤旗中断となった決勝レース。セーフティカー先導によるレース再開が宣言されるも、急に大粒の雨が降り出したため再開時刻が延期されるとともに、レースコントロールからタイヤ交換が認められ、各車ともウエットタイヤを装着した。
「周りにいたブリヂストンタイヤ勢はみんなミディアムを選んだと聞いていましたが、僕たちはハードを選びました」と語るのは、この時点で7番手につけていた100号車の山本。レースが再開された直後は大きく順位を落としたが、それもある程度は想定の範囲内だったという。
「最初は苦労するだろうなと思いましたけど、まさかあそこまで落ちるとは思いませんでした。13番手くらいまで落ちたと聞いたので、さすがにまずいなと思いました。でも、途中からタイヤが温まってきたのと同時に他車が落ち始めてきて、残り10周くらいで(ペースが)オーバーラップして、それからは楽しいレースでしたね」
その言葉どおり、残り9周を迎えるところで7番手まで挽回した山本。残り7周のGRスープラコーナーで64号車をパスすると、翌周にはZENT CERUMO GR Supra、Astemo NSX-GTを次々とオーバーテイクし、表彰台圏内の3番手に浮上した。
しかし、残り5周を切って64号車を駆るルーキーの太田が接近。ホンダNSX-GT同士による激しいバトルが始まった。
「残り5周を切ったところから、急に自分のタイヤが落ち始めてしまい、向こう64号車のタイヤはちょっとだけ自分のコンディションよりも良かったのかなと思います」と分析する山本。「最後に詰められ始めて、残り2〜3周は64号車を引き離すというよりも、ポジションさえ守れば良いと思い、要所要所を押さえていきました」と、冷静に対応していたようだ。
それでも、最終ラップのダンロップコーナーではイン側から飛び込まれて一瞬3番手の座を明け渡したという。
「彼(太田)も頑張ってポジションを上げたかっただろうし(抜きに)来るなと思っていましたけど、けっこう無理のある距離からだったので、当たらなくてよかったなと思いました」と山本。最後のセクター3も凌ぎ切ってチェッカーを受けた。
その後、ピット作業違反により40秒加算のペナルティを受け6位となったものの、山本らしい冷静なレース運びが随所に見られた終盤戦だった。
■「スプリントレースだと思って走った」太田格之進
「残り30周弱でレースが再開されて、最後までドライに換えることはないだろうなと……ある意味でスプリントレースだと思っていきました」と語るのは、64号車の太田だ。赤旗を経てレースが再開された時点は14番手となっていた。しかし、ダンロップのウエットタイヤがレース終盤のダンプ路面にうまく噛み合い、10ポジションアップを実現する走りをみせた。
今回のウエットタイヤについては「岡山での予選もそうでしたが、ウエットタイヤで良いところが出たので、それをベースに今回は新しいゴムを作ってきました。コンディションに合うと素晴らしいパフォーマンスを出せました」と、パートナーの伊沢拓也も手応えを感じていたとのこと。そこに太田の快進撃も加わり「太田選手のスティントもすごく難しかったと思いますけど、そのなかでチームも含めてミスなく戦えて4位(その後2位に)というのは素直に嬉しいです」と、彼の頑張りを讃えていた。
太田も自身のスティントを振り返り「ウエット路面で、あれだけ近距離ななかでレースをすることは初めてではないのですが、分からないところも多かったです。でも、自分としてはマシンも良かったですし、タイヤも良かったです。10台を抜いて4位(その後2位に)でゴールしましたけど、接触もなかったですし、引くところはしっかり引いて、オーバーテイクしていくことができました。そこは本当に良かったです。自分自身の成長を感じることができました」と、今回のレース内容には手応えを感じていた。
そのなかで迎えた山本とのバトルについて太田は「正直、表彰台争いでアツくなるところではありました」と語った。「僕が(ダンロップコーナーで)仕掛けて飛び出してしまいましたが、一瞬100号車の前に出ているんですよね。最終コーナーでも並びかけていきました」と悔しさをにじませていた。
レース後、パルクフェルメにマシンを止めて、チームのもとに帰ってきたときは悔し涙を流していたという。それでも「ルーキーだと、ああいった場面で接触などが起きやすいと思いますけど、その点は最終コーナーで横並びになったときもマージンを持って接触はしていません。チャレンジもしつつ接触せずフィニッシュできたことは、悔しいですけど良かったと思います。自分のなかでは、ある程度冷静さを保ったままレースを終えることができました」と冷静に状況を分析した。
今季はGT500クラスへのステップアップだけでなく、全日本スーパーフォーミュラ選手権にもフル参戦し、ふたつの国内トップカテゴリーに挑戦している太田。シーズン序盤は苦戦を強いられている様子もあったが、7月のスーパーフォーミュラ第6戦富士では予選3番手を獲得するなど、自身のドライビングにも変化が見られている。
「今年からスーパーフォーミュラとGT500にステップアップさせていただき、正直プレッシャーがないと言ったら嘘になります。順調にシーズンのテストをこなしていくなかで(開幕前のクラッシュにより)怪我がありました。そこから自分のなかでメンタル的な焦りもあり、歯車を噛み合わせきれない部分が正直ありました」と、太田はトップカテゴリーでの苦悩と、そこから得られた経験を明かした。
「そのなかでも自分を信じて取り組み、スーパーGTでは伊沢さんがいろいろなことを教えてくれました。自分でも良いものはどんどんと取り入れていっていますし、今年の前半戦は、自分のレース人生で一番勉強になり、自分の糧になる知識や経験が多かったなと思います」
「昨年は(スーパーフォーミュラ・ライツを含め)ポールポジションや優勝を飾ることができていましたけど、トップカテゴリーに上がった瞬間に悔しい思いしかできなかったです。そこは思い悩むこともありましたが、今はスーパーフォーミュラを含めて右肩上がりになっています。もちろん、これから努力をしなければいけないですけど、自分の力を出せる準備と知識を吸収していけば、全然戦えるという手応えを感じています」と太田。最終的に表彰台圏内でフィニッシュした16号車と100号車の2台にペナルティが出たため、2位に繰り上がり、これによりGT500初表彰台を獲得した太田。しかし、本人としては“もっと上を目指していきたい”という想いが、その表情から垣間見えた。
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