クラブでは若き主将…ヤングなでしこMF林穂之香、殊勲の決勝点に見えた“持ち味”
サッカーキング2018年8月7日(火)11時31分
アメリカ戦で決勝点を決めた林穂之香 [写真]=Alex Grimm - FIFA/FIFA via Getty Images
FIFA U-20女子ワールドカップフランス2018に出場しているU-20日本女子代表が、グループリーグの初戦・U-20アメリカ女子代表戦で1-0と勝利し、好発進した。
前半は休みなく続くアメリカのプレスと猛烈なスプリントに翻弄され、圧力をかけられた日本はボールをクリアするのが精一杯。19時30分キックオフの試合だが、日が長いフランスはまだ日差しが強く、なかなかプレーが止まらないために、日本選手は給水することもままならない。
しかし、この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたキャプテンのDF南萌華(浦和レッドダイヤモンズレディース)を中心に、日本は足を止めずにボールを追った。日本の池田太監督は「アメリカの速いスピードに対して、個人ではなくグループで助け合いながら守備を作った。ハードワークが特長の日本らしく戦えたことが勝利の要因」と試合後に振り返り、強敵・アメリカ戦を攻略できたことに納得の表情だった。
強固な守りでアメリカを封じた日本は、そのままなら勝ち点1で終わる計算だが、それを勝ち点3に変えたのが、MF林穂之香(セレッソ大阪堺レディース)だった。
76分、MF宮澤ひなた(日テレ・ベレーザ)がドリブルを仕掛けてボールがこぼれると、アメリカのFWソフィア・スミスと林の、ちょうど中間に転がる。すると林はそこで下がることなく、一歩先に足を踏み出す選択をする。
「まだ体力が残ってたし、ルーズボールへの反応は自分がずっと大事にしてきた持ち味。たぶん相手も疲れてきてたところで、下がるんじゃなくて、先に飛び出せたことが、いいシュートにつながったのかな」
一瞬出遅れたスミスは、ボールに足を伸ばして少し触るのがやっとで、フリーとなった林は、ルックアップしてゴールの位置を確認。左足を振り抜いてロングシュートを放つと、美しく弧を描いたボールは、アメリカのGKローレル・アイボリーが伸ばす右手を避けるように、クロスバーに擦りながらゴールネットを揺らした。
“トレビアン”なゴールを決めた林の近くに日本選手が駆け寄ると、選手たちは全員で『くねくねダンス』を披露。4日前に行ったサッカー教室『レガシープログラム』に参加した、地元の子どもたちから習ったという陽気なダンスに、スタンドは温かい笑いに包まれた。
林は今季、プレナスなでしこリーグ1部に初昇格したC大阪堺で、背番号を7から10に改め、主将も担うことになった。選手全員が21歳以下という若いチームは、波に乗ったら勝ちが続くが、今季は日本のトップリーグで苦戦を強いられている。なでしこリーグでは1勝1分7敗の10位中9位で、主力選手をベンチに置くなど、チームとしても試行錯誤が続く。不動のボランチだった林も、今季途中からはベンチを温める試合があり、決して上向きで今大会に入ったわけではなかっただろう。
しかし、今大会最初の山場とだったアメリカ戦では、林本来の出足の速さと絶妙なポジションニングで、こぼれ球を次から次に拾い続けた。それは決して派手なプレーの連続ではないが、「攻守で危機察知能力に優れている」と指揮官の信頼は厚くなる一方だ。 例えば決勝点の場面を振り返ると、こぼれ球に林が一歩踏み出すのが遅ければ、今回の勝ち点3はもたらされていなかったはずだ。前半はアメリカの圧力に本当に苦しんだが、林は勝負どころの一瞬を見逃さない準備をしていた。
決勝ゴールを決めたにもかかわらず、林はプレーヤー・オブ・ザ・マッチの選外となったが、試合後のアンチドーピングコントロール(※)の対象者には選ばれた。それによって、林がミックスゾーンに姿を現したのは22時50分で、試合後1時間30分が経過していたため、幾分疲れた表情を見せていたが、いざ記者の前に立つと、真面目な彼女らしくはっきりした口調で、冷静に試合を振り返った。
「マイボールを奪われてピンチになってしまうことを警戒していたが、思った以上の速さがあり、全体で見るとピンチもあった。これからも、速い相手に対しては味方をサポートしながら、判断もよくして、もっとボールをつなげられるように試合を進めたい」
優勝候補の一角と見られるアメリカとは、今大会終盤で、再戦する可能性が低くない。そんなことも考えながら、林はホテルに向かう車に乗っただろうか。
※アンチドーピングコントロール=試合後に無作為で選ばれた選手が検査を受け、不当なドーピングの撲滅を図るためのもの。
取材・文=馬見新拓郎
前半は休みなく続くアメリカのプレスと猛烈なスプリントに翻弄され、圧力をかけられた日本はボールをクリアするのが精一杯。19時30分キックオフの試合だが、日が長いフランスはまだ日差しが強く、なかなかプレーが止まらないために、日本選手は給水することもままならない。
しかし、この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたキャプテンのDF南萌華(浦和レッドダイヤモンズレディース)を中心に、日本は足を止めずにボールを追った。日本の池田太監督は「アメリカの速いスピードに対して、個人ではなくグループで助け合いながら守備を作った。ハードワークが特長の日本らしく戦えたことが勝利の要因」と試合後に振り返り、強敵・アメリカ戦を攻略できたことに納得の表情だった。
強固な守りでアメリカを封じた日本は、そのままなら勝ち点1で終わる計算だが、それを勝ち点3に変えたのが、MF林穂之香(セレッソ大阪堺レディース)だった。
76分、MF宮澤ひなた(日テレ・ベレーザ)がドリブルを仕掛けてボールがこぼれると、アメリカのFWソフィア・スミスと林の、ちょうど中間に転がる。すると林はそこで下がることなく、一歩先に足を踏み出す選択をする。
「まだ体力が残ってたし、ルーズボールへの反応は自分がずっと大事にしてきた持ち味。たぶん相手も疲れてきてたところで、下がるんじゃなくて、先に飛び出せたことが、いいシュートにつながったのかな」
一瞬出遅れたスミスは、ボールに足を伸ばして少し触るのがやっとで、フリーとなった林は、ルックアップしてゴールの位置を確認。左足を振り抜いてロングシュートを放つと、美しく弧を描いたボールは、アメリカのGKローレル・アイボリーが伸ばす右手を避けるように、クロスバーに擦りながらゴールネットを揺らした。
“トレビアン”なゴールを決めた林の近くに日本選手が駆け寄ると、選手たちは全員で『くねくねダンス』を披露。4日前に行ったサッカー教室『レガシープログラム』に参加した、地元の子どもたちから習ったという陽気なダンスに、スタンドは温かい笑いに包まれた。
林は今季、プレナスなでしこリーグ1部に初昇格したC大阪堺で、背番号を7から10に改め、主将も担うことになった。選手全員が21歳以下という若いチームは、波に乗ったら勝ちが続くが、今季は日本のトップリーグで苦戦を強いられている。なでしこリーグでは1勝1分7敗の10位中9位で、主力選手をベンチに置くなど、チームとしても試行錯誤が続く。不動のボランチだった林も、今季途中からはベンチを温める試合があり、決して上向きで今大会に入ったわけではなかっただろう。
しかし、今大会最初の山場とだったアメリカ戦では、林本来の出足の速さと絶妙なポジションニングで、こぼれ球を次から次に拾い続けた。それは決して派手なプレーの連続ではないが、「攻守で危機察知能力に優れている」と指揮官の信頼は厚くなる一方だ。 例えば決勝点の場面を振り返ると、こぼれ球に林が一歩踏み出すのが遅ければ、今回の勝ち点3はもたらされていなかったはずだ。前半はアメリカの圧力に本当に苦しんだが、林は勝負どころの一瞬を見逃さない準備をしていた。
決勝ゴールを決めたにもかかわらず、林はプレーヤー・オブ・ザ・マッチの選外となったが、試合後のアンチドーピングコントロール(※)の対象者には選ばれた。それによって、林がミックスゾーンに姿を現したのは22時50分で、試合後1時間30分が経過していたため、幾分疲れた表情を見せていたが、いざ記者の前に立つと、真面目な彼女らしくはっきりした口調で、冷静に試合を振り返った。
「マイボールを奪われてピンチになってしまうことを警戒していたが、思った以上の速さがあり、全体で見るとピンチもあった。これからも、速い相手に対しては味方をサポートしながら、判断もよくして、もっとボールをつなげられるように試合を進めたい」
優勝候補の一角と見られるアメリカとは、今大会終盤で、再戦する可能性が低くない。そんなことも考えながら、林はホテルに向かう車に乗っただろうか。
※アンチドーピングコントロール=試合後に無作為で選ばれた選手が検査を受け、不当なドーピングの撲滅を図るためのもの。
取材・文=馬見新拓郎
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