【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第7回】内圧変更による多数の影響も、扱いに問題なし。今後に繋がるデータ収集も
2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニリングディレクター。第5戦70周年記念GPではタイヤのコンパウンドが1段階柔らかいものになり、第4戦イギリスGPで相次いだパンクを懸念してタイヤの内圧も変更された。
また直近の2レースではドライバーへの警告やペナルティが続いたハースだが、そんな現状を小松エンジニアはどう捉えているのか。現場の事情をお届けします。
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2020年F1第5戦70周年GP
#8 ロマン・グロージャン 予選14番手/決勝16位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選17番手/決勝リタイア
第5戦70周年GPでは、先週の第4戦と比べてタイヤのコンパウンドが1段階柔らかいものに変更されました。また前回のレース終盤にタイヤのパンクが相次いだこともあって、タイヤの内圧も変わりました。まずは、その影響について説明します。
今回の変更ではフロントタイヤが2psi、リヤタイヤが1psi上がりました。前後で内圧の上がり幅が異なると、グリップの出方がフロントとリヤで変わるので、クルマのバランスに影響があります。また内圧が上がることによってタイヤの接地面積とその形も変わるので、タイヤの滑り方が変わり、タイヤの表面温度にも影響します。
フロントタイヤの内圧が高すぎる場合は、ブレーキを一気に踏んだ時にフロントタイヤがロックアップしてフラットスポットを作ってしまう可能性も増えますし、タイヤの摩耗も変わるのです。
このように内圧の設定が変わると、あらゆる面に影響が出ます。バランスの変化に対してはサスペンションやエアロの調整で対応可能です。接地面の変化によるタイヤの表面温度はキャンバーやトーと言ったアライメント調整で対処できますが、もちろんこれらを変えるとクルマの安定性やバランスにも影響が出てくるので、一筋縄ではいきません。
内圧への対応に限った話ではありませんが、起こっている細かい現象をひとつひとつ見ながら、クルマ全体への影響を理解してセットアップを進めることが大事です。
ドライバーからは特に「内圧が変わったからこう感じる」というフィードバックはありませんでした。ドライバーはクルマに起こったことを感じてコメントするので、通常時のように「低速コーナーの出口でリヤが滑ってアクセルを開けられない」などとコメントしますが、これでいいんです。このコメントからデータを見て、何が原因なのかを探るのがエンジニアの仕事ですからね。
タイヤが1段階柔らかくなったことを少し心配していましたが、僕たちにとっては予選では比較的使いやすいタイヤだったので、逆にこれで良かったと思っています。
この週末は特にクルマに大きな改善はありませんでしたが、予選ではロマンがQ2に進みました。第4戦ではセットアップをうまく進められていたので、先週の時点で予選時のクルマのバランスはとても良かったのです。ですから「16番手が限界でした」と先週は書きました。
タイムを見ればわかりますが、第5戦の予選タイム(1分27秒254/グロージャン14番手)は第4戦(1分27秒158/マグヌッセン16番手)とほぼ変わりません。逆に第5戦で遅くなったチームが多かったので、ウチが相対的に良くなってロマンはQ2に進出することができました。これが何故かという理由は大体把握しているつもりです。これから先にも繋がることなので、とても良いデータが採れたと思っています。
■ドライバーは“気負いすぎ”。第6戦で仕切り直し
大きな改善がないとはいえ、今回はケビンが低調でした。その理由はまだ明確にはできていませんが、理由はひとつではないと思っています。ところどころではきちんと走って良いタイムを出せているのですが、クルマに対して自信が持てず、常に安定して良いタイムで走ることができませんでした。これには、いくつか理由があるはずです。
決勝レースでは5秒のタイムペナルティを受けましたが、調子が悪くて「最後尾には落ちたくない」という気持ちが大きかったのでしょう。アウトに膨らんだ後、コースに戻ってくるときにアグレッシブすぎました。ペナルティは妥当だと思います。
第6戦スペインGPでは仕切り直して、フリー走行1回目の一発目から自信を持って走ってもらうことが肝心です。今はそれに向けてドライバーとチームが一丸となって作業しているところです。
それから第4戦ではロマンに黒白旗が掲示されました。久しぶりに良いポジションを走っていて、「絶対に簡単には抜かせない」とちょっと気負いすぎていたところがありましたね。動くタイミングが遅くて危険だったと思います。
最近、特にロマンはレースで良い走りをしながらも、毎回もったいないミスが多くてチャンスをモノにできていません。第3戦ハンガリーGPでのアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)との接触は避けられたと思います。第4戦はピットストップでギヤを1速に入れる際のミス、そして今回はスタートで大失敗をしています。この3つのレースすべてで10位以内に入賞できる可能性がありました。いずれも良い走りをしながらもひとつのミスでチャンスを逃しています。
第5戦を振り返ると、ロマンは13番手からレースをスタート。14番手からスタートしたエステバン・オコン(ルノー)は見事に1ストップで8位入賞しています。彼はレースのほぼすべてを前に誰もいない状態(フリーエアー)で走ったのでタイヤも良い状態で使えていたと思います。
一方ロマンはスタートのミスや1周目のコースオフで出遅れた結果、ウイリアムズやアルファロメオに引っかかってしまい、タイムロスをしただけではなくタイヤもダメにしてしまい(前のクルマのすぐ後ろを走っているとダウンフォースが抜けてしまうため)、2ストップにせざるを得ませんでした。ロマンが普通のスタートさえしてくれたらオコンと同じようなレースができた可能性があるので、ホントに残念です。次のスペインGPでは是非レースを通してミスなく走り切りたいと思います。
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