「どうあがいても長谷部誠にはなれない」――ロシアで知らしめた存在価値 ”稀代の主将”は日本代表にとってどんな男だったのか【コラム】

2024年5月24日(金)16時30分 ココカラネクスト

ワールドカップ3大会でキャプテンを務めた長谷部。彼でなければ個性派が揃う日本代表はまとまらなかったかもしれない(C)Getty Images

 元日本代表のキャプテンでもあった長谷部誠が今シーズン限りでの現役引退を発表した。

 過去、日本代表のキャプテンとしてW杯を戦ったのは、4人しかいない。フランス大会の井原正巳、日韓大会、ドイツ大会の宮本恒靖、南アフリカ大会、ブラジル大会、ロシア大会の長谷部、カタール大会の吉田麻也だ。3大会でゲームキャプテンとキャプテンを務めた長谷部は、それぞれ難しいチームをハンドリングし、3大会中2大会でベスト16に導いた。結果を踏まえて考えると、長谷部は希代のキャプテンだったことが分かる。

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 長谷部がプレイヤーとして、またキャプテンとして注目されるようになったのは、南アフリカ大会の時だった。チームがうまく機能せず、大会直前の親善試合のイングランド戦前、システムと選手を大幅に入れ替え、ゲームキャプテンも中澤佑二から急遽、長谷部にバトンタッチされた。

 その時、長谷部は「ビックリした。キャプテンは誰がやっても変わらない。僕は特別なことはできない。ただ、キャプテンマークを巻いているだけ」と語り、「誰がやっても」という言葉で交代した中澤に気を使っていたのが印象的だった。

 細やかな気遣いは、それまでレギュラーだった選手がポジションを剥奪され、尖った空気の中でも発揮された。ダブルボランチを組んでいた遠藤保仁は「あまり良くない状況でキャプテンを任されてハセは大変だったと思う。監督のやろうとしたことを徹底し、ドイツ大会のようにバラバラにならないようにひとつになろうと声をかけ続けたハセがいたから結果を出せた」と語った。

 次のザッケロー二監督の政権下では、キャプテンの才、リーダーシップの素質があると認められ、「長谷部しかいない」とすぐにキャプテンに任命された。「W杯優勝」を宣言する本田圭佑をはじめ、香川真司、長友佑都、岡崎慎司ら個性の強い選手を泳がせながらもチームをまとめた長谷部を吉田は「このチームは長谷部さんがいるからまとまっている。前の選手とうしろの選手を繋ぐリンクになっているのでキャプテンとしてはもちろん、選手としても欠かせなかったです」と語った。攻撃の選手を束縛せず、一方でチーム戦術で尊守すべきことはどの選手にも要求する厳しさがあった。

数々の修羅場を経験した長谷部が後輩たちをどう導いていくのか楽しみだ(C)Getty Images

 ブラジルW杯では、大会前に、「うまくいくこともあるし、うまくいかない時もあるけど、お互いを信じあって監督、スタッフを信頼してやっていこう」と選手に話をした。チームメイトやスタッフに対するリスペクトが感じられる言葉だが、それはチームを引っ張る立場の選手には欠かせない特性でもある。

 ドイツ大会で生じた不協和音を封じて一枚岩になって戦った南アフリカ大会の成功体験を踏まえて、大会を勝ち抜くために必要な「一体感」を生むためには、お互いのリスペクトから始まることを長谷部は理解しており、その重要性を改めて選手に伝えたのだ。

 ブラジルW杯は若いロンドン五輪世代の選手も多くおり、試合に絡めない選手も多数いた。だが、彼らが悔しさを噛みしめながらもチームをサポートする姿勢を見せていたのは、彼らの高い意識と同時に長谷部のリスペクトの精神と同じ方向を向いて戦うという姿勢にブレがなかったからだ。

 長谷部という存在が日本代表にとって、そして、キャプテンとして存在感がどれほど大きいのかを知らしめたのは、ロシアW杯でベルギーに敗れて、長谷部が代表引退を決めた時だった。それまで7年間、一緒にプレーしてきた吉田が涙を流し、「あれほどチームのことを考えてプレーできる選手は少ない。彼の姿勢から学ぶことはたくさんあった。どうあがいても僕は長谷部誠にはなれない」と語ったが、それがまさに長谷部を語る言葉だったといえる。

 吉田は長谷部からキャプテンを引き継ぐことになるが、特別な言葉掛けはなく、「麻也ならやれるでしょ」と一言だったという。あれこれくどくど言わず、必要だと思うこと以外は特に話をしない。ブラジルW杯の時、再三選手ミーティングを開くかどうかメディアに聞かれていたが、「それが必要だと思うタイミングじゃないとやらない。ただやるだけでは凶になることもあるんで」と語った。長谷部は、判断の基準が明確で、本当にメリハリの利いたキャプテンだったと言える。

 吉田は、長谷部から学んだことを継承し、カタールW杯でスペインやドイツを破るなど、チームをベスト16進出に導いた。そして今、長谷部、吉田と紡いだものが現代表のキャプテンの遠藤航へと受け継がれている。長谷部と遠藤のキャプテンとしてのスタイルがどこか重なるように見えるのは、決して偶然ではないのだ。

[文:佐藤俊]

ココカラネクスト

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