つねに限界で走れるかが肝/GT300マシンフォーカス:アウディR8 LMS
2017年シーズンは15車種30チームが熾烈なバトルを繰り広げるスーパーGT300クラス。数多くある車両から1台をピックアップし、ドライバーや関係者にマシンの魅力を聞いていく。
今回は、2016年から新型が投入されたアウディR8 LMSにフォーカスする。
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アウディR8 LMSは市販車モデルであるアウディR8をベースとして、GT3の規則に沿って開発されたレーシングマシン。初代モデルにあたるR8 LMS/R8 LMSウルトラは2011年に登場し、2015年にモデルチェンジが行われるまでに全世界で130台以上のセールスを記録している。
そんなR8 LMSは、市販モデルのR8がモデルチェンジしたのに合わせ、2015年のジュネーブモーターショーで現行モデルにあたる新型がお披露目された。この新型モデルはボディ以外は同じフォルクスワーゲン・グループの兄弟車であるランボルギーニ・ウラカンGT3とほぼ同一の仕様。
ボディについてはアルミなど軽量素材を多用することで車両重量の削減を図る『アウディスペースフレーム』を採用したことで、従来モデルから25キロの減量に成功している。搭載するエンジンは、排気量5200ccのV型10気筒自然吸気エンジンで、最高585馬力を発生させる。
ただし、駆動方式に関しては、GT3カーの規格に対応するために、市販車の四輪駆動から後輪駆動に変更された。
モデルチェンジされた新型R8 LMSは2016年シーズンからスーパーGTに登場。2017年はAudi Team HitotsuyamaとTeam TAISAN SARDの2チームが投入している。
なかでもAudi Team Hitotsuyamaは、2012年のスーパーGT復帰以降、一貫してアウディR8 LMSシリーズを使用。2014年からはアウディジャパンとパートナシップを結び、2016年の第3戦もてぎでは悲願の初優勝を手にした。
■「クルマの動きや入り方を理解して走らないとタイムを詰められない」
そんなチームに2017年から加わった柳田真孝は、GT3カー全体の印象について「プロが乗って結果を出そうとすると、マシンのキャラクターを理解して、突き詰めていかなくてはならない」と語る。
「GT3はどのクルマも、どのメーカーも『誰が乗っても速く走れる』というコンセプトで造っています。しかし、プロドライバーが乗って結果を出そうとすると突き詰めていかなければいけないですし、各クルマのキャラクターをうまく理解して使わないと速く走れません」
「アウディもある程度のところまでは(タイムを上げて)いけますけど、その先数秒を削る作業は難しくなってきます」
「ダウンフォースはあるけど、そこを思い切り使って速く走ろうとすると、意外にタイムが伸びないんです。例えばブレーキで突っ込みすぎたりとか、コーナーの進入でタイムを稼ごうとするとね」
「クルマの動きや入り方を理解して走らないと(タイムを)詰められないので、その部分についてドライビング(スタイル)を合わせたり、クルマのセットアップを合わせたりして試行錯誤しています。リチャード(・ライアン)はもちろん、チームとも話しあって進めています」
コーナリング性能としては「ミッドシップ車なのでコーナリング時のタイヤに対するマイルドさという部分が、R8 LMSのストロングポイント」だと柳田。
ただ、同時にミッドシップであるためにリヤが重く、コーナーの進入で速く走ろうとするとリヤが流れてしまう傾向がある。
「一度(リヤが)流れてしまうとコーナーでずっと流れてしまいます。なので、いかにそれを流れないようにするか」
「だけど、流れる限界手前で走らないと速く走れず、その幅にクセがあって難しいです。ドライバーもうまくそこを感じ取って、いかにつねに限界で走っていられるかが肝になりますね」
■市販車とのパーツ共有率は50%。「音はまったく一緒」
このコーナリング性能は市販車のアウディR8も同様だ。使われているダンパーやタイヤは量産車のR8とGT3カーのR8 LMSで違うのだが、R8がコーナリングしているときの動きのしなやかさは、レーシングカーのR8 LMSに通ずるところがあるという。
一方で、ウラカンGT3の兄弟車で、搭載するエンジンはV型10気筒と聞くと、ハイパワーなイメージを抱くかもしれない。しかし、ストレートの加速感について、「重さを感じる」と柳田は表現した。
「エアリストリクターで(パワーを)けっこう絞られています。“V10”と言えばハイパワーなイメージがあるけど、ここまで絞られてしまうとね。(取材を行った第4戦SUGOでは38mm×2のエアリストリクター装着が義務付けられた)」
「エアリスの影響で低速から高速にいくまでの過程が遅いんです。高回転域に入ってしまえば安定して走れるので、伸びしろはあります」
先に述べたように、R8 LMSは市販車のR8をベースに造られたレーシングカー。開発も量産モデルのR8と並行して進められ、生産されている工場も同じだ。使われているパドルやエアコンの吹き出し口など、市販車とのパーツ共有率は50%にものぼる。
「(走行中の)音がね、まったく一緒なんです。それから使っているパドルが同じだから、ステアリングを握ってパドルを触る感覚とかも(市販車と)一緒。(R8とR8 LMSは)かなり似ていると思います。座っている感覚とかもね。そこは面白いなと思いますね」
「動きがマイルドでいいのですが、かといってぐにゃぐにゃすぎてワインディングを走れないというわけでもないですし」
■R8 LMSのアドバンテージはフロントタイヤへの“優しさ”
プロレーシングドライバーの柳田をもってして「すごくよくできている」と言わしめたR8。レーシングカーR8 LMSが持つポテンシャルの高さは、市販車のR8が備える基本性能のよさなのだろう。
Audi Team Hitotsuyamaは2016年からタイヤをダンロップにスイッチした。2017年はR8 LMSとダンロップタイヤの組み合わせで2年目となる。R8 LMSとダンロップタイヤとの相性はどうだろうか。
「路面、タイヤ、クルマがきれいに1本の線で決まれば、すごくうまくはまる」と柳田は語る。コーナリング性能を生かすも殺すもタイヤ次第。「タイヤさえよければクルマのセッティングが多少きまっていなくても、ピーキーな動きは消える。タイヤがよくてクルマもマッチしていれば、さらによくなる」のだという。
「今のGTというのは、少しでもタイヤが合わなかったり、少しでもセッティングが外れたりするだけで、それがとても大きな差になってしまいます。それはGT500でもGT300でも同じです」
「タイヤのマッチングもすごく大きなファクターで、そこを少しでも間違えると、優勝争いの権利をなくしてしまうんです」
「(ダンロップタイヤは)ロングランしていても性能が落ちないですし、R8 LMSはミッドシップ車でフロントに対する負荷が少ないので、(そういった部分での)アドバンテージはかなりあるんじゃないかと思います」
Hitotsuyama Audi R8 LMSは第5戦富士で今季初入賞を果たした。ダンロップタイヤとのきれいな1本線を描きつつあるのかもしれない。今シーズンのスーパーGTも残り3戦。R8 LMSが見せる戦いに注目だ。
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