【レースフォーカス】アプリリアに最高峰クラス21年ぶりの表彰台をもたらしたA.エスパルガロと、その進化/MotoGP第12戦イギリスGP
MotoGP第12戦イギリスGPで、大きなトピックスの一つとなったのはアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)の3位表彰台獲得だろう。アプリリアのライダーが最高峰クラスで最後に表彰台を獲得したのは、2000年第9戦イギリスGP 500ccクラスでのジェレミー・マクウィリアムスの3位で、実に21年ぶりの快挙である。むろん、アレイシ・エスパルガロとしてもアプリリアでは初めてポディウムに立った。
2021年シーズン、アプリリアを駆るアレイシ・エスパルガロの成績は確かに上向いていた。第8戦ドイツGPでは予選で3番グリッドを獲得。そのドイツGPの決勝レースでは、序盤2番手を走行していた。
序盤に上位を争うポジションを走っていても、これまではレース中盤に入ると次第にトップグループから離されてしまう展開が多く、その差がアプリリアとほかのメーカーとの差を物語っていた。しかし、イギリスGPの決勝レースは違った。
2列目6番グリッドからスタートすると、1周目で2番手に浮上。序盤に一時、4番手に後退するも、そこから再び追い上げたのである。5周目にはレプソル・ホンダ・チームのライダーであり、弟でもあるポル・エスパルガロの背中に迫り、翌周には切り返しの8、9コーナーでポル・エスパルガロを交わした。2番手に浮上したアレイシ・エスパルガロは、トップを走るクアルタラロを追いかけようとした。
「ペッコ(フランセスコ・バニャイア)とポルをオーバーテイクしたとき、すでにファビオとの差は1秒以上になっていて、ファビオに追いつくことはできなかった。だから、アレックス(・リンス)との2番手争いに集中することにしたんだ」
その後、アレイシ・エスパルガロは後方からやってきたリンスに交わされるも、3番手を維持していた。そして最終ラップでは、ハイペースで追い上げてきたジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)との接戦を演じる。3番手のアレイシ・エスパルガロと4番手のミラーとの差はほとんどない。ミラーが高速コーナーである12コーナーでアレイシ・エスパルガロの横に並び、13コーナーでインに飛び込む。アレイシ・エスパルガロはすかさずクロスラインでイン側に位置取ると、ミラーに離されまいとした。続く14コーナーの立ち上がりでミラーに先行し、やはり左コーナーである15コーナーで前に出た。
「誰が後ろから来ているのかはわからなかったよ。これは大きなミスだったな。最終シケインで、(ジャック・ミラーに)オーバーテイクさせるすきを与えてしまったんだからね。今日はとてもスムーズに走っていたし、冷静だった。それに、リヤタイヤをセーブできていた。だから、ジャックよりもトラクションがあったんだ。それで僕は3位を取り戻すことができたんだと思うよ」
3位でフィニッシュラインを通過したアレイシ・エスパルガロが、タンクの上で感情を耐えるようにうつむく。仲がいいことでも知られるエスパルガロ兄弟。弟であるポル・エスパルガロが兄のアレイシ・エスパルガロの元にやって来て、健闘を称えるようにその頭を何度か叩いた。
アレイシ・エスパルガロは決勝レース後の会見で、2017年から乗り替えたアプリリアでのバイクへの適応、バイクの進化についてこう語っている。
「一つはっきりしているのは、僕は自分にバイクを合わせようとはしなかったということだ。この5年間、僕はバイクをライバルと競い合えるものにしようと尽力していた。もちろん、エンジニアにはどうしたいのかを伝えたよ。僕はバイクを開発しないといけない立場にあったからね」
「でも僕は常に、バイクに自分自身を合わせようとした。常に、バイクのいいところを伸ばし、バイクの弱点をよくしていこうとした。これが5年間、僕がやってきたことだ。(元フェラーリのスポーティング・ディレクター)マッシモ・リボラが(2019年から)やってきてからは、いろいろなやり方が変わった。多くのエンジニアがやってきた」
「アプリリアのバイクは、高い安定性を備えて、ダウンフォースが効く。エンジンの位置を変えることで、バイクのバランスも少しずつ変えている。この2年間で様々なことが行われ、その成果が出てきているんだ」
また、アプリリアはリヤ側のライド・ハイ・デバイスについて、自動で作動するものを開発したのだという。アレイシ・エスパルガロが予選後の取材のなかで明かした。オーストリアですでに実戦使用されたということだ。ただ、イギリスGPではサーキットのレイアウトを考え、手動のものを使用していたという。
ちなみに、アプリリアは今季、唯一、シーズン中の開発やテストなどの条件面で優遇されるコンセッション(優遇措置)が適用されるメーカーである。その進化は、イギリスGPの3位という形で現れた。アプリリアは2022年シーズン、これまでチームを運営していたグレシーニ・レーシングと袂と分かち、ファクトリー体制での参戦となる。そしてチームメイトにはマーベリック・ビニャーレスが加入する。その成長ぶり、そして体制としても、目が離せないメーカーとなるだろう。
■クアルタラロが得た65ポイントのアドバンテージ
そして、イギリスGPで今季5勝目を挙げたのがクアルタラロだ。アレイシ・エスパルガロの言葉にもあるように、6周目にアレイシ・エスパルガロが2番手に浮上したとき、その差は1秒以上になっており、独走で優勝を飾った。
クアルタラロはこれまでにもしばしば述べているように、チャンピオンシップについては考えなていない。そう、イギリスGPの決勝レース後の会見でも述べていた。
「僕はチャンピオンシップに集中しているわけではないんだ。47ポイント差が65ポイント差になったのだから、それは大事なことだけれど、でも、レース前には、チャンピオンシップを考えない自分に言い聞かせていた。少なくとも、ミサノ(第14戦サンマリノGP)後まではね。僕は楽しんでいるし、気持ちよく走れている。だから、次のレースでもまた楽しんで走りたいと思うんだ」
昨年、混戦のシーズンで3勝を挙げながらもチャンピオンシップでランキング8位にとどまったのは、シーズンをとおした安定感が欠けていたからだった。今季は違う。5度の優勝のみならず、3度の3位を獲得しており、転倒リタイアのレースもない。
この安定感という点では、今季、クアルタラロが頭一つ抜けていると言えるだろう。ランキング2番手のライダーは何度か入れ替わっているが、第5戦フランスGP以降、トップはクアルタラロが守り続けている。
第12戦イギリスGPを終えて、ランキング2番手のジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)との差は65ポイント。残りのレース数は確定していないが、6、7戦であることを考えれば、クアルタラロにとって有利な状況となったイギリスGP、と言えそうだ。
クアルタラロは何度も「チャンピオンシップについては考えない」と繰り返している。この言葉が、クアルタラロのメンタル面での戦略なのかもしれない。クアルタラロがタイトルを意識したとき、どんなチャンピオンシップ争いを繰り広げるのか、シーズン終盤には明らかになっていくだろう。
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