【レースフォーカス】ライダーの欠場が相次ぐホンダ/中上が果たした6位フィニッシュ:MotoGP第8戦
混戦模様を呈す2020年シーズンMotoGPのチャンピオンシップにあって、ホンダが苦戦を強いられている。エースライダーのマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)のみならず、ライダーの欠場が相次ぎ、第8戦エミリア・ロマーニャGPを終えて、ホンダは一度も、優勝はもちろん表彰台にも立っていない。ただ、エミリア・ロマーニャGPではそうした状況に光明が差す結果となった。
第8戦エミリア・ロマーニャGPまでのホンダ陣営の状況について整理しよう。まず、第2戦スペインGPの決勝レースで、マルケス兄がハイサイド転倒。右上腕を骨折し、翌々日にバルセロナの病院で手術を受けた。マルケス兄はその後、第3戦アンダルシアGPの開催地であるヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエトに戻り、木曜日のメディカルチェックをパスしたが、最終的に欠場を決断した。
マルケス兄は8月3日、骨折した右上腕を再手術。骨折箇所を固定していたチタンプレートにダメージが見つかったためだ。そして第8戦エミリア・ロマーニャGPまで欠場が続いている。
エースライダーのマルケス兄のみならず、ホンダライダーたちに欠場が続いた。カル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)は第2戦スペインGPのウオームアップセッションで転倒し、左手の舟状骨を骨折。手術を受けて第3戦アンダルシアGPから復帰したが、第7戦サンマリノGP前には右前腕の腕上がりの手術を受け、その経過を理由として第7戦、第8戦を欠場。
さらにはマルケス兄の代役を務めていたテストライダー、ステファン・ブラドルも、9月15日に手術を受けた右腕の状態を理由に第8戦を欠場した。マルケス兄、クラッチロー、ブラドル不在により、ホンダライダーとしてはMotoGPクラスルーキーのアレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)と、2019年型ホンダRC213Vを駆る中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)だけが第8戦エミリア・ロマーニャGPに参戦する事態となったのだ。
ホンダとしての第8戦エミリア・ロマーニャGPまでのチャンピオンシップのランキングを見ると、コンストラクターはトップから75ポイント差のランキング5番手。チームランキングとしては、チャンピオンチームのレプソル・ホンダ・チームはトップから123ポイント差の最下位に沈んでいる。2019年シーズンにライダー、コンストラクター、チームタイトルの3冠を達成したことを考えれば信じがたい状況だが、一方で、マルケス兄というひとりのライダーの功績がどれほど大きなものかを露呈している状況だとも言える。
■第8戦を6位でフィニッシュした中上。チャンピオンシップで7番手に
中上は第3戦アンダルシアGPからマルケス兄のマシンセッティングを取り入れ、また、マルケス兄スタイルのライディングに取り組んでいる。新たな取り組みにより、今季、中上は躍進を見せている。
第3戦アンダルシアGPではベストリザルトの4位フィニッシュ。第6戦スティリアGPでは、予選で2番グリッドを獲得している。第7戦サンマリノGPでは、改修された路面のバンプに苦戦したものの、同じくミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリで行われた第8戦エミリア・ロマーニャGPでは金曜日から総合2番手につけた。
ただ、、翌日の予選で中上は転倒を喫する。Q2へのダイレクト進出を果たした中上は、Q2から予選に臨んだ。しかし、ピットイン後の2回目のアタックで、15コーナーでクラッシュ。予選でタイムを記録できず、12番グリッドとなったのだ。フリー走行4回目でも同様に15コーナーで転倒を喫していた中上。予選でのクラッシュには思いがけない理由があった。
「フリー走行4回目では、フロントにハードタイヤを履きました。それでクラッシュしてしまったんです。そこで、もうフロントにハードタイヤは履かない、ということになりました。予選では2回しかアタックのチャンスがないので、ミディアムタイヤで行く予定だったんです」
「ところが、理由はわからないのですが、チームのミスが発生して、Q2の最初のアタックではフロントにハードタイヤが装着されていたんです。そのときはクラッシュはしませんでしたが、ピットインしたらチームが『コミュニケーションがうまくいっていなくて、フロントにハードタイヤを履かせてしまった』と言ったんです。それで、僕はフロントタイヤがミディアムに交換されたと思ったんです。でも、そうではありませんでした。ピットアウトしてピットレーンを走っているときに、フロントにハードタイヤが装着されていると気づきました」
しかし12番グリッドスタートとなった決勝レースでは、ポジションを上げた。レース終盤にはマルケス弟とホンダ同士のポジション争いを展開。オーバーテイクを果たして6位でフィニッシュした。
「できるだけ早くダニロ(・ペトルッチ)をオーバーテイクしたかったのですが、最初の10周はとても厳しかったですね」と中上。ドゥカティの後方で走行する場合、受ける風の影響によりフロントタイヤのパフォーマンスが低下するのだという。
「でも、低速コーナーでオーバーテイクすることができました。そのあとに追い付いたドビ(アンドレア・ドヴィツィオーゾ)の後ろでも、フロントタイヤの感覚は変でした。僕のほうがセクター3で速かったですし、毎周、低速コーナーでオーバーテイクをしようと、ずっと待っていました。そしてレース終盤、最後のチャンスだと思って少しアグレッシブにドビのインに入りました」
その後、残り3周で6番手を走行していたマルケス弟をオーバーテイク。対するマルケス弟はこのとき、問題を抱えており「ハンドルバーがひどく動いて、タイムを失ってしまった」という。ともあれ、中上は6位でフィニッシュを果たした。
中上はこの第8戦エミリア・ロマーニャGPを終えて、チャンピオンシップのランキング7番手につけている。今季のチャンピオンシップはいまだ非常に接近しており、ランキング7番手の中上までに21ポイント差という状況だ。この状況に、レプソル・ホンダ・チームのチームマネージャーであるアルベルト・プーチ氏がピットにやって来て「タカ、チャンピオンシップのポジションを見てごらん。7番手にいるよ。でも、トップとの差は21ポイントだ。クレイジーだね。チャンピオン争いのなかにいるんだよ。チャンピオンになれるかもしれないよ!」と言ったのだと、中上は笑いながら明かした。
ホンダとして異例の状況のなかでシーズンを戦っている中上だが、取り巻く環境に変化はあったのだろうか。決勝レース後、オンラインで行われたメディア向けの取材会で質問すると、中上からは「特に変わっていません」という答えが返ってきた。
「今年からは、もし質問や要望がある場合、僕はタケオさん(横山健男氏/HRCテクニカルマネージャー)に直接、言うことができますし、タケオさんは僕にアドバイスもくれます。だから、マルク、カル、ステファンがここにいないとしても、サポートとしては特に変わっていません。特にタケオさんは、ほとんどのセッションで僕の側にいます」
とはいえマルケス兄の負傷直後は「突然タケオさんが僕たちのピットにやってきました。僕はより多くのデータを得ることができましたし、HRCにリクエストもできました」ということだ。「そして、少しずつバイクのパフォーマンスも上がっていきました」
中上自身、取り巻く状況に影響はされていない。「ちょっとはプレッシャーも感じますが」と言いながらも、「ただ、僕としてはバイクに乗ってポテンシャルを証明する。それは変わらないところ」だと語る。そして「表彰台を獲得できたら、僕の人生は大きく変わると思うんです。できるだけ早くそうなりたいですね」と、確固たる目標を見定めていた。
第8戦までに中上が見せている可能性もさることながら、もうひとりのホンダライダー、マルケス弟も、今大会で躍進した。前戦サンマリノGPでの17位フィニッシュから、17秒もレースタイムを短縮。上述のように、レース終盤に問題を抱えて中上に交わされ、2020年シーズンの自己ベストリザルトの7位でフィニッシュを果たした。17番グリッドスタートからの7位フィニッシュなのだから、上々のリザルトだ。
ルーキーでありながら、チームメイト不在のまま、長い時間を過ごしているアレックス・マルケス。ただ、兄のマルクからは「ホンダのバイクをコントロールする必要があるよ」とアドバイスを得ているという。
「このバイクが難しいのはわかっているし、ライダーに要求するバイクだともわかっている。バイクはスムーズというわけではないけれど、でもすべてがうまくコントロールできれば、ものすごいポテンシャルを発揮できる。僕はそのポイントに向かっているけれど、まだ時間が必要なんだ」
中上とともに、マルケス弟が第8戦エミリア・ロマーニャGPで成長を見せた。続く次戦、カタルーニャGPの結果には要注目だ。
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