日本代表の窮地を救った浅野拓磨 “ロシアのリベンジ”を果たすために
サッカーキング2021年10月18日(月)19時3分
浅野のシュートから決勝点が生まれた [写真]=金田慎平
「たぶんゴールはオウンゴールだと思いますけど、『絶対に自分が試合を決める』という気持ちでピッチに入ったので、ゴールにボールが入った時はホッというか、うれしいというか…。もう(感情を)爆発させすぎて、ジャガーポーズをするのも忘れていました」
10月12日に行われたFIFAワールドカップカタール2022アジア最終予選のオーストラリア戦。勝ち点3以外は許されない絶体絶命の状況で、恩師・森保一監督と日本代表を救ったのが途中出場の浅野拓磨だった。1-1で迎えた86分、吉田麻也のロングフィードに反応して背番号18が放った左足シュートがGKマシュー・ライアンとDFアジズ・ベヒッチに当たって入っていなければ、日本のグループ2位以内は絶望的になっていた。試合直後の円陣で「俺たちは生き残ったぞ」と指揮官が絶叫した通り、浅野の一撃に全員が救われたのである。
4年前、ロシアW杯出場の切符をつかんだ大一番でも値千金の先制弾を決め、“オーストラリアキラー”の面目躍如となったわけだが、彼には絶対に結果を出さなければいけない理由があった。ロシアW杯開幕直前までチームに帯同していながら、最終登録に入れなかったからだ。ケガで別メニュー調整が続いていた岡崎慎司に代わり、浅野が繰り上がる可能性がギリギリまであったが、西野朗監督は最終的に岡崎を選択。浅野は無念の帰国を余儀なくされた。
「自分自身、最後の1日まで最終登録に入れると信じていました。コロンビア戦直前に『お前は日本に帰ることになった』と言われた時は正直、悔しかったけど、自分が岡崎さんの立場だったら『絶対に大丈夫』とドクターや監督に言い続けたと思う。その姿を見ていたら『俺ももっともっとやらんとダメだな』と強く感じました」と、浅野はのちに本音を吐露していた。
コロンビア戦をスタンドから見る悔しさを味わった男にとって、カタールW杯までの4年間は特別だ。「次こそは代表のエースになる」と自らに言い聞かせ、2018年夏にはブンデスリーガのハノーファーで新たなキャリアを踏み出した。が、チームは低迷し、2部降格が決定。クラブ側がアーセナルからの買取義務条件となっていた出場機会数を制限したため、終盤戦は全く出番を与えられなかった。まさに屈辱的な扱いを受け、1年で退団する羽目になったのだ。
翌2019年夏にはセルビアの名門パルチザンへ。欧州5大リーグ以外の道を選択したことで多くの人を驚かせたが、本人は「そこから這い上がることがカタールへの近道」だと受け止め、活躍を誓った。しかし、2020年に入ると新型コロナウイルス感染拡大でリーグが休止。人と触れ合う機会が激減し、7人兄弟の大家族で育った浅野にとっては過酷な環境の他ならなかった。
それでも2年目の2020-21シーズンはリーグ33試合出場18ゴールとブレイク。「周りに嫌われるくらいのエゴイストになりたい」と貪欲にゴールに突き進んだことで明確な結果を残した。最終的にはクラブの給与未払いでシーズン終了を待たずに契約解除という結末になってしまったが、その数字が評価されてドイツに戻るという野望を達成した。
紆余曲折を強いられながらも、たくましさを増していく教え子を森保監督も重要視。コンスタントに代表に招集してきた。1トップには大迫勇也、2列目にも南野拓実や伊東純也、東京オリンピック世代の堂安律や久保建英らタレントがひしめくため、なかなかスタメン出場のチャンスは巡ってこないが、「短時間でもいいから結果を出す」と本人も割り切っている。
その真骨頂が冒頭のオーストラリア戦の決勝弾と言っていい。「しぶとく泥臭く、オウンゴールでもいいからゴールに押し込む」という浅野らしさを爆発させたことで、前々からの悲願であるカタールへの道が何とかつながったのである。
「W杯はサッカー選手をやっている以上、消えることのない目標であり、永遠の夢。ロシアの時は『絶対に行ける』と言われていたけど、僕自身が一番危機感を感じていました。だからこそ、常に100%で取り組むしかない。自分がW杯に行けると信じてやるしかないんです」
1年前の取材時にこう話した通り、いい意味で割り切った状態で1つ1つの試合に挑んでいる浅野。短時間で結果を出してくれるジョーカーは今後の最終予選を戦い抜くうえで必要不可欠だ。オーストラリア戦で4-3-3の新布陣を採用し、田中碧と守田英正をスタメンに抜擢したことで勝利をもぎ取った森保監督自身も、主軸以外を積極活用していくべきと再認識したに違いない。目下、大迫が負傷離脱していることもあり、11月に控えるベトナム、オマーンとのアウェー2連戦は快足アタッカーの重要性がさらに増すと見られる。それだけに、もっともっと調子を上げていくことが肝要だ。
10月代表2連戦の後、最初のボーフムでの公式戦となった16日のグロイター・フュルト戦では後半18分から出場。5分後には相手DFの背後に抜け出してフリーになるというこれ以上ないビッグチャンスを迎えながら、左足シュートをサイドネットに当ててしまった。本人は頭を抱えて悔しがったが、こういう決定機を確実に決められるようにならないと、真のエースにはなれない。
代表50ゴールという偉大な記録を持つ先輩の岡崎慎司を越えるべく、浅野拓磨にはクラブと代表の両方でゴール量産を期待したい。
取材・文=元川悦子
10月12日に行われたFIFAワールドカップカタール2022アジア最終予選のオーストラリア戦。勝ち点3以外は許されない絶体絶命の状況で、恩師・森保一監督と日本代表を救ったのが途中出場の浅野拓磨だった。1-1で迎えた86分、吉田麻也のロングフィードに反応して背番号18が放った左足シュートがGKマシュー・ライアンとDFアジズ・ベヒッチに当たって入っていなければ、日本のグループ2位以内は絶望的になっていた。試合直後の円陣で「俺たちは生き残ったぞ」と指揮官が絶叫した通り、浅野の一撃に全員が救われたのである。
4年前、ロシアW杯出場の切符をつかんだ大一番でも値千金の先制弾を決め、“オーストラリアキラー”の面目躍如となったわけだが、彼には絶対に結果を出さなければいけない理由があった。ロシアW杯開幕直前までチームに帯同していながら、最終登録に入れなかったからだ。ケガで別メニュー調整が続いていた岡崎慎司に代わり、浅野が繰り上がる可能性がギリギリまであったが、西野朗監督は最終的に岡崎を選択。浅野は無念の帰国を余儀なくされた。
「自分自身、最後の1日まで最終登録に入れると信じていました。コロンビア戦直前に『お前は日本に帰ることになった』と言われた時は正直、悔しかったけど、自分が岡崎さんの立場だったら『絶対に大丈夫』とドクターや監督に言い続けたと思う。その姿を見ていたら『俺ももっともっとやらんとダメだな』と強く感じました」と、浅野はのちに本音を吐露していた。
コロンビア戦をスタンドから見る悔しさを味わった男にとって、カタールW杯までの4年間は特別だ。「次こそは代表のエースになる」と自らに言い聞かせ、2018年夏にはブンデスリーガのハノーファーで新たなキャリアを踏み出した。が、チームは低迷し、2部降格が決定。クラブ側がアーセナルからの買取義務条件となっていた出場機会数を制限したため、終盤戦は全く出番を与えられなかった。まさに屈辱的な扱いを受け、1年で退団する羽目になったのだ。
翌2019年夏にはセルビアの名門パルチザンへ。欧州5大リーグ以外の道を選択したことで多くの人を驚かせたが、本人は「そこから這い上がることがカタールへの近道」だと受け止め、活躍を誓った。しかし、2020年に入ると新型コロナウイルス感染拡大でリーグが休止。人と触れ合う機会が激減し、7人兄弟の大家族で育った浅野にとっては過酷な環境の他ならなかった。
それでも2年目の2020-21シーズンはリーグ33試合出場18ゴールとブレイク。「周りに嫌われるくらいのエゴイストになりたい」と貪欲にゴールに突き進んだことで明確な結果を残した。最終的にはクラブの給与未払いでシーズン終了を待たずに契約解除という結末になってしまったが、その数字が評価されてドイツに戻るという野望を達成した。
紆余曲折を強いられながらも、たくましさを増していく教え子を森保監督も重要視。コンスタントに代表に招集してきた。1トップには大迫勇也、2列目にも南野拓実や伊東純也、東京オリンピック世代の堂安律や久保建英らタレントがひしめくため、なかなかスタメン出場のチャンスは巡ってこないが、「短時間でもいいから結果を出す」と本人も割り切っている。
その真骨頂が冒頭のオーストラリア戦の決勝弾と言っていい。「しぶとく泥臭く、オウンゴールでもいいからゴールに押し込む」という浅野らしさを爆発させたことで、前々からの悲願であるカタールへの道が何とかつながったのである。
「W杯はサッカー選手をやっている以上、消えることのない目標であり、永遠の夢。ロシアの時は『絶対に行ける』と言われていたけど、僕自身が一番危機感を感じていました。だからこそ、常に100%で取り組むしかない。自分がW杯に行けると信じてやるしかないんです」
1年前の取材時にこう話した通り、いい意味で割り切った状態で1つ1つの試合に挑んでいる浅野。短時間で結果を出してくれるジョーカーは今後の最終予選を戦い抜くうえで必要不可欠だ。オーストラリア戦で4-3-3の新布陣を採用し、田中碧と守田英正をスタメンに抜擢したことで勝利をもぎ取った森保監督自身も、主軸以外を積極活用していくべきと再認識したに違いない。目下、大迫が負傷離脱していることもあり、11月に控えるベトナム、オマーンとのアウェー2連戦は快足アタッカーの重要性がさらに増すと見られる。それだけに、もっともっと調子を上げていくことが肝要だ。
10月代表2連戦の後、最初のボーフムでの公式戦となった16日のグロイター・フュルト戦では後半18分から出場。5分後には相手DFの背後に抜け出してフリーになるというこれ以上ないビッグチャンスを迎えながら、左足シュートをサイドネットに当ててしまった。本人は頭を抱えて悔しがったが、こういう決定機を確実に決められるようにならないと、真のエースにはなれない。
代表50ゴールという偉大な記録を持つ先輩の岡崎慎司を越えるべく、浅野拓磨にはクラブと代表の両方でゴール量産を期待したい。
取材・文=元川悦子
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