前半に布石を打ち、後半に仕留めた浦和…全2得点に絡んだ大久保智明「やり続けたからこその展開」
サッカーキング2023年10月21日(土)13時26分
全2得点に絡んだ大久保智明 [写真]=兼子愼一郎
浦和レッズの背番号21が、再びスターティングメンバーに戻ってきた。
大久保智明は9月2日に行われた明治安田生命J1リーグ第26節アルビレックス新潟戦で足を痛め、戦線を離脱した。この試合まで、大久保はJ1全26試合に出場。不動の地位を確立し、浦和の攻撃を彩ってきた。そこからおよそ1カ月半、10月15日に行われたJリーグYBCルヴァンカップ準決勝・第2戦の横浜F・マリノス戦でベンチ入りを果たすと、72分から出場して公式戦のピッチに帰還。迎えた20日開催のJ1第30節柏レイソル戦では、約1カ月半ぶりにスターティングメンバーに名を連ねた。
当初、大久保はマチェイ・スコルジャ監督より「後半スタートで行く」と告げられていたという。だが、2日前のセットプレー練習でスタメン組に名を連ねると、「(スタートから)どれくらい行けるのか見たい」と説明を受ける。大久保自身も先発出場に向けて準備を整えていた。
こうして迎えた柏戦、浦和は前半からボールを握りながらもゴールを脅かす場面を作ることができず、手を焼く時間が続いた。前半が終了した段階で、浦和のボール保持率は62%、ゴール期待値は0.31。攻撃の糸口を探りながらも、なかなか効果的に前進できず、試行錯誤しているように映った。
「持たされている」というネガティブな感覚を抱いてもおかしくないようにも見えたが、ピッチに立っている選手たちはポジティブだったようだ。「前半は(酒井)宏樹くんと(伊藤)敦樹と『崩れそうだね』と話していて」と大久保は明かしている。確かに危険なエリアでボールに触った回数、決定的なシュートの本数こそ少なかった。だが、自陣から丁寧にボールを繋ぎ、相手ブロックの隙を探ることをやめなかったことで、間違いなく柏の選手たちは消耗していた。浦和の右サイドの2列目に入った大久保は、自身と対峙する柏の左サイドバックを務めたジエゴについて「内側で高い位置を取っていてくれていた宏樹くんだけを見るような状況を作れていた」と言及すると、左サイドハーフの位置に入った小屋松知哉に関しては「すごく頑張れる選手ではありますが、あれだけ走ればどこかで続かない時間が来る」と話していた。一見上手くいっていないように見える前半から、布石は打たれていた。
そんなチームの取り組みは後半の立ち上がりに結実する。後半に入ると、徐々に柏のスライドが遅れ始め、浦和の選手たちが捕まえにくいスペースでボールを受けにいく場面が増加。そんな中で迎えた53分、右サイド開いた位置で酒井宏樹からのパスを受けた大久保がダイレクトで背後のスペースへ流し入れると、抜け出した安居海渡がペナルティエリア右に侵入。右足で放ったシュートはGK松本健太に阻まれたが、こぼれ球を小泉佳穂が押し込んだ。先制点のおよそ4分後には内側に絞って伊藤敦樹からのパスを引き出した大久保が、ターンして中央のスペースへ持ち運ぶと、小泉を経由してボールを受けた荻原拓也が左足で強烈な一撃を突き刺す。浦和は後半の早い時間帯に勝利を手繰り寄せる2ゴールを決め、復帰戦だった大久保個人としても、右サイドから2ゴールを演出して見せた。
特に1点目のシーンでは、右サイドに技巧派レフティーの選手を置くメリットが際立った。前半にも大外に開いた大久保から、内側を走る酒井を使う場面を作れており、大久保としても狙い通りの場面だったのだろう。「あれは敦樹がランニングしようとして止まってくれたのが大きいです。全員が敦樹を見てたので」とチームメイトを称えると、「相手も僕から敦樹の背後は分析していたとは思うのですが、その後ろから安居選手が走ってくれていました。色んな選手が関わったゴールかなと思います」と振り返った。
結局はこの2ゴールが勝負を分け、浦和がきっちりと白星を掴んだ。前半はなかなか決定的なシーンを作れなかったものの、一気に畳み掛けた後半の序盤について、大久保は「相手が疲れてきたのかなとは思います」と振り返ったが、それも間違いなく前半からの積み重ねがあったからこそだ。そこは大久保自身も大きな手応えを得ており「僕たちがやり続けてきたからこその、あのような展開」と胸を張った。
こうして自身の復帰戦を2-0の白星で飾った大久保には、結果にこだわらなければならない理由があった。「(現在のチームは)ある程度メンバーが固まっている中、僕がケガしている期間に出場機会がなかった選手もいます。そのような選手がいながらも、復帰した僕がすぐスタメンでした。責任感をより一層強く持たなければならないですし、今日は絶対に負けたくなかったです」。自身が欠場した期間、浦和が公式戦で黒星を喫したのはJリーグYBCルヴァンカップ準決勝・第1戦の横浜FM戦のみ。この試合も第2戦で逆転したことを考えると、“黒星”という表現は適切ではないかもしれない。決してチーム状況が悪くない中、「自分が入って上手くいかなくなったと言われるのも嫌でした」という思いもあった。結果的に2ゴールの起点となり、「数字も欲しかったですが、貢献できて良かったです」と笑顔を見せている。
これで浦和は勝ち点を「53」まで伸ばした。現時点で今節を消化していない2位の横浜FMとは勝ち点差「1」、首位ヴィッセル神戸とは勝ち点差「5」という状況。第32節では神戸との直接対決も残っているため、優勝を諦めるのはまだ早いだろう。タイトルレースに向けて「僕らは(上位陣を)焦らせることしかできないです」と語った大久保は「残り4試合に勝って、初めて何かが繋がる。追いかける方が気持ちは楽かなとも思っています」と目の前の一戦一戦に集中する姿勢を強調する。浦和“らしさ”を毎試合見せ続けた先には、長年待ち続けた景色が待っているかもしれない。
取材・文=榊原拓海
大久保智明は9月2日に行われた明治安田生命J1リーグ第26節アルビレックス新潟戦で足を痛め、戦線を離脱した。この試合まで、大久保はJ1全26試合に出場。不動の地位を確立し、浦和の攻撃を彩ってきた。そこからおよそ1カ月半、10月15日に行われたJリーグYBCルヴァンカップ準決勝・第2戦の横浜F・マリノス戦でベンチ入りを果たすと、72分から出場して公式戦のピッチに帰還。迎えた20日開催のJ1第30節柏レイソル戦では、約1カ月半ぶりにスターティングメンバーに名を連ねた。
当初、大久保はマチェイ・スコルジャ監督より「後半スタートで行く」と告げられていたという。だが、2日前のセットプレー練習でスタメン組に名を連ねると、「(スタートから)どれくらい行けるのか見たい」と説明を受ける。大久保自身も先発出場に向けて準備を整えていた。
こうして迎えた柏戦、浦和は前半からボールを握りながらもゴールを脅かす場面を作ることができず、手を焼く時間が続いた。前半が終了した段階で、浦和のボール保持率は62%、ゴール期待値は0.31。攻撃の糸口を探りながらも、なかなか効果的に前進できず、試行錯誤しているように映った。
「持たされている」というネガティブな感覚を抱いてもおかしくないようにも見えたが、ピッチに立っている選手たちはポジティブだったようだ。「前半は(酒井)宏樹くんと(伊藤)敦樹と『崩れそうだね』と話していて」と大久保は明かしている。確かに危険なエリアでボールに触った回数、決定的なシュートの本数こそ少なかった。だが、自陣から丁寧にボールを繋ぎ、相手ブロックの隙を探ることをやめなかったことで、間違いなく柏の選手たちは消耗していた。浦和の右サイドの2列目に入った大久保は、自身と対峙する柏の左サイドバックを務めたジエゴについて「内側で高い位置を取っていてくれていた宏樹くんだけを見るような状況を作れていた」と言及すると、左サイドハーフの位置に入った小屋松知哉に関しては「すごく頑張れる選手ではありますが、あれだけ走ればどこかで続かない時間が来る」と話していた。一見上手くいっていないように見える前半から、布石は打たれていた。
そんなチームの取り組みは後半の立ち上がりに結実する。後半に入ると、徐々に柏のスライドが遅れ始め、浦和の選手たちが捕まえにくいスペースでボールを受けにいく場面が増加。そんな中で迎えた53分、右サイド開いた位置で酒井宏樹からのパスを受けた大久保がダイレクトで背後のスペースへ流し入れると、抜け出した安居海渡がペナルティエリア右に侵入。右足で放ったシュートはGK松本健太に阻まれたが、こぼれ球を小泉佳穂が押し込んだ。先制点のおよそ4分後には内側に絞って伊藤敦樹からのパスを引き出した大久保が、ターンして中央のスペースへ持ち運ぶと、小泉を経由してボールを受けた荻原拓也が左足で強烈な一撃を突き刺す。浦和は後半の早い時間帯に勝利を手繰り寄せる2ゴールを決め、復帰戦だった大久保個人としても、右サイドから2ゴールを演出して見せた。
特に1点目のシーンでは、右サイドに技巧派レフティーの選手を置くメリットが際立った。前半にも大外に開いた大久保から、内側を走る酒井を使う場面を作れており、大久保としても狙い通りの場面だったのだろう。「あれは敦樹がランニングしようとして止まってくれたのが大きいです。全員が敦樹を見てたので」とチームメイトを称えると、「相手も僕から敦樹の背後は分析していたとは思うのですが、その後ろから安居選手が走ってくれていました。色んな選手が関わったゴールかなと思います」と振り返った。
結局はこの2ゴールが勝負を分け、浦和がきっちりと白星を掴んだ。前半はなかなか決定的なシーンを作れなかったものの、一気に畳み掛けた後半の序盤について、大久保は「相手が疲れてきたのかなとは思います」と振り返ったが、それも間違いなく前半からの積み重ねがあったからこそだ。そこは大久保自身も大きな手応えを得ており「僕たちがやり続けてきたからこその、あのような展開」と胸を張った。
こうして自身の復帰戦を2-0の白星で飾った大久保には、結果にこだわらなければならない理由があった。「(現在のチームは)ある程度メンバーが固まっている中、僕がケガしている期間に出場機会がなかった選手もいます。そのような選手がいながらも、復帰した僕がすぐスタメンでした。責任感をより一層強く持たなければならないですし、今日は絶対に負けたくなかったです」。自身が欠場した期間、浦和が公式戦で黒星を喫したのはJリーグYBCルヴァンカップ準決勝・第1戦の横浜FM戦のみ。この試合も第2戦で逆転したことを考えると、“黒星”という表現は適切ではないかもしれない。決してチーム状況が悪くない中、「自分が入って上手くいかなくなったと言われるのも嫌でした」という思いもあった。結果的に2ゴールの起点となり、「数字も欲しかったですが、貢献できて良かったです」と笑顔を見せている。
これで浦和は勝ち点を「53」まで伸ばした。現時点で今節を消化していない2位の横浜FMとは勝ち点差「1」、首位ヴィッセル神戸とは勝ち点差「5」という状況。第32節では神戸との直接対決も残っているため、優勝を諦めるのはまだ早いだろう。タイトルレースに向けて「僕らは(上位陣を)焦らせることしかできないです」と語った大久保は「残り4試合に勝って、初めて何かが繋がる。追いかける方が気持ちは楽かなとも思っています」と目の前の一戦一戦に集中する姿勢を強調する。浦和“らしさ”を毎試合見せ続けた先には、長年待ち続けた景色が待っているかもしれない。
取材・文=榊原拓海
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