「タイヤが悲鳴をあげるのが申し訳ない」“100kg組”のアプローチと決勝への展望/第6戦GT300予選分析
今季からの新スポーティングレギュレーションにより、この第6戦までウエイトハンデが“ポイント×3kg”となるGT300クラスでは、ランキング上位5台がハンデウエイト上限の100kgを積む“未知なる鈴鹿戦”を迎えた。
前戦富士でもすでに3台のマシンが100kgに到達。JAF-GT勢はウエイト搭載位置も考慮した車づくりができるが、FIA GT3勢ではそのほとんどを助手席スペースに積まざるを得ないマシンもあり「(100kgを積んだ前戦富士では)ストレートを走っていても、マシンが右に持って行かれてしまう」(LEON PYRAMID AMG溝田唯司エンジニア)など、BoPウエイトも含めた車重は「設計限界」を超えようかというなかで“シーズン最重量ラウンド”の鈴鹿を迎えた形である。
加えて、中高速コーナーの多い鈴鹿はウエイト感度が大きなトラックということもあり、さすがに今回こそは上位陣の苦戦が予想された。だが、予選を終わってみればランキングトップのLEON PYRAMID AMGこそQ1落ちを喫したものの、その他4台の“100kg組”はQ2へと進出、決勝でも上位フィニッシュを充分狙える位置につけて土曜日を終えるという、驚きの結果が待っていた。
最初の驚きは、走り出しの公式練習からトップタイムをマークしたSUBARU BRZ R&D SPORTだった。BRZは勢いそのままに、午後の予選でも2番手を獲得する。さらに“100kg組”からはGAINER TANAX GT-Rも5番手に飛び込み、PPのK-tunes RC F GT3を含めダンロップ勢は3台すべてがトップ5に入ることとなった。
前戦富士でもレポートしたように、昨年最終戦に投入した構造をヒントに開発した2020年仕様で飛躍的にポテンシャルを上げた“ダンロップ・パワー”が、第3戦でも優勝を飾っているここ鈴鹿で再度炸裂しているのは間違いない。
ただ、タイヤだけでなく“重量対策”を地道に積み上げたきたチームの努力が結実した結果でもある。
「物理的に言えば、重くなった分をカバーすることはできません」と語るのは、SUBARU BRZ R&D SPORTの渋谷真総監督だ。
「ただ、ばね上の動きが大きいとか“もっさりしている”といった、ドライバーのフィーリングをいかに改善してあげるか。もちろん重くなった分、ばねレートを上げるとか、ロールセンターを変更したりとかはしています」
「また、空力的にはここ(鈴鹿)はダウンフォースしかないので、ほかが多少犠牲になっても、ダウンフォース重視のセットアップにしています」
また、決勝に向けてもダウンフォース重視のセットアップを変えるつもりはないという。
「富士とは違いますので、コーナーで多少(後続を)離せていれば、直線でも抜かれることはないだろうと思っています」
前戦富士から100kgを積んだGAINER TANAX GT-Rは、富士では“リヤを守る”セットアップが決勝で裏目に出たという。その反省を活かし、ここ鈴鹿では走り出しから「より曲がる方向」のセットアップを試していた。
それが狙いどおりの方向に働き、戦前は10〜12番手付近と予想していたポジションは、予選では5番手に。ただし「ロングランではタイヤにきつくなると思うので、決勝は走ってみなければ分かりません」と福田洋介エンジニア。
「決勝前の20分(ウォームアップ走行)で試せることをやってみて、場合によってはグリッドでもバタバタしているかもしれません」と決勝日を予測する。
同じダンロップを履くSUBARU BRZ R&D SPORTについて福田エンジニアは、「向こうの方が車重は軽いので、ロングランのラップは落ちないはず。タイヤの状態が良ければ、後半にベストタイムが出たりすることもあるでしょうね」と、同じ道具を使うライバルを警戒している。
■NSX GT3に現れた『初めての症状』
ダンロップ勢の2台に続き「100kg組」のなかで3番手(予選7番手)のポジションを得たのは、ブリヂストンタイヤを装着するARTA NSX-GT3である。
「ぶっちゃけ、鈴鹿の100kgはない(勝負にならない)と思ってたんです。でも、走り出しから2種類のタイヤどちらを履いてもフィーリングが悪くなかった」と語るのは高木真一。
「ただ、重さは感じます。横方向に荷重をかけたときに、タイヤが悲鳴を上げるのがすごく申し訳ないな、と。あと、ブレーキも全然止まらなくなった。予選一発は、タイヤのおかげでなんとか行けるのかなという感じです」
未知なる車重に対応するなかでは、これまでに発生していない状況にも陥った。NSX GT3ではそれまで問題になることがなかった「トラクションが悪い」という症状だ。
「結局、ロールを抑えようとすると、スプリングとかダンパーがだんだん硬い方向になっていく。それがトラクション側で邪魔になるんだな、ということが今回分かりました」
決勝に向けては、タイヤのウォームアップと、中古タイヤでのトラクション大きな改善点だというが、そこへの対策はなんとなく見えているようだ。
「同じ100kgを積んでいるダンロップの2台がソフト系のタイヤで前に行っているとしたら、安定したNSXがじわじわと戦って、彼らの前でゴールできたら面白いかな」という高木のコメントからは、決勝への自信もかすかにうかがえる。
タイヤへの負担も大きい鈴鹿で、“超ヘビー級”の彼らはペースを維持できるのか? 重量だけに目を向ければ最低車重自体が軽いBRZが、タイヤの負担という面からも有利に思えなくはないが、ハード系のタイヤを選んでいると予想されるブリヂストンのコンスタントラップも大きな武器となる可能性がある。
決勝では、タイトル争いの行方も大きく左右するであろう“100kg組”のラップペースから目が離せなくなりそうだ。
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