【コラム】HSVを支える“日本人コンビ”…新星・伊藤達哉、飛躍の影に酒井高徳の存在あり
サッカーキング2017年10月28日(土)18時1分
HSVに所属する酒井高徳(左)と伊藤達哉 [写真]=Bongarts/Getty Images
10月21日にホーム・フォルクスパルクシュタディオンで行われたバイエルン戦。0-1のビハインドを背負った76分、ハンブルガーSV(HSV)に所属する166センチの小柄な日本人アタッカー・伊藤達哉がピッチに立った。
9月24日のレヴァークーゼン戦でセンセーショナルなブンデスリーガデビューを飾った背番号43は、卓越したドリブルスキルを武器に相手陣内へと攻め込む。登場からわずか1分後には日本代表DF酒井高徳との右サイドでの絡みからゴールライン付近まで入り込んでクロスを上げ、83分には左サイドでの縦への仕掛けでチャンスを作った。
「あの状況でああいうドリブラーが出て来るのは、相手にとっても嫌だったと思う。さすがにバイエルン相手だったんで、(マルクス・ギスドル)監督もリスクを負うのはちょっと……。と、思ってるところがあったと思うし、それでタツが途中出場になったんでしょう」と酒井は伊藤の起用意図と効果を代弁していた。が、この一挙手一投足にHSVサポーターは少なからず希望を抱いた様子。試合は惜しくも敗れ、9試合終わって勝ち点7の16位と再び2部降格ゾーン一歩手前に落ちてしまったが、伊藤が何かを変えてくれるかもしれないという雰囲気が今のチームにはある。
期待の高まりを象徴するかのように、24日の午前練習には数多くのサポーターがグラウンドに集結。伊藤に群がってサインや写真を求めていた。小雨の降るあいにくの天候だったが、彼は一人ひとりに懇切丁寧に対応し、ガードマンに「門を閉めるぞ」と言われても、ファサービスをやめようとはしなかった。その実直な人柄は瞬く間にチーム全体に受け入れられたようだ。
「彼はドイツ語も喋ってるし、もうすっかり馴染んでますよ。プレーで見せたってのもあるし、僕が何もしなくても十分やれている」と酒井は太鼓判を押す。それでも、伊藤にとってはブンデス7シーズン目を迎える6つ年上の先輩の存在は心強いはず。酒井自身もサポートに意識を強く持っていて、練習中に話しかけたり、フォローしたりと、さまざまなアプローチをしているようだ。
「高徳くんが先輩だったら頼もしい? そう言ってもらえると嬉しいですけどね(笑)。自分が岡崎さん(慎司/レスター)に世話してもらった経験があったんで、後輩ができたら面倒見るのは当たり前なんで。岡崎さんも特に何かしなくても一緒にいてくれて、会話してくれるだけで助かった。年下の選手にとっては近くに同じ日本人選手がいることだけで助かることが多いと思います」
HSVのキャプテンマークを巻く男は2012年1月に移籍したシュトゥットガルト時代に共闘体制を取ってくれた先輩・岡崎に思いを馳せた。確かに当時の2人は、全体練習後にクロス&シュートの練習を居残りでやったり、お互いに足りない部分をピッチ上で指摘し合うといったことを日常的に行っていた。もちろんオフ・ザ・ピッチでも助け合っていた。岡崎のフレンドリーな性格がどれだけ酒井の支えになったか分からない。その経験があるから、伊藤に何をすればいいかよく分かっている。そういう関係を築くことは、お互いにとっても、HSVにとってもプラス要素と言っていいだろう。
「僕自身、タツには期待してるけど、あまり本人には期待を感じさせないように、もっと自由にやれるようにサポートしてあげたいですね。こうやって注目されてくると、本来のプレーをするのが難しくなる選手が多い中、彼が自分自身を維持させるためにも、一緒にいて声をかけてあげるだけでも大きいのかなと。
ただ、勘違いしてほしくないのは、別に何かを教えているわけではないということ。彼の最近4試合の活躍は僕のものでも何でもないし、彼自身の活躍なんで」と酒井は進境著しい若手に素直に敬意を表していた。
伊藤が先発した9月30日のブレーメン戦、10月14日のマインツ戦では、酒井が左サイドバック、伊藤が左サイドアタッカーという縦関係を形成した。意思疎通がスムーズな分、お互いの良さを引き出しあえるチャンスも多くなりそうな雰囲気は漂った。バイエルン戦で伊藤が後半途中から出た際も前述の通り、2人の連携からチャンスが生まれている。こうしたいいコンビネーションをギスドル監督も前向きに評価しているに違いない。
その一方で、バイエルン戦の酒井は今シーズン初めてボランチで出場。パートナーだったギオテン・ユングが一発退場を食らったことから、28日の次戦ヘルタ・ベルリン戦も引き続き、ボランチで出ることになりそうだ。そうなると、サイドを主戦場とする伊藤が出る場合には縦関係ではなくなるが、酒井がパス出しや組み立ての部分で力を発揮する場面が増えるため、伊藤も自身の持つドリブルやシュートといった攻めの引き出しをより多く出せる。結果として攻めのバリエーションも増えるのではないだろうか。
こうして2人が同じピッチに立つ時間を増やし、「阿吽の呼吸」でプレーできるようになれば、HSV浮上の起爆剤になる可能性は高い。本当にそうなってくれれば、日本サッカー界にとっても朗報だ。
「今の16位という順位は良くはないけど、自分たちの戦いを続けるしかないんで。まだ先は長いし、去年もいろいろ起きたんで、どんな可能性もあるというのは分かってます。そういう経験をした分、今の状態は大したことはないのかなと感じる。ここから少しでも順位を上げられるように、地道に頑張っていくだけだと思います」
神妙な面持ちでこう語るキャプテン・酒井の思いは、20歳の伊藤にも共通するはずだ。HSV初の日本人コンビにとって、ここからが本当の戦い。彼らがチームを窮地から救い出し、躍進へと向かわせる原動力になってくれれば最高だ。
文=元川悦子
9月24日のレヴァークーゼン戦でセンセーショナルなブンデスリーガデビューを飾った背番号43は、卓越したドリブルスキルを武器に相手陣内へと攻め込む。登場からわずか1分後には日本代表DF酒井高徳との右サイドでの絡みからゴールライン付近まで入り込んでクロスを上げ、83分には左サイドでの縦への仕掛けでチャンスを作った。
「あの状況でああいうドリブラーが出て来るのは、相手にとっても嫌だったと思う。さすがにバイエルン相手だったんで、(マルクス・ギスドル)監督もリスクを負うのはちょっと……。と、思ってるところがあったと思うし、それでタツが途中出場になったんでしょう」と酒井は伊藤の起用意図と効果を代弁していた。が、この一挙手一投足にHSVサポーターは少なからず希望を抱いた様子。試合は惜しくも敗れ、9試合終わって勝ち点7の16位と再び2部降格ゾーン一歩手前に落ちてしまったが、伊藤が何かを変えてくれるかもしれないという雰囲気が今のチームにはある。
期待の高まりを象徴するかのように、24日の午前練習には数多くのサポーターがグラウンドに集結。伊藤に群がってサインや写真を求めていた。小雨の降るあいにくの天候だったが、彼は一人ひとりに懇切丁寧に対応し、ガードマンに「門を閉めるぞ」と言われても、ファサービスをやめようとはしなかった。その実直な人柄は瞬く間にチーム全体に受け入れられたようだ。
「彼はドイツ語も喋ってるし、もうすっかり馴染んでますよ。プレーで見せたってのもあるし、僕が何もしなくても十分やれている」と酒井は太鼓判を押す。それでも、伊藤にとってはブンデス7シーズン目を迎える6つ年上の先輩の存在は心強いはず。酒井自身もサポートに意識を強く持っていて、練習中に話しかけたり、フォローしたりと、さまざまなアプローチをしているようだ。
「高徳くんが先輩だったら頼もしい? そう言ってもらえると嬉しいですけどね(笑)。自分が岡崎さん(慎司/レスター)に世話してもらった経験があったんで、後輩ができたら面倒見るのは当たり前なんで。岡崎さんも特に何かしなくても一緒にいてくれて、会話してくれるだけで助かった。年下の選手にとっては近くに同じ日本人選手がいることだけで助かることが多いと思います」
HSVのキャプテンマークを巻く男は2012年1月に移籍したシュトゥットガルト時代に共闘体制を取ってくれた先輩・岡崎に思いを馳せた。確かに当時の2人は、全体練習後にクロス&シュートの練習を居残りでやったり、お互いに足りない部分をピッチ上で指摘し合うといったことを日常的に行っていた。もちろんオフ・ザ・ピッチでも助け合っていた。岡崎のフレンドリーな性格がどれだけ酒井の支えになったか分からない。その経験があるから、伊藤に何をすればいいかよく分かっている。そういう関係を築くことは、お互いにとっても、HSVにとってもプラス要素と言っていいだろう。
「僕自身、タツには期待してるけど、あまり本人には期待を感じさせないように、もっと自由にやれるようにサポートしてあげたいですね。こうやって注目されてくると、本来のプレーをするのが難しくなる選手が多い中、彼が自分自身を維持させるためにも、一緒にいて声をかけてあげるだけでも大きいのかなと。
ただ、勘違いしてほしくないのは、別に何かを教えているわけではないということ。彼の最近4試合の活躍は僕のものでも何でもないし、彼自身の活躍なんで」と酒井は進境著しい若手に素直に敬意を表していた。
伊藤が先発した9月30日のブレーメン戦、10月14日のマインツ戦では、酒井が左サイドバック、伊藤が左サイドアタッカーという縦関係を形成した。意思疎通がスムーズな分、お互いの良さを引き出しあえるチャンスも多くなりそうな雰囲気は漂った。バイエルン戦で伊藤が後半途中から出た際も前述の通り、2人の連携からチャンスが生まれている。こうしたいいコンビネーションをギスドル監督も前向きに評価しているに違いない。
その一方で、バイエルン戦の酒井は今シーズン初めてボランチで出場。パートナーだったギオテン・ユングが一発退場を食らったことから、28日の次戦ヘルタ・ベルリン戦も引き続き、ボランチで出ることになりそうだ。そうなると、サイドを主戦場とする伊藤が出る場合には縦関係ではなくなるが、酒井がパス出しや組み立ての部分で力を発揮する場面が増えるため、伊藤も自身の持つドリブルやシュートといった攻めの引き出しをより多く出せる。結果として攻めのバリエーションも増えるのではないだろうか。
こうして2人が同じピッチに立つ時間を増やし、「阿吽の呼吸」でプレーできるようになれば、HSV浮上の起爆剤になる可能性は高い。本当にそうなってくれれば、日本サッカー界にとっても朗報だ。
「今の16位という順位は良くはないけど、自分たちの戦いを続けるしかないんで。まだ先は長いし、去年もいろいろ起きたんで、どんな可能性もあるというのは分かってます。そういう経験をした分、今の状態は大したことはないのかなと感じる。ここから少しでも順位を上げられるように、地道に頑張っていくだけだと思います」
神妙な面持ちでこう語るキャプテン・酒井の思いは、20歳の伊藤にも共通するはずだ。HSV初の日本人コンビにとって、ここからが本当の戦い。彼らがチームを窮地から救い出し、躍進へと向かわせる原動力になってくれれば最高だ。
文=元川悦子
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