「落ち込みました」鈴鹿のクラッシュから一転、久保が“結果”を残す【第7戦もてぎGT300予選】
11月7日、栃木県のツインリンクもてぎで行われたスーパーGT第7戦もてぎ。13時30分から行われた公式予選では、今季から参戦を開始したたかのこの湯 RC F GT3がチーム最上位となる予選2番手を獲得した。そのQ2のアタッカーを務めたのは、第6戦鈴鹿の公式練習でクラッシュしたときにステアリングを握っていた、久保凜太郎だった。
10月24日、スーパーGT第6戦鈴鹿の公式練習。レクサスRC F GT3が得意とする鈴鹿で、レース前から気合が入っていた久保がドライブしていたたかのこの湯 RC F GT3が、日立オートモティブシステムズシケインのアウト側のスポンジバリアに激しくクラッシュした。久保に怪我はなかったが、たかのこの湯 RC F GT3はマシンに大きくダメージを受けてしまった。シケインへアプローチする際に、ブレーキに“ノックバック”の症状が出たとみられ、ブレーキが利かず、前をいくADVICS muta 86MCへの追突を回避しようとしたためだった。
この症状はブレーキングの前にドライバーが軽くブレーキペダルを何度か踏むことで回避することが可能だという。この鈴鹿では、決勝レース時にModulo KENWOOD NSX GT3の道上龍が同じ症状に見舞われていた。ただ、こういったレーシングカーで起きることはまれだという。久保を責めることはできないが、それでも「落ち込みました。責任を感じるところはありました」と久保はクラッシュを振り返った。
「それに、単独でのクラッシュは7年ぶりなんです。フォーミュラを始めたときくらいで、その時も全損ではなかった。全損は初めてで、すごくショックだったんです。そういう“行くところ”とか“行かないところ”はみんなフォーミュラで学ぶというのですが、フォーミュラは2年しかやっていませんから……。とにかく、非常に落ち込みました」
■「どこか怖かった」久保。一方でRC Fは好調
もてぎに向け、チームはトヨタの協力を得て、イベント用に用意されていたレクサスRC F GT3を“借りる”かたちでもてぎへの参戦が実現した。「たくさんの人たちの力と、オーナーの力のおかげで出られることになりましたが、それでもすごい金額はかかっていますから。クルマがきて、レースに出られることになり、『やらなきゃ』と思ってはいましたが、その『やらなきゃ』と思っていたのは鈴鹿も同じで、そこでクラッシュしてしまった」
そんなたかのこの湯 RC F GT3だが、第7戦もてぎは公式練習の走り出しからチームメイトの三宅淳詞は好調。そして、いよいよ久保に交代することになる。しかし、やはりレーシングドライバーとはいえ“恐怖心”があったという。
「アウトラップでは、なかなかブレーキを強く踏めなかったんです。どこか怖かったんです」と久保は言う。
“ノックバック”は縁石に乗った後等に発生するというが、「『さっき縁石乗ったよな……』とかよぎるんです。同じミスはしてはいけないので、たくさんダブって(ペダルを何度か踏むこと)、気をつけながらいきました」
しかし一方で、久保は「めちゃくちゃクルマの調子が良い!」と驚いたという。鈴鹿までのたかのこの湯 RC F GT3と個体差はそれほどないというが、今シーズンこれまでMax Racingが積み重ねてきたデータが活きていることが大きいという。
「今季、新型コロナウイルスの影響もあって同じコースを何度も走りますよね。だから参戦1年目のチームにとってはデータがとりやすいし、同じトライができる。持ち込みのセットアップもブラッシュアップできるので、良い方向にいっていると感じました」
■背中を押した田中哲也監督&土屋武士代表のことば
迎えた公式予選。三宅は他車に引っかかってしまったものの、Q1を突破しQ2の久保に繋ぐ。とはいえ、公式練習では久保自身のベストタイムは1分28秒台。ユーズドタイヤしか履いていないが、予選トップの1分26秒台という世界はなかなか見えてこない。
久保はひたすら三宅のオンボード映像を見返し、そして田中哲也監督、つちやエンジニアリングの土屋武士代表が背中を押した。「お前は思いきりやるだけだから」と。久保は「純粋に速さを追求しよう」と、三宅よりも1周多くウォームアップに費やし、万全の準備を整えアタックを展開。見事1分46秒430というタイムを記録し、2番手という自身最高位を更新してみせた。
「終わった後は、嬉しかった……というのはあまりないですね」と久保は振り返った。
「ホッとした、の方が大きいです。『はぁ〜、良かった』という感じ。僕たちは結果でしか恩が返せませんからね。ちょっとだけ結果で返すことができました」
第6戦鈴鹿の直前、久保にはプライベートで嬉しい出来事があった。待望の第一子が生まれたのだ。しかしその後、鈴鹿でのクラッシュがあり、ピレリスーパー耐久シリーズの岡山ラウンドでは、今季好調だったにも関わらず、表彰台を逃す結果となってしまっていた。久保のSNSには、心ない言葉が届くこともあったという。
「『子どもが生まれた途端に運がなくなったね』とか。可愛い赤ちゃん産まれたのに! だから、息子のためにも嬉しい2番手でした。『パパ、ひとつ結果残せたよ』って(笑)」
もちろんレースでも結果を残すことができれば、久保にとっては最高の週末にもなる。しかし、レクサスRC F GT3にとってもてぎはそこまで得意なコースではない。また、車両交換によるペナルティがありそうだ。
「もちろんこのチャンスは逃したくないですが、何よりチームにとってはまだポイントが獲れていないので、ポイントが欲しいですね。それも10位とかではなく、なるべく大きいポイントが欲しいです」と久保は語ると、翌日の決勝に向け、たかのこの湯 RC F GT3を磨きにピットへ戻っていった。
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