攻めのフェルスタッペンが状況を一変。今季9勝目はホンダの個人年間最多勝記録/F1第18戦
標高2200mの高地で行われる2021年F1第18戦メキシコGPは、レッドブル・ホンダ有利、メルセデス苦戦というのがレース前の予想だった。
メキシコシティの空気密度は、平地より25%以上低い。そのためダウンフォースが発生しづらく、コーナリングが厳しい。さらにタイヤや、ブレーキ、パワーユニット(PU)も、空気が薄いために冷えにくい。絶対的ダウンフォース量とPUの冷却効率で相対的に優れるレッドブル・ホンダが、有利とされるゆえんだ。
フリー走行は予想どおりの展開となった。とくに予選直前のFP3では最速セルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)がルイス・ハミルトン(メルセデス)にコンマ6秒以上の大差をつけた。ところが予選で状況は一変した。メルセデスが突如速くなったのだ。
その傾向はQ3で顕著で、メルセデスがフロントロウを独占。3、4番手に沈んだマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)、ペレスは、ポールポジションのバルテリ・ボッタス(メルセデス)に0.35〜0.46秒差をつけられた。
なぜレッドブル・ホンダは予選で失速したのか。ひとつの理由は路面温度が45℃以上に上がった状況に、ソフトタイヤのコンディションをうまく合わせられなかったというものだ。実際フェルスタッペンの予選3セッションでのベストラップは、ミディアムタイヤによるものだった。
そしてもうひとつが、トルコGPで話題となったリヤの車高を下げて最高速を上げるメルセデスのデバイスである。ごく簡単に説明すれば、リヤの車高調整を担うサードダンパーを一定速度に達した際にストールさせることで、車高を下げる仕組みだ。レッドブルのあるエンジニアは、「彼らはQ3になって、これを使ったのだと思う」と推測している。
空気の薄いメキシコGPでは、DRSやスリップストリームが効きにくく、さらに先行車両に接近するとすぐにクーリングに問題が出るため、オーバーテイクは意外に難しい。3番グリッドのフェルスタッペンが優勝を狙うには、レース後に本人が語ったように、「スタートで前に出る」しかなかった。
スタートを決めたフェルスタッペンは、800m以上のストレートを駆け抜けるあいだにハミルトン、ボッタスと3ワイドに並ぶと、ブレーキングをぎりぎりまで遅らせ、アウト側から2台を抜き去っていった。インベタで走ることを余儀なくされたハミルトンは、「バルテリはマックスへのスペースを開けっぱなしだった」と不平を漏らした。しかしここは一瞬の隙を逃さず一気に間合いを詰め、絶妙のブレーキングを成功させたフェルスタッペンのうまさを評価すべきだろう。
直後にボッタスはダニエル・リカルド(マクラーレン)に追突されてスピン。最後尾まで後退し、ハミルトンは孤立無援で2台のレッドブルと戦うことになった。
そこからのハミルトンは予選の速さが嘘のようにレースペースに手こずり、フェルスタッペンからあっという間に離され、3番手ペレスに猛追される格好に。ロングラン中のメルセデスは、ミディアムとハードの両方で、すぐに熱ダレが起きてしまうためだった。
こうしてフェルスタッペンはハミルトンに16秒以上の大差をつけて、今季9勝目をマーク。タイトル争いでも19点までギャップを広げた。さらにペレスも3戦連続3位表彰台と、2台の歯車がかみ合ってきたことで、ついにコンストラクターズ選手権でもメルセデスの1点差まで迫った。
だが、もしもスタートでトップに立てなかったら、勝機はなかったのだろうか。「2台のメルセデスに割って入れれば」というのがチームの目標だったと、ホンダの山本雅史マネージングディレクターは語る。
「そうすればアメリカGP同様、アンダーカットで前にいけた。それだけのペースはあったということです」
フェルスタッペンはそんなチームの期待以上の仕事をこなし、1988年にアイルトン・セナが挙げた年間8勝の最多記録をしのぐ9勝目をホンダにプレゼントしたのだった。
※この記事は本誌『オートスポーツ』No.1564(2021年11月12日発売号)からの転載です。
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