なぜトヨタやホンダの新車は「アイドリングストップ不採用」なのか…メーカーが燃費より重視すること【2023編集部セレクション】

2024年5月3日(金)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rattankun Thongbun

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2023年下半期(7月〜12月)にプレジデントオンラインで配信した人気記事から、いま読み直したい「編集部セレクション」をお届けします——。(初公開日:2023年9月21日)
アイドリングストップ機能を不採用とする新車が増えている。モータージャーナリストの鈴木ケンイチさんは「15秒以上の停車時間がないと、アイドリングストップによる燃費向上の効果は期待できない。それよりも、各社は『より安くてフィーリングの良いクルマづくり』を目指すようになっている」という——。

■ガソリン高騰時代、燃費をどう良くするか


ガソリン価格の高騰が止まりません。


資源エネルギー庁が発表する「石油製品価格調査」を見ると、2023年8月28日時点ではガソリン価格(レギュラー)は185.6円になり、これまでの最高である2008年8月の185.1円を突破して過去最高に。9月4日時点ではさらに高騰し、ガソリン価格は186.5円にまで記録を更新しました。


政府は、2023年9月末までとしていたガソリン価格抑制のための補助金を12月末までに延長しましたが、ガソリン価格の高騰は、まだまだ予断を許さない状況が続きそうです。


そこで考えるのは、クルマの燃費向上でしょう。


クルマの燃費を良くする方法はいくつもあります。たとえば、ふんわりとアクセルを踏む燃費の良い運転の実施もありますし、不要な荷物を降ろしてクルマを軽くするだけでも、燃費は向上します。ラゲッジルームにキャンプ道具を積みっぱなしにしている人は、大急ぎで荷物を降ろすべきでしょう。


■2010年代に普及が進んだアイドリングストップ


そして、自動車メーカーによる燃費向上のひとつが「アイドリングストップ」という技術であり機能です。


これは、信号などで一時停止して、エンジン回転がアイドリング(低回転)になると、自動でエンジンを停止するというもの。クルマが停止しているのにエンジンを動かすなんて、燃料の無駄! という考えを実現した技術です。


写真=iStock.com/Rattankun Thongbun
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rattankun Thongbun

そのアイデアは古く、1981年のトヨタのコンパクトカー「スターレット」にも採用されています。ただし、昭和の時代は燃費に対する要求がそれほど高くなかったためか、アイドリングストップが普及することはありませんでした。


現実的なアイドリングストップの普及は、ハイブリッドカーが登場して、燃費競争が激化した2010年代以降に進んでいきました。ハイブリッドカーは当然のこと、エンジン車の多くにアイドリングストップが採用されていきます。スポーツカーであるマツダの「ロードスター」にさえ、アイドリングストップはオプション扱いですが用意されていました。


■ほとんどのクルマが採用するようになったが…


ちなみに、ハイブリッドカーは、エンジンとモーターという2つの動力源を持っています。その2つの動力源は、それぞれ特性が異なっています。エンジンは低回転で力が出にくく、回転数が増えるほど力が出ます。一方、モーターは低回転で力が出ますが、高回転は苦手。そのためハイブリッドカーは、停車したらエンジンを止めて、発進は低回転の得意なモーターに任せるという方法を採用しています。


ですからハイブリッドカーは、基本的にアイドリングストップを行います。ただし、バッテリーの電気の残量が少ないときは、エンジンを動かしっぱなしにするため、アイドリングストップを行いません。


そして、アイドリングストップを実施すると、確実にクルマの燃費性能は向上します。そのため、最近では、ほとんどのクルマが採用するようになりました。


しかし、アイドリングストップにも弱点があります。


写真=iStock.com/D. Lentz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D. Lentz

■エンジンの再始動に運転手はイライラ


まず、燃費削減になる条件が意外と厳しいということです。一般的には15秒以上の停車時間がないと、燃費向上の効果が期待できないとされているのです。5秒や10秒の停止ではアイドリングストップをやってもやらなくても燃費は変わりません。


また、再始動に時間がかかり、しかも再始動時にブルブルと振動が発生します。そして、何度もエンジン始動を繰り返すため、負荷がかかるバッテリーには高い性能が求められます。燃費向上によってコストが減るどころか、むしろコスト増となってしまうのです。


さらに使い勝手面でも不利。信号での停止ならまだしも、右折しようと停止した時には困りものです。止まったエンジンを再始動させる時間は、アイドリングストップの普及と共に、だんだんと早くなっています。それでも、再始動にかかる時間はゼロにはなりません。


右折しようと、対向車の切れるタイミングを見計らっているときに、すぐに発進できないというのは、正直、ストレスになります。渋滞も同様です。特に、止まったり進んだりという、ノロノロとした渋滞で、いちいちアイドリングストップが働くと、渋滞のクルマの流れにあわせにくくなります。


■クルマの進化により「メリット<デメリット」


そして、新しく導入された燃費測定方法も、アイドリングストップには逆風となりました。燃費を測定する方法は、2017年より日本独自のJC08モードから、世界的なWLTCモードに変わっています。新しい測定方法では、より高速域での走行モードが増えていたこともあり、信号で止まるときの燃費悪化が、カタログ数値に出にくくなっているのです。


もちろん、いろいろと弱点はありますが、それでもアイドリングストップがあれば、カタログ燃費は向上します。ただし、その一方で、フィーリングやコストなどのネガティブな部分が存在しているのです。


しかも、エンジンなどが進化して効率が高まれば、相対的にアイドリングストップでの上乗せは小さくなってしまいます。つまり、クルマが進化するほどに、アイドリングストップのメリットが小さくなり、デメリットばかりが目立つようになってしまっているのです。


■人気モデルはアイドリングストップ「不採用」


そうしたアイドリングストップへの逆風もあってか、最近になって、アイドリングストップ機能を採用しないクルマが増えています。トヨタの「ヤリス」「ノア/ヴォクシー」「シエンタ」、さらにホンダで言えば「フィット」。どれも各メーカーを代表するような人気モデルばかりです。


実際に、アイドリングストップを不採用とした最新のクルマたちは、どれも非常に燃費性能が優れています。「ヤリス」のエンジン車は、なんと21.6km/L(WLTCモード)もの燃費性能を誇ります。ハイブリッドではなく、普通のエンジン車で20km/Lを超えてしまっているのです。また、ミニバンの「ノア/ヴォクシー」でも15.0km/L(WLTCモード)を達成しています。


カタログ燃費の測定方法は、10・15モードからJC08モード、WLTCモードと新しくなるたびに、内容が厳しくなっています。それでも、コンパクトカーで20km/Lを、ミニバンで10km/Lを超えるというのは、相当に優秀な燃費性能と言っていいでしょう。


もともと燃費性能に優れているのですから、無理にアイドリングストップ機能を付ける必要がないとも言えるでしょう。燃費をほんの少し上げるために、アイドリングストップを付けるよりも、装備せずに、安くてフィーリングの良いクルマにしようというわけです。


■燃費向上という役割を終え、淘汰される時代に


また、アイドリングストップが減る要因としてハイブリッドカーの増加も挙げられます。実のところ、今、日本で販売される新車の約半分がハイブリッドカーになっています。2022年1〜12月の乗用車の燃料別販売台数(一般社団法人日本自動車販売協会連合会 調べ)によると、ガソリン・エンジン車の販売比率は42.3%。一方、ハイブリッドカーは49%にもなります。


また、電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッドカー(PHEV)はあわせて3.1%、ディーゼル車が5.6%。つまり、ガソリンとディーゼルのエンジン車が47.9%、ハイブリッドと電気自動車、プラグインハイブリッドカーの電動車が52.1%。


乗用車の燃料別販売台数 構成比(一般社団法人日本自動車販売協会連合会調べ

つまり、エンジン車よりも電動車が勝っています。そして、電動車はすべて停止時にはエンジンが止まっています(もしくはエンジンがない)。いわばアイドリングストップしているわけです。


そもそもアイドリングストップを必要とするエンジン車も減ってきているのです。


振り返ってみれば、燃費向上のために生まれ、普及したアイドリングストップという技術ですが、徐々にその役割が終わって、淘汰(とうた)される時期を迎えようとしているのでしょう。


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鈴木 ケンイチ(すずき・けんいち)
モータージャーナリスト
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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(モータージャーナリスト 鈴木 ケンイチ)

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