審判団の茶番劇。VARが意味をなさない理由
サッカーキング2019年11月18日(月)18時0分
11月15日に発売となった雑誌『SOCCER KING』12月号では、「異変だらけの序盤戦、36のなぜ?」と題し、各国の序盤戦で生まれた36の疑問に迫っている。そんな雑誌『SOCCER KING』12月号から、一部コンテンツを公開!
WHY? 03
【PREMIER LEAGUE】
審判団の茶番劇。VARが意味をなさない理由
文=サイモン・ハート Text by Simon Hart
翻訳=田島 大 Translation by Dai Tajima
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images
※データはプレミアリーグ第10節終了時のもの
「願い事には気をつけろ」。陳腐な格言だが、今シーズンから導入されたプレミアリーグの最新テクノロジーにぴったりの表現だ。
プレミアリーグのビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)には問題がある。そう指摘するのは「ラヒーム・スターリングは足が速い」と言及するのと同じように、もう一般常識だ。そのスターリングが開幕節に「2.4センチだけ」飛び出していたとVARが判断した瞬間から、嫌な予感はしていた―。
残念ながら、その予感は的中してしまった。プレミアリーグはVARについて「“明らかな誤審”を正すために使われる」と断言していたが、もう“明らか”なんてどうでも良くなったようだ。VARによって、判定が少しでも公平になると期待した我々が馬鹿だった。そう思えるほど、10月下旬には酷い判定が続いた。
10月19日に行われたトッテナム対ワトフォードの一戦では、DFヤン・ヴェルトンゲンがFWジェラール・デウロフェウの足を引っ掛けたにもかかわらず、PKは与えられず、VARも主審の判定を容認した。その1週間後のブライトン対エヴァートン戦では、DFマイケル・キーンが相手FWの足を踏み、主審は意図しないものとしてプレーを流したものの、VARが干渉してブライトンにPKが与えられた。VARを担当したリー・メイソン審判は、このシーンを14回も見直してPKと判断したという。それのどこが“明らか”だというのか。恩恵を受けたブライトンのFWグレン・マレーでさえ「茶番だ」とあきれたほどだ。BBCのハイライト番組で司会を務めるギャリー・リネカーも、「キーンは完全に不可抗力で踏んだだけなのに……」と眉をひそめた。
こうなると、嫌でも勘ぐってしまう。審判団が、1週間前のVARの失態を挽回しようと、躍起になって判定に干渉したのではないかと。その翌日、敵地でのノリッジ戦で2本のPKをもらったマンチェスター・ユナイテッドのオーレ・グンナー・スールシャール監督も首をかしげた。「VARは審判を手助けするもの」と前置きしつつ、「1本目のPKのように、判定に時間がかかるのなら、それは“明らかなミスジャッジ”ではない」と非難した。
同じ日の夜、アーセナルファンも「明らかな」というフレーズが頭から離れず、眠ることができなかった。DFソクラティスがクリスタル・パレス戦で決勝点を決めたものの、VAR でゴールを取り消され、2-2 の手痛いドローに終わった。VAR を担当したジャレッド・ジレット審判は、直前のプレーにファウルを見つけたというが、誰がどう見ても、単に足が絡んで倒れただけで、どちらのファウルかさえ分からないシーンだった。
だから世論も、プレミアリーグに不信感を抱くようになった。今年8月、プレミアリーグは関係者を集めて得意げに説明していた。「VAR は判定の改善になる」。だが、改悪こそあっても改善には到底思えない。リネカーもアーセナル戦の判定について、SNSを通じて「VARはこのためにあるんじゃない」と嘆いた。「スタジアムのスクリーンとテレビで、リプレイ映像や審判同士のやり取りを流すべき。今の状態は無秩序だし、フットボール観戦を台無しにしている」と非難した。皮肉にも、同じタイミングで開催されていたラグビー・ワールドカップでは、「映像判定」がどれほど観客や視聴者にとって分かりやすいものかが実証された。
こうした問題を受けて、プレミアリーグはVAR を提供しているホークアイ社の「手足トラッキングシステム」の導入を検討するようだ。さらに、11月のリーグ定時総会で、主審がピッチ脇のモニターで確認する作業の解禁を協議するという。これまでプレミアリーグは試合の中断を最小限にとどめるため、ピッチ脇のモニターを使ってこなかった。
審判団によると、今シーズン、プレミアリーグではVAR を使用しながら開幕40 試合で4つの誤審があったという。これについて元審判員のキース・ハケットは、「ミスがあるのは、主審がピッチ脇のモニターで確認しないからだ」といら立ちを隠さない。FIFAの広報も、「VAR を導入してから、FIFAは主審にピッチ脇のモニターで確認してから判定を覆すかどうかを決めるように推奨してきた」と『Sky Sports』に語っている。
とはいえ、誤審の原因は確認不足だけではない。例えば、人間関係のしがらみも影響を及ぼす。VAR は、ゴールラインテクノロジーのように白黒はっきりしているわけではない。最終的に判定を下すのは機械ではなく、審判の見解なのだ。同じルールを用いても、映像を見る人によって判断は異なる。前述のブライトン対エヴァートン戦で、スティーヴ・マドリー主審は、VAR を担当した先輩審判の顔を立てて判定を覆した。その一方で、マンチェスター・U対リヴァプール戦で主審を務めた経験豊富なマーティン・アトキンソンは、VAR から助言を受けても自身の判定を曲げなかった。
確かに、主審がピッチ脇のモニターを確認すれば、この問題も少しは改善されるかもしれない。だが、これまでのプレミアリーグの対応を考えると、あまり期待しないほうが良さそうだ。
WHY? 03
【PREMIER LEAGUE】
審判団の茶番劇。VARが意味をなさない理由
文=サイモン・ハート Text by Simon Hart
翻訳=田島 大 Translation by Dai Tajima
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images
※データはプレミアリーグ第10節終了時のもの
「願い事には気をつけろ」。陳腐な格言だが、今シーズンから導入されたプレミアリーグの最新テクノロジーにぴったりの表現だ。
プレミアリーグのビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)には問題がある。そう指摘するのは「ラヒーム・スターリングは足が速い」と言及するのと同じように、もう一般常識だ。そのスターリングが開幕節に「2.4センチだけ」飛び出していたとVARが判断した瞬間から、嫌な予感はしていた―。
残念ながら、その予感は的中してしまった。プレミアリーグはVARについて「“明らかな誤審”を正すために使われる」と断言していたが、もう“明らか”なんてどうでも良くなったようだ。VARによって、判定が少しでも公平になると期待した我々が馬鹿だった。そう思えるほど、10月下旬には酷い判定が続いた。
10月19日に行われたトッテナム対ワトフォードの一戦では、DFヤン・ヴェルトンゲンがFWジェラール・デウロフェウの足を引っ掛けたにもかかわらず、PKは与えられず、VARも主審の判定を容認した。その1週間後のブライトン対エヴァートン戦では、DFマイケル・キーンが相手FWの足を踏み、主審は意図しないものとしてプレーを流したものの、VARが干渉してブライトンにPKが与えられた。VARを担当したリー・メイソン審判は、このシーンを14回も見直してPKと判断したという。それのどこが“明らか”だというのか。恩恵を受けたブライトンのFWグレン・マレーでさえ「茶番だ」とあきれたほどだ。BBCのハイライト番組で司会を務めるギャリー・リネカーも、「キーンは完全に不可抗力で踏んだだけなのに……」と眉をひそめた。
こうなると、嫌でも勘ぐってしまう。審判団が、1週間前のVARの失態を挽回しようと、躍起になって判定に干渉したのではないかと。その翌日、敵地でのノリッジ戦で2本のPKをもらったマンチェスター・ユナイテッドのオーレ・グンナー・スールシャール監督も首をかしげた。「VARは審判を手助けするもの」と前置きしつつ、「1本目のPKのように、判定に時間がかかるのなら、それは“明らかなミスジャッジ”ではない」と非難した。
同じ日の夜、アーセナルファンも「明らかな」というフレーズが頭から離れず、眠ることができなかった。DFソクラティスがクリスタル・パレス戦で決勝点を決めたものの、VAR でゴールを取り消され、2-2 の手痛いドローに終わった。VAR を担当したジャレッド・ジレット審判は、直前のプレーにファウルを見つけたというが、誰がどう見ても、単に足が絡んで倒れただけで、どちらのファウルかさえ分からないシーンだった。
だから世論も、プレミアリーグに不信感を抱くようになった。今年8月、プレミアリーグは関係者を集めて得意げに説明していた。「VAR は判定の改善になる」。だが、改悪こそあっても改善には到底思えない。リネカーもアーセナル戦の判定について、SNSを通じて「VARはこのためにあるんじゃない」と嘆いた。「スタジアムのスクリーンとテレビで、リプレイ映像や審判同士のやり取りを流すべき。今の状態は無秩序だし、フットボール観戦を台無しにしている」と非難した。皮肉にも、同じタイミングで開催されていたラグビー・ワールドカップでは、「映像判定」がどれほど観客や視聴者にとって分かりやすいものかが実証された。
こうした問題を受けて、プレミアリーグはVAR を提供しているホークアイ社の「手足トラッキングシステム」の導入を検討するようだ。さらに、11月のリーグ定時総会で、主審がピッチ脇のモニターで確認する作業の解禁を協議するという。これまでプレミアリーグは試合の中断を最小限にとどめるため、ピッチ脇のモニターを使ってこなかった。
審判団によると、今シーズン、プレミアリーグではVAR を使用しながら開幕40 試合で4つの誤審があったという。これについて元審判員のキース・ハケットは、「ミスがあるのは、主審がピッチ脇のモニターで確認しないからだ」といら立ちを隠さない。FIFAの広報も、「VAR を導入してから、FIFAは主審にピッチ脇のモニターで確認してから判定を覆すかどうかを決めるように推奨してきた」と『Sky Sports』に語っている。
とはいえ、誤審の原因は確認不足だけではない。例えば、人間関係のしがらみも影響を及ぼす。VAR は、ゴールラインテクノロジーのように白黒はっきりしているわけではない。最終的に判定を下すのは機械ではなく、審判の見解なのだ。同じルールを用いても、映像を見る人によって判断は異なる。前述のブライトン対エヴァートン戦で、スティーヴ・マドリー主審は、VAR を担当した先輩審判の顔を立てて判定を覆した。その一方で、マンチェスター・U対リヴァプール戦で主審を務めた経験豊富なマーティン・アトキンソンは、VAR から助言を受けても自身の判定を曲げなかった。
確かに、主審がピッチ脇のモニターを確認すれば、この問題も少しは改善されるかもしれない。だが、これまでのプレミアリーグの対応を考えると、あまり期待しないほうが良さそうだ。
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