【ライターコラムfrom松本】重圧を力に変えて“登頂”成功! 大混戦のJ2制し4年ぶりのJ1へ
サッカーキング2018年11月23日(金)18時11分
松本山雅FCが大混戦のJ2を制した [写真]=J.LEAGUE
中盤戦の1試合も最終節も『1/42』であることに変わりはない。ただ、1試合ごとの重みがズシリと増してくるのがリーグ最終盤。順位表と試合日程を見ながらあれこれ星勘定をして、場合分けをしながら希望的観測をしたくなるというものだ。
普段の練習場も、リーグ最終盤になるとにわかに物々しい雰囲気となる。通常のルーチンだと、週3回の取材機会に全て顔を出すのは地元紙の番記者など4人だけ。だが、大詰めは長野県内のテレビ各局や一般紙の記者などがぞろぞろとやってきて、マイクとペンを向ける。
2年前もそうだった。チームの誰もが、ズラリと並ぶテレビカメラに向かって「平常心」と口にしたが、第41節FC町田ゼルビア戦で17試合ぶりの黒星を喫して3位に転落した。J1昇格プレーオフも準決勝の最終盤で失点して敗退。そもそも、ここ2年間は最終節で力が入りすぎている傾向があった。2年前の横浜FC戦は逆転したものの、動きが重くビハインドを背負ってからようやく逆転勝ち。J1昇格プレーオフ進出が懸かった昨季は京都サンガF.C.になす術なく敗れていた。
だが今回は違った。首位攻防戦となった第39節大分トリニータ戦は0-1と敗れたものの、以降3試合連続のクリーンシートで2勝1分け。徳島ヴォルティスとの最終節はスコアレスドローだったが、大分も町田も引き分けたため勝ち点1差で悲願のJ2初制覇を成し遂げた。
重圧は、過去2年と同様かそれ以上にあったはず。だが、今回はなぜそれを超克できたのか。何人かの選手に話を聞くと、その要因がおぼろげながら浮き彫りになってくる。まずはゲームキャプテンの橋内優也。昨季加入だから、2年前の「トラウマ」は知らない。
「自分たちの成果として注目されているので、逆にありがたい。皆さんに関心を持ってもらっているということだし、頑張れば注目してもらえる。結果が出ているからこそ足を運んでくださる方もいるかもしれない。J1のとき(2015年)に離れた人たちを取り戻すチャンスだと思っている」
このコメントを聞いたのは最終節の2日前。気負うわけでも平静を装うでもなく、ハッキリと心境を語ってくれた。今夏に加入した今井智基は、多少の緊張は認めつつも「メディアやサポーターがたくさん来て周りのことが気になるところではあるけど、普段と変わらずやったつもり。途中加入だけど選手もサポーターも快く受け入れてくれて、すごくのびのびとプレーできている」と白い歯を見せていた。
そしていざ蓋を開けてみると、松本の選手たちは実にのびのびとプレーしていた。史上2番目となる19,066人のサポーターがサンプロ アルウィンに熱気を充満させる中、前線も中盤も最終ラインも普段通りかそれ以上のアグレッシブな守備を披露。田中隼磨は「プレッシャーはもちろん感じながら、高ぶる気持ちもあったけど、それも含めて絶対に勝つんだという強い気持ちで戦っていた」と振り返る。平常心と闘争心をコントロールし、過去の経験を糧にして、栄冠を手繰り寄せた。
最終的な勝ち点は77。松本がJリーグに参入して22チーム制になった2012年以降、優勝チームとしては最も少ない。シーズン開幕前、反町康治監督が「今年はどこも力の差がない」と話していた通りの激戦となった。その中で「1歩、1秒」に極限までこだわり抜き、ハードワークを貫いた松本がハナの差で制した格好だ。特に34失点という断トツの少なさを誇る堅守は、前線も含めて誰一人欠けることなく献身的に汗を流した成果だろう。
その代償とも言えるのが、得点力の少なさ。54得点はリーグ10位の数字で、2012年以降の優勝チームでは最少となっている。U-21日本代表FW前田大然は「(守備の貢献度が高かったが)前線はヒロさん(高崎寛之)もセルジ(ーニョ)もみんなが守備をするからこその山雅で、一人でもサボったらいけない。シーズンを通してそこは出せたが、去年に比べたらゴールの数が少ない。守備に回った分だけゴール数は少ないけど、それは言い訳にはできない。自分自身に力がなかったと感じている」と、優勝した喜びの中にも一抹の悔しさをにじませる。
個々の能力が段違いなJ1では、ゴールを奪うのがさらに難しい作業となることは想像に難くない。だが前田は「まだまだ成長できる部分もいっぱいあるので、J1の舞台で自分がどれだけ通用するのかを確かめたい」とさらなる飛躍を誓う。大きな重圧と過去の苦い経験を克服し、最高のフィナーレを迎えた松本。反町体制8年目の来季もさらなる苦難の道のりが待っているだろうが、磨き抜いたスタイルで粘り強く戦い抜いてほしい。
文=大枝令
普段の練習場も、リーグ最終盤になるとにわかに物々しい雰囲気となる。通常のルーチンだと、週3回の取材機会に全て顔を出すのは地元紙の番記者など4人だけ。だが、大詰めは長野県内のテレビ各局や一般紙の記者などがぞろぞろとやってきて、マイクとペンを向ける。
2年前もそうだった。チームの誰もが、ズラリと並ぶテレビカメラに向かって「平常心」と口にしたが、第41節FC町田ゼルビア戦で17試合ぶりの黒星を喫して3位に転落した。J1昇格プレーオフも準決勝の最終盤で失点して敗退。そもそも、ここ2年間は最終節で力が入りすぎている傾向があった。2年前の横浜FC戦は逆転したものの、動きが重くビハインドを背負ってからようやく逆転勝ち。J1昇格プレーオフ進出が懸かった昨季は京都サンガF.C.になす術なく敗れていた。
だが今回は違った。首位攻防戦となった第39節大分トリニータ戦は0-1と敗れたものの、以降3試合連続のクリーンシートで2勝1分け。徳島ヴォルティスとの最終節はスコアレスドローだったが、大分も町田も引き分けたため勝ち点1差で悲願のJ2初制覇を成し遂げた。
重圧は、過去2年と同様かそれ以上にあったはず。だが、今回はなぜそれを超克できたのか。何人かの選手に話を聞くと、その要因がおぼろげながら浮き彫りになってくる。まずはゲームキャプテンの橋内優也。昨季加入だから、2年前の「トラウマ」は知らない。
「自分たちの成果として注目されているので、逆にありがたい。皆さんに関心を持ってもらっているということだし、頑張れば注目してもらえる。結果が出ているからこそ足を運んでくださる方もいるかもしれない。J1のとき(2015年)に離れた人たちを取り戻すチャンスだと思っている」
このコメントを聞いたのは最終節の2日前。気負うわけでも平静を装うでもなく、ハッキリと心境を語ってくれた。今夏に加入した今井智基は、多少の緊張は認めつつも「メディアやサポーターがたくさん来て周りのことが気になるところではあるけど、普段と変わらずやったつもり。途中加入だけど選手もサポーターも快く受け入れてくれて、すごくのびのびとプレーできている」と白い歯を見せていた。
そしていざ蓋を開けてみると、松本の選手たちは実にのびのびとプレーしていた。史上2番目となる19,066人のサポーターがサンプロ アルウィンに熱気を充満させる中、前線も中盤も最終ラインも普段通りかそれ以上のアグレッシブな守備を披露。田中隼磨は「プレッシャーはもちろん感じながら、高ぶる気持ちもあったけど、それも含めて絶対に勝つんだという強い気持ちで戦っていた」と振り返る。平常心と闘争心をコントロールし、過去の経験を糧にして、栄冠を手繰り寄せた。
最終的な勝ち点は77。松本がJリーグに参入して22チーム制になった2012年以降、優勝チームとしては最も少ない。シーズン開幕前、反町康治監督が「今年はどこも力の差がない」と話していた通りの激戦となった。その中で「1歩、1秒」に極限までこだわり抜き、ハードワークを貫いた松本がハナの差で制した格好だ。特に34失点という断トツの少なさを誇る堅守は、前線も含めて誰一人欠けることなく献身的に汗を流した成果だろう。
その代償とも言えるのが、得点力の少なさ。54得点はリーグ10位の数字で、2012年以降の優勝チームでは最少となっている。U-21日本代表FW前田大然は「(守備の貢献度が高かったが)前線はヒロさん(高崎寛之)もセルジ(ーニョ)もみんなが守備をするからこその山雅で、一人でもサボったらいけない。シーズンを通してそこは出せたが、去年に比べたらゴールの数が少ない。守備に回った分だけゴール数は少ないけど、それは言い訳にはできない。自分自身に力がなかったと感じている」と、優勝した喜びの中にも一抹の悔しさをにじませる。
個々の能力が段違いなJ1では、ゴールを奪うのがさらに難しい作業となることは想像に難くない。だが前田は「まだまだ成長できる部分もいっぱいあるので、J1の舞台で自分がどれだけ通用するのかを確かめたい」とさらなる飛躍を誓う。大きな重圧と過去の苦い経験を克服し、最高のフィナーレを迎えた松本。反町体制8年目の来季もさらなる苦難の道のりが待っているだろうが、磨き抜いたスタイルで粘り強く戦い抜いてほしい。
文=大枝令
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