セルビアとの戦術合戦に勝利。ブラジルの攻撃を支える陰のキーマンは【W杯試合分析】
FIFAワールドカップ・カタール2022のグループステージ第1節が11月25日(日本時間)に行われ、グループGのブラジル代表とセルビア代表が対戦した。
後半17分に、ビニシウス・ジュニオールが敵陣ペナルティエリア左隅から放ったシュートのこぼれ球をリシャルリソンが押し込み、ブラジル代表が先制。同28分にも、ビニシウスの左サイドからのパスを受けたリシャルリソンがバイシクルシュートを放ち、追加点を挙げた。最終スコア2-0でブラジル代表が勝利している。
ブラジル代表のアタッカー陣の個人技が光った一方で、同代表のチッチ監督と、セルビア代表を率いるピクシーことドラガン・ストイコビッチ監督による戦術合戦が繰り広げられていた。ここでは両軍のハイレベルな攻防を振り返るとともに、ブラジル代表の勝因を解説する。
ブラジル代表のプレッシングが機能
基本布陣[3-4-2-1]のセルビア代表は、後方からのパス回しの際に2ボランチの一角ネマニャ・グデリが最終ラインへ降り、4バックを形成。自軍の変則4バックと、ブラジル代表の3トップ(ビニシウス、リシャルリソン、ハフィーニャ)との3対4の数的優位を自陣後方で作ろうとしていた。
このセルビア代表の隊形変化に対し、基本布陣[4-2-1-3]のブラジル代表は守備隊形を[4-2-4]に組み替え、プレッシングを敢行。自陣後方で数的優位を作れなかったセルビア代表の選手たちのパスの精度は落ち、試合の主導権がブラジル代表に渡った。
セルビア代表は最終ラインから細かくパスを繋ぐことにこだわっていたが、長身FWアレクサンダル・ミトロビッチにロングボールを送り、同選手が捌いたボールやこぼれ球を2シャドーのドゥシャン・タディッチとセルゲイ・ミリンコビッチ・サビッチが狙う作戦に切り替えていれば、攻撃機会がより増えたかもしれない。これは同代表の次戦以降に向けた課題と言えるだろう。見方を変えれば、ストイコビッチ監督仕込みのビルドアップを読みきったチッチ監督の作戦勝ちだった。
[4-2-4]によるハイプレスのみならず、ネイマールとリシャルリソンを前線に残す[4-4-2]、もしくはハフィーニャを最終ラインに組み込んだ[5-3-2]による自陣撤退守備も織り交ぜていたブラジル代表。このバリエーション豊富な守備は、今大会における大きな武器となりそうだ。
洗練されたブラジル代表のビルドアップ
ブラジル代表はセルビア代表のビルドアップを抑え込んだだけでなく、攻撃面においても相手の守備を凌駕した。
この試合でカナリア軍団のビルドアップを支えたキーマンは、右サイドバックのダニーロ。セルビア代表はミトロビッチとタディッチでチアゴ・シウバとマルキーニョスを捕捉し、S・ミリンコビッチ・サビッチがカゼミーロに密着することでブラジル代表のビルドアップを封じようとしたが、ダニーロが適宜2センターバック間に降り、パスコースを確保。ハイプレスからのボール奪取を狙うセルビア代表のアタッカー陣を迷わせた。
象徴的だったのが、ブラジル代表がセンターサークル付近でパスを回した前半6分20秒以降の場面。ここでもダニーロが2センターバック間に降りており、ボール保持者であるシウバに複数のパスの選択肢をもたらしている。このダニーロの巧みなポジショニングにより、シウバは余裕を持って敵陣でフリーになっていたルーカス・パケタにパスを供給した。その後のパスは繋がらなかったものの、ブラジル代表のビルドアップの多彩さが窺えた場面だった。
今大会のブラジル代表はビルドアップのみならず、敵陣ペナルティエリア手前でのパスワークも洗練されており、前半8分50秒以降の場面ではビニシウスがハーフスペース(ペナルティエリアの両脇を含む、左右の内側のレーン)からサイドに流れ、相手DFニコラ・ミレンコビッチを誘い出し。これにより開いたミレンコビッチとミロシュ・ベリコビッチの間にネイマールが侵入し、パスを受けたことでチャンスが生まれている。今後もビニシウスが囮になる攻撃が相手の脅威となりそうだ。
ネイマールの負傷交代が唯一の懸念材料だが、8年前のブラジル大会とは異なり、カナリア軍団の攻撃は今や同選手頼みではない。名将チッチのもとで、攻守両面のバリエーションが豊富になったセレソンが、今大会の主役となるかもしれない。
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