【F1第23戦無線レビュー(2)】「2台を戦わせることができる」選手権2位奪取を狙うルクレールが頭脳戦を展開
2023年F1第23戦アブダビGP。レース後半、コンストラクターズ選手権を争うメルセデスのジョージ・ラッセルは僚友ルイス・ハミルトンの戦いを気にかける。一方フェラーリではシャルル・ルクレールが、ペナルティを受けることが決まっているライバルをあえて先行させることで有利な状況を作り出そうとしていた。そしてレースを終えたマックス・フェルスタッペンとダニエル・リカルドは、恩師フランツ・トストに感謝を述べた。アブダビGP後半を無線とともに振り返る。
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レース中盤33周目に、4番手のランド・ノリス(マクラーレン)が2回目のピットイン。すぐ前を走っていたジョージ・ラッセル(メルセデス)は、アンダーカットを警戒して直後の34周目にピットに向かった。
マーカス・ダドリー(→ラッセル):アウトラップでプッシュだ!
これが功を奏して、ラッセルはノリスのコンマ8秒前でコース復帰。アンダーカットを防ぐことに成功した。
ノリスらに続き、8番手のフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)も36周目にピットイン。滅多に無線で不平を言わないアロンソだが、この日はペースが上がらないことがよほど不満だったようだ。
38周目
アロンソ:このレースで一番遅いクルマだ。しかもたっぷりと
それでも38周目に、ルイス・ハミルトン(メルセデス)をパス。しかし引き離すことができず、ハミルトンの猛追を必死に凌ぐ展開のなか、あわや2台が絡みかけた。
ハミルトン:僕にブレーキテストしやがった。ブレーキングゾーンのずっと前でね
アロンソは42周目にエステバン・オコン(アルピーヌ)、さらに46周目にカルロス・サインツ(フェラーリ)をかわして8番手に浮上。ハミルトンも、後を追う。
そんなハミルトンの戦いを、3番手ラッセルも気にしていた。選手権2位をフェラーリから守るには、ふたりが1ポイントでも多く取ることが不可欠だからだ。
41周目
ラッセル:ルイスはどんな感じだ?
ダドリー:いい仕事をしてる。自分のレースを戦っている
ラッセル:それってどういう意味だよ。チャンピオンシップを一緒に戦ってるんだよね? (選手権2位は)大丈夫なの?
ダドリー:僕らにできるのは、最善を尽くすことだけだ。今のところは、大丈夫だ
この時点ではラッセルが4番手で、ハミルトンは12番手だった。対するフェラーリはルクレールが3番手で、かろうじてメルセデスが選手権2位に留まっていた。しかし直後にルクレールが2番手に上がり、このままいけばフェラーリに2位を奪われてしまう。
一方、この週末低迷していたサインツだが、16番手スタートから9番手まで上がっていた。
42周目
サインツ:俺たちのレースはどうなってる、リッキー? 状況がちょっと見えないんだけど
リカルド・アダミ:できるだけスティントを伸ばそう。セーフティカーを待つしかない
アダミが「セーフティカーを待つしかない」と言ったのは、ここまでハードタイヤ→ハードタイヤと来て、2種類のコンパウンド使用義務を果たしていなかったからだった。しかし結局SCは出ず(アブダビでのSC導入率は非常に低い)、最後にソフトに履き替えたサインツは18位完走に終わった。
レース終盤が近づき、首位マックス・フェルスタッペン(レッドブル)と2番手ルクレールの差は7秒まで開いた。それでもルクレールは、必死に食い下がる。
46周目
シャビエル・マルコス・パドロス:一応言っておくけど、トラックリミットが2ストライクだよ
ルクレール:わかってる
47周目、セルジオ・ペレス(レッドブル)とノリスがターン6で接触した。
47周目
ノリス:僕にぶつかってきた
ペレス:僕に被せてきた
ヒュー・バード:ああ、見ていたよ
ノリス:あのドライビングはホントに危ない。あんなにスペースが空いていたのに
結局、ペレスに非があるとして、5秒ペナルティが科された。ペレスはこの裁定に納得がいかない。
ペレス:なぜペナルティなんだ。僕の方が前だったのに
ペレスの5秒ペナルティを知ったルクレールは、こんな無線を担当エンジニアに投げた。
ルクレール:ペレスとラッセルのギャップを教えてくれないか。2台を戦わせることができると思うんだ。選手権2位を奪うためにね
パドロス:了解した
ルクレール:ふたりのギャップは何秒だ? もしチェコが5秒以上のリードを築いていないなら、スリップを使わせようと思う。その後、セクター3で順位を譲ってもいい。どうせ(ペレスは)5秒ペナルティを受けるんだから
ペレスに順位を譲ってラッセルを4位に落とせば、選手権2位を確保できる。時速300km前後でバトルを繰り広げながら、そんな計算をやってのける。F1ドライバーの凄さが垣間見えた無線のやりとりだった。
ルクレールはペレスに2番手を譲ったものの、その後のペレスは大きくリードを築くことができず、ラッセルは3位。ハミルトンも9位に入ったことで、ルクレールの目論見は実らず。メルセデスの選手権2位が確定した。
フェルスタッペンは2位ルクレールに18秒差をつけて、最終戦も制覇。単一シーズンで19勝という大記録を打ち立てた。
ジャンピエロ・ランビアーゼ:全ミッション完了だ。なんて1年だったんだ。友よ、よくやった
フェルスタッペン:今回も素晴らしいレースだった。そして僕らは、やり遂げたんだね
クリスチャン・ホーナー代表:もう何も言うことはない。RB19との最後の時間を、十分に楽しんでくれ
フェルスタッペン:全員に感謝だよ。そしてなかでも、フランツ・トストに大きな感謝を捧げたい
F1デビュー時のボスだったトスト代表に、感謝を捧げるフェルスタッペン。一方、フェラーリの逆転に失敗したことを知らされたルクレールは、悔しさを抑えきれない。
パドロス:スローモードにしろ
ルクレール:それはいいから、コンストラクターズはどうなった?
パドロス:P3だ。
ルクレール:XXXXX。せめてバーンアウトをさせてくれ
パドロス:いや、だめだ
ルクレール:それもダメなのか。XXX!
ラッセル:やったのか?
ダドリー:ああ。グッジョブだ
ラッセル:よかった。本当にタフなシーズンだったけど、有終の美を飾れたね。来年はやってやろうぜ!
惜しくも11位完走だったダニエル・リカルド(アルファタウリ)も、トスト代表に感謝を述べた。
リカルド:ありがとう、フランツ。ビーチで、のんびりしてくれ
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