群雄割拠のフォーミュラEで勝つため、アウディ本体の技術者も動員した新型パワートレイン自社開発
アウディは11月26日、ABBフォーミュラE世界選手権の“シーズン7”に投入する新型マシン、『アウディe-tron FE07(e-トロンFE07)』を公開した。公開に先立ち、アウディスポーツはフォーミュラEチーム代表のアラン・マクニッシュ、ドライバーのルーカス・ディ・グラッシ、プロジェクトリーダーのトリスタン・サマースケール、パワートレイン開発責任者のステファン・アイヒャーらが出席する技術プレゼンテーションをオンラインで行なった。そのときに開示された情報をまじえながら、FE07の技術詳細に触れていこう。
その前に、フォーミュラEの状況を整理しておきたい。2014年から始まったフォーミュラEは秋に開幕し、翌年の夏に最終戦を迎えるカレンダーを組んできた。
シーズン7も慣例にのっとって“2020/21シーズン”としているが、実際に開幕するのは2021年1月16日である(サンティアゴePrix/チリ)。2月27日に開催される第4戦ディルイーヤ(サウジアラビア)までのカレンダーは確定しており、それ以降のスケジュールは順次発表される予定。新型コロナウイルス感染拡大の影響だ。
本来ならシーズン7から現行Gen2シャシーのアップデート版である『Gen2 EVO』が投入されるはずだった。Gen2 EVOは主にボディワークが変更されており、よりフォーミュラカーらしいルックスになっている。
だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、Gen2 EVOの投入はシーズン8(2021/22)に先送りされることになった。コスト削減が狙いだ。
こうした状況を受け、シーズン7の技術面はシーズン6を引き継いだ格好で行われる。目立った違いは、最低重量(ドライバーの全装備最低重量80kgを含む)が900kgから903kgへと3kg引き上げられることくらいだ。モーターの出力規定に変更はなく、最高出力は250kW。レースでは200kWで走るのが基本で、アタックモード時のみ235kW、ファンブースト使用時は250kWを引き出すことが可能だ。
モーターとインバーター、ギヤボックスはチームが独自に開発することが可能(他チームから購入してもいい)な点に変わりはない。ギヤボックスケーシングが独自に開発できるので、付随してリヤサスペンションの仕様変更も可能になる。また、ドライブシャフトも変更可だ。
シーズン1(2014/15)からフォーミュラEに参戦しているアウディは、7作目のe-tron FE07で大きな変更を行なった。これまでは技術パートナーであるシェフラーと共同でパワートレインを開発していたが、初めてインハウスで完全に新しいパワートレインを開発した。
それが、モーター/ジェネレーターユニット(MGU)とインバーターがセットになった『アウディMGU05』だ。アイヒャーは「競争力を保つには、自分たち自身でパワートレインを開発する必要があると判断した。アウディ本体から専門の技術者を引き入れて開発に取り組んだ」と説明した。
■限られたエネルギーから以下に効率よく出力できるかがカギ
MGU05の技術的な特徴を列記すると次のようになる。モーターは内側ローターコンセプト(外側がステーター)。外部マグネット(内部に埋め込んでいない)で、効率的な冷却システムを備えている。交流モーターなのはもちろんだが、量産電動車両で一般的な3相交流ではなく、6相交流システムなのが特徴だ。
ポルシェがル・マン24時間レースをシリーズの一戦に含むWECに投入していた919ハイブリッドも6相交流モーターを採用していた。6相交流は3相交流に比べて制御性が高いのが特徴だ。
公開されたMGU05の写真を見ると、インバーターの上にMGUが載った状態になっているが、車両搭載時はバッテリーの背面にインバーターが張り付き、その後方にMGUが位置するレイアウトになる。
つまり、写真の奥のほうに90度倒した状態が正規の搭載状態だ。MGU05はCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)製のギヤボックスケーシング内に収まる。テクニカルレギュレーションでは、ギヤボックスの変速段は最大6まで認められているが、シーズンを経るごとに段数が減り、シーズン5以降は全車がシングルギヤを採用している。
低速から高速まで効率良くカバーするには複数段のほうが有利だが、段数が増えれば重量増につながるし、F1と違ってアップシフト時のトルク切れを解消するシームレスシフトは禁止されているため、トルク切れによる失速が避けられない。
一方、シングルギヤで低速から高速までカバーする場合はモーターの体格が大きくなりがちだ。しかし、そのデメリットを考えに入れても総合的に考えればシングルが有利との考えに落ち着いている。アウディに関していえば、シーズン2と3は3速で過ごしたが、シーズン4でシングルギヤに切り替え、現在に至っている。
MGU05の開発コンセプトは、軽量化と高効率化だ。前型の重量は明かされていないが、MGU05の重量は35kg以下、システム効率は97%以上と発表されている。ドライブトレイン全体の効率は95%以上ということだ。
効率が重要なのはいうまでもない。なぜなら、レース中に使用できる電気エネルギーは52kWhに定められているからだ。1%の効率は0.52kWh分のエネルギーに相当する。少しでも効率を上げて、走りに使えるエネルギーを増やしたいのだ。
2016/17年王者であるアウディのルーカス・ディ・グラッシは、「残念ながら、効率の向上を体感するのは不可能。本当に小さな差でしかないからだ。それより、エネルギーマネジメントがレース結果に与える影響は大きく、入念に準備していきたい」とコメントした。
軽量化は前後重量配分を適正化する意味で重要だ。最低重量と実重量との差を大きくし、浮いた分をバラストに充てたい。スチールではなくカーボン製ドライブシャフトを採用しているのも、前後重量配分適正化の観点からだ。
「時間をかけて入念に準備してきたので、コロナ禍でもシーズン開幕に開発を間に合わせることができた」とマクニッシュ。シーズン3以来のドライバーズタイトル、シーズン4以来のチームタイトル獲得なるか、自社開発の新パワートレインを採用したアウディスポーツ・アプト・シェフラーの走りに注目だ。
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