逆転戴冠も“失意と猛省”のGRスープラ開発陣。火山灰の影響は三社三様?【2021スーパーGT総集編】
レギュレーションによって限定された領域ながら、緻密な車両開発が行われているスーパーGT・GT500クラス。その開発成否が、ときに年間成績を左右することは言うまでもない。2021シーズン終了後、GT500を戦う3メーカーへ行った取材のなかから、逆転タイトルを獲得したトヨタGRスープラ開発陣営のシーズン総括をお届けする。
■1時間で3基のエンジンが壊れたSUGO
「最悪な年でした」というのが、TRD(TCD)でエンジン開発を率いる佐々木孝博氏による、2021年シーズンを総括した言葉だ。理由は「1時間にエンジンを3基壊したから」である。
第5戦SUGOの話をしている。このイベントでトヨタは、GRスープラ全車(6台)に、2基目のエンジンを投入した。順調に仕上げたはずのそのエンジンが、壊れたのである。性能を上げたこととはまったく関連のないトラブルだったが、壊れたのは事実だった。
「決められた基数で全車、シーズンを走り切ること。その基数のなかでできる限りの性能を発揮し、成績に貢献することをモットーとしてやってきました。どのような理由であれ壊してしまい、ものすごく迷惑をかけてしまった。そこが反省点で、猛省しています」
エンジンを壊してしまうことになった直接の原因は、エアクリーナーにデブリが詰まったことにあった。佐々木氏が悔やむのは、そうなった場合でも最悪の事態を防ぐための手立てを事前に準備しておくべきだった点にある。フェイルセーフ的な機能だ。そうすれば性能は大幅に落ちるものの、壊さずに済んだ。壊さなければ、追加のエンジンを投入してペナルティを受けることもなかった。
「エンジンを預かる身としては、そこまで考えておかなければいけなかったということです。もちろん、ワーニングなり不具合が起きた場合にエンジンを救う制御は入れています。ただ、今回の場合は富士山でいうと7合目、8合目まで登ってしまった感じでした。そこまでは我々としては想定外というか保証していなかったので、その意味で救えなかった……というのが反省点です」
■燃費を5%以上改善
振り返ってみれば、20年も反省だった。最終戦の最終コーナーを立ち上がったところでガス欠症状により失速し、これが原因で手中に収めかけていたタイトルを失った。そのため、燃費について反省し、改善に取り組んだ。
「昨年のもてぎは燃費で苦しみました。自分たちの分析ではホンダさんに対して5%負けていた。その分析から、今年は追い付こうとドラビリを悪くすることなく5%以上改善しました。(TRDの)みんなが頑張ってくれたおかげで、同等まで持っていくことができました。一方で馬力の見方をすると、昨年もそれほど性能差はないと思っていましたが、今年も横並びだったと思っています」
20年は佐々木氏に言わせれば「他愛もない部品」に足を引っ張られる格好で冷却水系統に不安を抱えていたため、性能アップを行なうにしても「ビクビク不安を抱えながら」臨んでいた。その点は解消され、自信を持って性能向上に取り組んだ。「もともと持っていた性能を発揮できるようになったにすぎない」と、佐々木氏はあくまで謙虚だ。
開発領域は各社共通している。燃焼のスピードを上げて燃料が持つエネルギーの変換効率を高め、燃焼圧を高めていくことだ。極論すると開発領域はその部分だけということになり、20年との対比でいえば「何の不安もなく性能を出し切ることができる」状態だ。
「熱効率の点で限界……とは言いませんが、いいところまで来てしまっている。じゃあ『フリクションを減らしますか』となっても、それで何パーセント減らせるの? と。そこに多額の開発資金を費やすのは違うでしょう。限られたリソースをどう効率良く使うかを考えていかなければいけません」
費用対効果を考えた場合、投じたリソースに対するゲインが最も大きい開発領域は、燃焼ということになる。その判断は各社で共通しており、TRDだけが例外ではない。
20年とは異なり、不安を抱えずに2基目で順当に性能を上げることができていた。巻き返しを図るべく臨んだSUGOでの出来事は、チームの出鼻をくじいてしまうことになった。エンジンが壊れた原因は性能向上のために手を入れたことが原因ではないのだが、周囲に「手を加えたからでは?」との疑念を生むことにつながった。
開幕戦の決勝では1位から4位を独占したものの、第2戦以降は鳴りを潜める格好となっていたので、なおさら2基目に対する期待は大きかった。その2基目が、理由はどうあれ1時間で3基も壊れてしまったのである。重く受け止め、猛省する理由はそこにある。22年に向けて明るい材料を探すとすれば、SUGOで経験したトラブルに関しては、第6戦ではすでに対策が済んでいることだ。
そのオートポリスに関して。ニスモは(開催直前に噴火した阿蘇山の)火山灰の影響で燃焼に影響が出たと話した。ホンダは「フィルターでトラップしきれないものがパイピングの中にあったので、調べたら火山灰系だった」(佐伯昌浩氏)と証言した。燃焼への悪影響はなかったという。TRDはといえば「火山灰があったという認識がありません。それよりSUGOの土のほうが手強いです」という反応だった。三者三様だ。
※この記事は『2021-2022スーパーGT公式ガイドブック総集編(auto sport臨時増刊)』(2021年12月24日発売)内の企画からの一部抜粋・転載です。
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