【ライターコラムfrom清水】エスパルスのアカデミーがすごい! 育成組織が過去最高の成果を挙げている背景とは?
サッカーキング2018年12月31日(月)12時52分
清水のアカデミーからトップチームに巣立った立田、北川、滝 [写真]=J.LEAGUE
清水エスパルスは2015年のJ2降格、2016年のJ1復帰、そして2017年のギリギリでの残留を経て、2018シーズンは5年ぶりにJ1のトップ10(8位)に食い込んだ。22歳の北川航也が日本代表に初選出され(清水では8年ぶり!)、金子翔太、立田悠悟ら若い選手も大きく成長。上位クラブの一角に返り咲けそうな気配が感じられる1年となった。
クラブの今後に期待を抱かせる根拠の一つとして、アカデミー(育成組織)が一足先に大きな成果を挙げていることも大きい。トップチームで言えばA代表の北川(2015年加入)、Uー21代表の立田(2017年加入)、Uー19代表の滝裕太(2018年加入)はいずれもクラブのジュニアユースから巣立ったアカデミー育ち。清水ユース出身選手のA代表入りは、2002年の日韓ワールドカップなどで活躍した市川大祐以来2人目のことだった。
ユースチームは今季、夏のクラブユース選手権で16年ぶりの優勝を果たし、Jユースカップでは準優勝、プレミアリーグ・イーストでは3位と過去最高の成績を残した。そのチームからGK梅田透吾のトップ昇格も決まっている。
一方、2016年に全国大会3冠を成し遂げ、2017年は春のJFAプレミアカップ(当時)で優勝、夏の日本クラブユース選手権と冬の高円宮杯ではベスト4に入ったジュニアユースは、2018年春のJFA全日本Uー15サッカー大会(旧プレミアカップ)で3連覇を達成し、全国大会で7回連続ベスト4以上(うち優勝5回)という誇るべき結果を残している。昨年の本連載(2017年5月掲載)でも紹介したように、他のクラブにない独自の取り組みを導入しながら確実に成果を上げているのも特筆すべきだ。
大都市圏と比べて子どもの人口が少ない地方都市でこれだけの結果を出しているのは、“サッカーどころ”静岡という地域性を差し引いても、クラブとしての育成力が確かなことの証明と言える。もちろん、そうした成果は一朝一夕で出せるものではない。2007年にはユースチームがプリンスリーグ東海1部(当時)から2部に降格するなど低迷した時期があった。育成組織を改革し、時間をかけて着実に階段を上がってきたからこそ今がある。
その改革は2005年、育成部を統括する伊達倫央 育成事業本部長と山下芳紀 育成部長のコンビが同職に就いたところから本格的に始まった。伊達本部長は当時のことを次のように振り返る。
「今では考えられないですが、その頃はジュニアユースからユースに上げたい選手が高校に行ってしまうことが多かったんですよ。高校サッカーに憧れて。だから僕と山下の最初の仕事は、力のある選手をユースに昇格させることでした」
プリンスリーグ東海2部へ降格した2007年は、高校サッカーに流れる選手が多かった世代だ。まずはジュニアユースからユースへの流れを確実にして一貫指導を徹底。同時にジュニアユースのセレクションにもテコ入れを図り、山下育成部長を中心に地元の小学生チームとの関係を密にして、より高い可能性を持った12歳を発掘することに努めた。伊達・山下コンビが主導した最初のジュニアユースセレクションで入った世代(2006年)では犬飼智也(現・鹿島)が、2世代目では石毛秀樹がトップに昇格している。
2部降格をきっかけに、2008年にはジュニアユースとユースのコーチ陣を大幅に刷新。その際にユースの監督に就任したのがクラブOBの大榎克己氏(現ゼネラルマネージャー補佐)だ。ジュニアユースではUー14監督に横山貴之、Uー13監督に久保山由清(現トップチームコーチ)が就任した。現在ユースチームを指揮している平岡宏章監督は新潟で指導者としての経験を積み、2011年にユースのコーチとして故郷の清水に帰ってきた。そして2014年7月に大榎監督がトップチームの監督に就任するとユースの監督を引き継いだ。
「育成年代の指導者は特に経験が重要ですし、最初からすごい指導者になれるわけではありません。ウチのジュニアユースは一世代を3年間同じ指導者が見るという形でやっていますが、それが2周り、3周りしてくると、1年生の時に何をしなければいけないのかという逆算もできるようになってきます。10年以上やってきた岩下(潤)や横山はそうした経験を積みながら、全国優勝を経験して、プロ選手も育てて、経験値は相当高まっていると思います。平岡にも同じことが言えますし、指導者も時間をかけて成長してきていると思います」(伊達本部長)
岩下監督は立田や3冠世代の中学3年間を指導し、横山監督は北川、水谷拓磨、宮本航汰、滝らを3年間指導して、彼らの基盤を作りあげた。ユースの平岡監督も、開幕前は戦力的に不安のあった今季のチームを大きく成長させ、過去最高の成績に導く手腕を見せた。
13年ぶりに決勝に進出したJユースカップでは、スタメン全員がジュニアユース出身という試合も多く、伊達本部長がメンバー表を手に「これ見てくださいよ」とうれしそうな表情を見せていたのが印象的だった。この大会で清水ユースが見せた大きな特徴は、誰が出ても遜色ない力を発揮し、チームとして同じサッカーができるということだった。ケガ等でキャプテンの齊藤聖七やGK梅田ら主力を欠いても、代わりにチャンスを得たGK天野友心(3年)やMF丸山優太朗(2年)、MF中里圭佑(1年)らが活躍し、決勝進出の原動力となった。トップ昇格1年目の滝はその印象を次のように語る。
「僕がいた頃よりも一人ひとりがすごくレベルアップしていて、試合を観てビックリしました。3年生だけじゃなく1、2年生も能力が高くて、誰が出てもしっかりやれるし、全体的な基準が高くなっていると感じました」
試合に出ていない選手も含め、どの選手も最低限これはできるというスタンダード(基準)の高さ。それは守備面でも攻撃面でも明確にピッチ上に表れていた。それが清水アカデミーの大きな強みであり、育成力の証明でもある。ただ、北川ほどのタレントは「10年に一人いるかどうか」(伊達本部長)の存在で、毎年現れるわけではない。
「静岡から原石を探して育てるのは10年単位の仕事で、すぐに成果を出すことはできません。(北川)航也が出てくれたのは大きいですが、育成の指導者にいつも言っているのは継続と我慢。一つの試合でダメでも我慢しながら使っていく、同じ考え方で継続して取り組んでいくというのが、育成では大事だと僕らは考えています。またジュニアユースのセレクションも重要で、この子がどう伸びていったらユースやトップにつながるかという“見る目”がないと難しい。その意味でもスタッフ全員がそういう目を持ち始めてきたのは大きいと思っています」(伊達本部長)
伊達・山下コンビが改革に着手して14年目。畑を耕して、種をまいて、水や肥料をやり続けて、今はようやく少しずつ花が咲いてきたという状況だ。
2015年にはジュニア(Uー12)チームが創設され、その一期生が今の中学1年生にあたる。来季はその世代がUー15チームにも絡んでくる。ユースは中学3冠世代が高3になり、2年生も含めて特徴のある選手が多い。こちらも楽しみなシーズンとなるだろう。
育成組織の目的がプロ選手の育成である以上、いくら平均値が高くても突出した選手が出てこなければ意味がないという見方もある。ただ、北川ほどではなくとも他の選手にない特徴を持った選手はしばしば現れる。その才能が花開くかどうかは、育成環境によるところが大きい。
そう考えると、経験値の高い指導者がいて、全体のスタンダードや意識が高いチームは大きなアドバンテージがある。リオネル・メッシがバルセロナのカンテラで育ったことは、彼の才能をより大きく伸ばす上でプラスだったか、マイナスだったか。その答えは明らかだろう。静岡の地域性を背景に育成型クラブを目指している清水エスパルスにとって、アカデミーが進んでいる道は正しいのか。その答えは明らかなのではないだろうか。
文=前島芳雄
クラブの今後に期待を抱かせる根拠の一つとして、アカデミー(育成組織)が一足先に大きな成果を挙げていることも大きい。トップチームで言えばA代表の北川(2015年加入)、Uー21代表の立田(2017年加入)、Uー19代表の滝裕太(2018年加入)はいずれもクラブのジュニアユースから巣立ったアカデミー育ち。清水ユース出身選手のA代表入りは、2002年の日韓ワールドカップなどで活躍した市川大祐以来2人目のことだった。
ユースチームは今季、夏のクラブユース選手権で16年ぶりの優勝を果たし、Jユースカップでは準優勝、プレミアリーグ・イーストでは3位と過去最高の成績を残した。そのチームからGK梅田透吾のトップ昇格も決まっている。
一方、2016年に全国大会3冠を成し遂げ、2017年は春のJFAプレミアカップ(当時)で優勝、夏の日本クラブユース選手権と冬の高円宮杯ではベスト4に入ったジュニアユースは、2018年春のJFA全日本Uー15サッカー大会(旧プレミアカップ)で3連覇を達成し、全国大会で7回連続ベスト4以上(うち優勝5回)という誇るべき結果を残している。昨年の本連載(2017年5月掲載)でも紹介したように、他のクラブにない独自の取り組みを導入しながら確実に成果を上げているのも特筆すべきだ。
大都市圏と比べて子どもの人口が少ない地方都市でこれだけの結果を出しているのは、“サッカーどころ”静岡という地域性を差し引いても、クラブとしての育成力が確かなことの証明と言える。もちろん、そうした成果は一朝一夕で出せるものではない。2007年にはユースチームがプリンスリーグ東海1部(当時)から2部に降格するなど低迷した時期があった。育成組織を改革し、時間をかけて着実に階段を上がってきたからこそ今がある。
その改革は2005年、育成部を統括する伊達倫央 育成事業本部長と山下芳紀 育成部長のコンビが同職に就いたところから本格的に始まった。伊達本部長は当時のことを次のように振り返る。
「今では考えられないですが、その頃はジュニアユースからユースに上げたい選手が高校に行ってしまうことが多かったんですよ。高校サッカーに憧れて。だから僕と山下の最初の仕事は、力のある選手をユースに昇格させることでした」
プリンスリーグ東海2部へ降格した2007年は、高校サッカーに流れる選手が多かった世代だ。まずはジュニアユースからユースへの流れを確実にして一貫指導を徹底。同時にジュニアユースのセレクションにもテコ入れを図り、山下育成部長を中心に地元の小学生チームとの関係を密にして、より高い可能性を持った12歳を発掘することに努めた。伊達・山下コンビが主導した最初のジュニアユースセレクションで入った世代(2006年)では犬飼智也(現・鹿島)が、2世代目では石毛秀樹がトップに昇格している。
2部降格をきっかけに、2008年にはジュニアユースとユースのコーチ陣を大幅に刷新。その際にユースの監督に就任したのがクラブOBの大榎克己氏(現ゼネラルマネージャー補佐)だ。ジュニアユースではUー14監督に横山貴之、Uー13監督に久保山由清(現トップチームコーチ)が就任した。現在ユースチームを指揮している平岡宏章監督は新潟で指導者としての経験を積み、2011年にユースのコーチとして故郷の清水に帰ってきた。そして2014年7月に大榎監督がトップチームの監督に就任するとユースの監督を引き継いだ。
「育成年代の指導者は特に経験が重要ですし、最初からすごい指導者になれるわけではありません。ウチのジュニアユースは一世代を3年間同じ指導者が見るという形でやっていますが、それが2周り、3周りしてくると、1年生の時に何をしなければいけないのかという逆算もできるようになってきます。10年以上やってきた岩下(潤)や横山はそうした経験を積みながら、全国優勝を経験して、プロ選手も育てて、経験値は相当高まっていると思います。平岡にも同じことが言えますし、指導者も時間をかけて成長してきていると思います」(伊達本部長)
岩下監督は立田や3冠世代の中学3年間を指導し、横山監督は北川、水谷拓磨、宮本航汰、滝らを3年間指導して、彼らの基盤を作りあげた。ユースの平岡監督も、開幕前は戦力的に不安のあった今季のチームを大きく成長させ、過去最高の成績に導く手腕を見せた。
13年ぶりに決勝に進出したJユースカップでは、スタメン全員がジュニアユース出身という試合も多く、伊達本部長がメンバー表を手に「これ見てくださいよ」とうれしそうな表情を見せていたのが印象的だった。この大会で清水ユースが見せた大きな特徴は、誰が出ても遜色ない力を発揮し、チームとして同じサッカーができるということだった。ケガ等でキャプテンの齊藤聖七やGK梅田ら主力を欠いても、代わりにチャンスを得たGK天野友心(3年)やMF丸山優太朗(2年)、MF中里圭佑(1年)らが活躍し、決勝進出の原動力となった。トップ昇格1年目の滝はその印象を次のように語る。
「僕がいた頃よりも一人ひとりがすごくレベルアップしていて、試合を観てビックリしました。3年生だけじゃなく1、2年生も能力が高くて、誰が出てもしっかりやれるし、全体的な基準が高くなっていると感じました」
試合に出ていない選手も含め、どの選手も最低限これはできるというスタンダード(基準)の高さ。それは守備面でも攻撃面でも明確にピッチ上に表れていた。それが清水アカデミーの大きな強みであり、育成力の証明でもある。ただ、北川ほどのタレントは「10年に一人いるかどうか」(伊達本部長)の存在で、毎年現れるわけではない。
「静岡から原石を探して育てるのは10年単位の仕事で、すぐに成果を出すことはできません。(北川)航也が出てくれたのは大きいですが、育成の指導者にいつも言っているのは継続と我慢。一つの試合でダメでも我慢しながら使っていく、同じ考え方で継続して取り組んでいくというのが、育成では大事だと僕らは考えています。またジュニアユースのセレクションも重要で、この子がどう伸びていったらユースやトップにつながるかという“見る目”がないと難しい。その意味でもスタッフ全員がそういう目を持ち始めてきたのは大きいと思っています」(伊達本部長)
伊達・山下コンビが改革に着手して14年目。畑を耕して、種をまいて、水や肥料をやり続けて、今はようやく少しずつ花が咲いてきたという状況だ。
2015年にはジュニア(Uー12)チームが創設され、その一期生が今の中学1年生にあたる。来季はその世代がUー15チームにも絡んでくる。ユースは中学3冠世代が高3になり、2年生も含めて特徴のある選手が多い。こちらも楽しみなシーズンとなるだろう。
育成組織の目的がプロ選手の育成である以上、いくら平均値が高くても突出した選手が出てこなければ意味がないという見方もある。ただ、北川ほどではなくとも他の選手にない特徴を持った選手はしばしば現れる。その才能が花開くかどうかは、育成環境によるところが大きい。
そう考えると、経験値の高い指導者がいて、全体のスタンダードや意識が高いチームは大きなアドバンテージがある。リオネル・メッシがバルセロナのカンテラで育ったことは、彼の才能をより大きく伸ばす上でプラスだったか、マイナスだったか。その答えは明らかだろう。静岡の地域性を背景に育成型クラブを目指している清水エスパルスにとって、アカデミーが進んでいる道は正しいのか。その答えは明らかなのではないだろうか。
文=前島芳雄
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