育児の二大誤解「ママは皆、赤ちゃんの爪切りが得意」「パパはサポート役」が危険な理由|元保育士・小崎校長が伝えたいこと
男性育休が推進される最近では、以前より夫婦で育児に向き合う家庭が増えているように思えます。一方で、依然として「育児の中心は母親」という風潮も根強く残っています。自ら育休を取得し、夫婦で3人の子どもを育て上げた経験を持つ小崎恭弘先生に「男性の育児」について聞きました。
【これまでの記事】<第一回>子どもの人生で「親のリベンジ」はあかん!<第二回>“両親の違い”から生まれる大きなメリット
お話を聞いた方 小崎恭弘 先生 大阪教育大学教育学部教員養成課程家政教育講座教授・大阪教育大学附属天王寺小学校長1968年生まれ。兵庫県出身。NPO法人ファザーリング・ジャパン顧問。兵庫県西宮市初の男性保育士として施設・保育所に12年間勤務。3人の男の子それぞれに育児休暇を取得し、それらの体験をもとに「父親の育児支援」研究を始める。専門は「保育学」「児童福祉」「子育て支援」「父親支援」。父親の育児、ワークライフバランス、子育て支援、保育研修等、全国で年間60本程度講演会等を行い、これまで2000回の公演実績を持つ。
出産直後の親としてのレベルは「ママ >パパ」。その差は縮まる?
——「父親は母親よりも親として自覚するのがゆっくりになる」とよく言われますが、それはなぜなのでしょうか?
女性は妊娠・出産を経験してママになります。言わば妊娠・出産が “イニシエーション” ※の役割を果たしているわけです。
※イニシエーション:通過儀礼。かつての状態から新しい状態に変化するための儀礼
妊娠すると「身体」が変わる。そして、お腹が大きくなると妊娠前のようにできなくないことがでてきて、「行動」が変わります。行動が変わると今度は、自分が産むと覚悟するなど「意識」が変わるんです。
妊娠して変化する当事者意識をもって妊娠・出産や育児の知識を得ようとするし、周囲の人もママに色んなことを言ってくるし、そのうちママ友ができて情報交換したり——そうした経験があって、女性は赤ちゃんが生まれた時にはすでに親としてレベルが高くなってるということです。
——では、身体的な変化のない男性側はどうなんでしょうか?
心身ともに大きく変化するママに比べ、パパ自身には子どもが誕生するまで変化はほとんど起こらないですよね。お腹が大きくなることもないし、妊婦さんに周囲の人が色々言ってくることがあっても男性側にはあまりないし、誕生前からパパ友ができる人も少ないでしょう。
もちろん、パパなりに「子どもが生まれるからがんばろう!」と仕事に没頭することはあるかもしれない。でも子どもが生まれた直後は、子育ての面ではママの方が親としてのレベルが上なの。これが想像以上にパパが育児に関わらない大きな理由になることもあります。
「パパ=ママのサポート役!」……ではない!?
——産後、パパにやってほしいことがいろいろあっても、思ったように行かない現実もありますね。
ママもパパにいちいち言うのはめんどうだし、できるまで付き合うにも自分の身体もしんどい状態。それならば……と、自分ですべての育児を抱え込んだりする。乳児のうちは授乳があるから、なおさらママが育児の中心になりやすい。そうするとますますレベルの差が開き、一層パパが育児に関わらなくなってしまいます。
でもね、母乳を直にあげることは別として、妊娠すること・出産すること以外は全部パパにもできるから。そのことを、パパはもちろん、まわりの人も、そしてママ自身も理解することが大事なんですよ。
——「ママほどうまくできない」「自分よりママのほうが適任」と尻込みしてしまうパパもいるようです。
企業でも育休を取るパパが珍しくなくなったけど、その一方で、「育児はしんどい」「できない」と口にするパパもいる。でも、ママは育児がしんどくても、しんどいと言われへんじゃない。ママがそう言いにくい社会・言えない環境の中にいるのに、どうしてパパだけが「育児苦手です、しんどいです」と言える?
たとえば、赤ちゃんの爪を切るのは「怖くてできません」って言うパパがいるけど、ママだって怖かったりわからんながらに、大変やけどやってんねん。
——パパ側の意識はどのように変えていけばいいのでしょうか。
みんなどこかで「パパは育児のスーパーサブや」と思ってるでしょ。
ママが妊娠・出産の経験を経て先行して“親”になる一方で、パパは社会全体から「遅れて来た親」「二番目の親」という扱いを受けてしまう現実があります。そうすると、パパは「育児についてはママのサポート」「外で稼いでくるのがメイン」という役割になってしまうんです。
でも違う。父親も親の1人やねん。父親も親としての主体性を獲得できるんですよ。パパは「サブ」じゃなくて、「メインの親」になればいいんです。
最初はうまくいかないでしょう。初めから完璧にこなせるわけがない。知識や自覚も足りず、少し頼りなく思えるかもしれない。それでも、パパはママと同じ親なんです。だから、パパにもママにも「2人はゆっくり親になる」「子どもと一緒に親になっていく」という気持ちで、諦めずにいてほしいな。
アップデートしつつ、子どもと一緒に親になっていこう
保育士さんはすごいなーと思う親御さんもいるかと思いますが、それは、たくさんの子どもを見てる分、理解が進んでいるということ。
1人目の子どもが3歳だったら、親も3年しかやってない。ママもパパも自分の子どもでしか経験を積んでいないから、子どもを理解しきれず、育児に迷うこともたくさんあるでしょう。でも、それでいいの。「子どもと一緒に親になっていく」と思ったらいいんです。
「親になっていく」とは、「変化していく」ということ。今は子育て中でも、いつかまた夫婦2人きりになります。家族は常に変化し、今の状態は永遠に続きません。
だから、七五三、卒園・卒業式、入園式・入学式……そういった子どもの行事を節目として、パソコンのOSをアップデートするように、家族の変化に合わせて “親の価値観のOS” もアップデートしていきましょう。「いまだにMS-DOSのままだった!」なんてことにならないようにしたいですね。
(解説:小崎恭弘先生、文・取材:大崎典子)
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